第二十九話 プレゼント決定①
姫宮さんのプレゼント、決定!
ショッピングモールは混雑していた。
デートの下準備として、施設内の見取り図は頭に入っている。だが、肝心のプレゼントが決まっていないので、どこに向かえばいいかわからない。
「とりあえずどこを見て回ろうか。候補に上げた品を取り揃えている店が順当かな」
「いいえ、むしろ逆じゃないかしら」
「どうして?」
「候補に上げたものは、その気になればいつでも購入できるわ。でも、あなたもそれらが月島さんのプレゼントに最適とは考えていないでしょう? だったら、時間のあるうちに適当に見て回った方がいいわ。新しい発見があるかもしれないもの」
なるほど、一理ある。
むしろ三理くらい先を行った素晴らしい意見だ。反対する理由はないので、早速ぶらぶらする。
「アクセサリーがダメなら、服はどうかしら」
との言葉で、当面の目的地が決定した。
姫宮さんもプレゼントをなににするか、まだ決まっていないという。今日この場で見繕うとは恐れ入った。
すぐさま頭の中に見取り図を展開する。
すぐ近くに婦人服を扱う店があった。
まずはそこから行ってみようと提案しようとしたが、その前に姫宮さんは店へとたどり着いていた。
「姫宮さんも、店の場所を覚えて来たんだね」
「なに言ってるの? そんなことしなくても、このエリアが丸ごと婦人服や服飾雑貨のコーナーじゃない。歩いていればプレゼント候補はすぐ見つかるでしょう」
言われて辺りを見回してみる。
確かに全体の雰囲気が、なんというか、華やかだった。
出店しているブランドは複数あるようだが、目立った仕切りがないのでフロア全体が一つのお店のように感じる。これは本当にぶらぶらするだけでプレゼント候補に事欠かない。姫宮さんはさっさと商品に近づきしげしげと眺め始めた。
「女の私なら服でいいけれど、男のあなたはやめた方がいいかも。少し重いもの」
「それ、乙女にも言われたなあ。指輪はダメらしいよ」
「そうね。そういったものは特別な意味を持つから、友達に贈る物としては避けるのが無難でしょう。値段もそれなりにするから、相手に気を遣わせてしまうし」
「値段の設定金額は?」
「数千円が妥当じゃない? 安過ぎず高過ぎず。高校生らしい金額を意識しなさい」
「雑誌に載っているアクセサリーもそれくらいだった。たまにすごく高いものもあるけど」
「高校生の中にはお金持ちの人もそれなりにいるでしょう。それか、お金持ちの彼氏にねだったりするのではないかしら」
「ふーん。それなりに売れるってわけだ」
「恐らくね。・・・・・・私はこれにするわ」
「え⁉ 早くない? 一体なにを選んだの?」
姫宮さんが持っていたのは、ばが広い帽子だった。
「UVハットよ」
「かん・・・・・・ぺきだ・・・・・・」
雷に打たれたような衝撃。
深くかぶることができる構造と、広めのつばが小顔効果を演出し、さらに気軽に紫外線対策までできる優れもの――UVハット。
おしゃれと実用性を兼ね備えた究極の神器に他ならない。
そんなものを捜索開始一〇分で見つける慧眼――さすがである。
「なにわけのわからないことを言ってるのよ。特設コーナーがこんなにあるじゃない。目につかない方が不自然よ。それに彼女、紫外線対策に気を遣っているのでしょう?」
確かに言われてみれば、店内は夏を先取りした品で溢れていた。UVハットも大々的に宣伝されている。
試しにとかぶり、鏡をのぞき込む姫宮さん。
そのまま雑誌に載りでもすれば商品売り上げに多大な貢献間違いなし。
むしろ製造が追いつかず、メーカーは嬉しい悲鳴をあげることになるだろう。現に周囲の女性たちが、彼女を見て帽子に興味を持ち始めている。
「色もデザインも問題ないわね。帽子ならいくつあってもいいし、値段もお手頃。月島さんはかわいいからプレゼントを選ぶのが楽でいいわ。基本なんでも似合うもの。スタイルもいいし」
「うわー、いーなー、僕もそれを選べばよかったー。それ僕に譲っておくれよ」
「なに遠慮がちに駄々こねてるのよ。あんたは自分の力でプレゼントを見つけなさい」
「姫宮さんの意地悪。ぼっち。二重人格」
「帰るわ。くたばれ」
「わー! 待って待って! 嘘! 今のはただの独り言だから! それとくたばれなんてかわいい女の子が言っちゃダメだよ? せっかくの美人さんが台無しだよ?」
乙女がすねたときはこういえば大体機嫌を直す。さて姫宮さんはどうか。
「それを聞いて、あんたの妹はなんて言うのよ」
あっさりバレた。
「『兄さんのバカ』って言ってね、顔赤くして照れる。超かわいいよ」
「あんたの妹もなかなかね」
なんとか帰宅を取り止めてくれた姫宮さんと一緒に買い物再開である。
しかし僕らがいるエリアは、服やアクセサリーを扱う店がほとんどを占めている。
服は重いしアクセサリーはダメだ。UVハットという搦め手が使われた今、ここにいる意味はないだろう。
ということで場所を変えようと提案すると、以外にもあっさり応じてくれた。
まだ時間に余裕があるので、多くの商品に目を通した方がいいという。
それに付き合ってくれる彼女は、なんだかんだ言って面倒見がいい。
「姫宮さんが恋人だったらよかったのに」
「なにそれ口説いてるの? 好きでもない女にそんなことを言うものじゃないわビッチ」
「待って、ビッチは違うだろう。僕はメスでも犬でもない」
「やっていることは同じじゃない。女の子に気を持たせてちょっと遊んだら捨てるのね。なんてことかしら」
「いやいや、しないから。女の子と出かけるのだって、乙女や月島さん――雫を除けば姫宮さんが初めてなんだ。僕は断じてビッチじゃない」
「なら、天然もののジゴロね。本物は初めて見たわ」
「そんな海洋生の魚みたいに言わないでおくれよ」
とにかく女の子には無暗に優しい言葉をかけるの禁止。その代わり大切に扱うことを約束させられた。男は黙って行動で示せと言われた。ちょっとかっこいいと思ってしまった自分が情けない。
「それより、あなた、彼女のことを名前で呼ぶのね」
「ああ、雫のことかい? この前見つめていたことを謝ったら、許す条件として提示してきたんだ。昔は雫ちゃんって呼んでたから抵抗はないよ」
「そう・・・・・・」
「?」
次に向かったのは雑貨屋である。文房具から食器、軽食に至るまでなんでも取り揃えている。
「あなた、一昨日あの子と一緒に帰ったのでしょう? 情報聞き出せなかったの?」
「残念ながら。謝罪して、名前呼び合ってたら家についていた」
「バカップルじゃない。引くわ」
「待って。話を聞いて」
「惚気る気かしら? こんな言葉を知っている? リア充爆発しろ」
「もちろん知っているさ。乙女と見るアニメに度々引用される負の名言だ。自分が異性と縁がないからと言って、他人を妬み、嫉み、呪う、なんとも情けない言葉だ。自分を磨く努力も異性に話しかける勇気も持たない人は、きっとそうやって鬱憤を晴らすことしかできないのだろう。滑稽極まりない」
「あなた、世界中の非リア充を敵に回したわよ」
「ネットに書き込みしかできないような者など怖くはないさ。後ろめたい感情がなければ、人は誹謗中傷になど負けはしないのだ」
「うざったいほどに前向きね。でも、その考えは嫌いじゃない。敵は真っ向から潰した方が楽しいもの。自分の方が優れた人間だと自覚できる、数少ない機会だわ」
そう言って不敵な笑みを浮かべる姫宮さん。その顔は悪役の方が似合っている。
「そんな惚気話よりも、プレゼントよ。なにかないの?」
「それがまったく思い付かないんだ。電車の中も、駅からの帰り道も、ほとんど雫がしゃべっていたんだけれど、部活のことやテニスプレイヤーについてしか彼女は口にしなかった。後は無意味に呼ぶ僕の名前」
「幼馴染二人が一緒にいて、思い出話の一つもなかったの?」
「なかった。彼女はテニスを愛しているね。尊敬するよ。強いて上げるとすれば、一緒に定期を買いに行ったことを僕が話した。彼女は話に乗ってこなかったけどね」
「ふーん。・・・・・・あら? それいいんじゃない?」
「え? どれ?」
僕は周囲を見回した。姫宮さんが言っているのはどの商品だ。
「違うわよ。その思い出話よ」
「思い出? と言っても定期を買いに行ったくらいしか・・・・・・あ」
「気づいたようね」
姫宮さんは陳列棚の隙間を縫うように歩いた。僕もさっき目にしたものの値段、デザインくらいは覚えている。彼女についていくと、思った通りのものを差し出してきた。
「これなら毎日使える上に機能性も高く、デザインにも外れが少ない。しかも二人の思い出を守る優れものよ」
差し出されたのはパスケースだった。
赤い革製で丈夫で長持ち。使うごとに味わいが出るという触れ込みである。
雫は既にパスケースを持っているはずだ。約一年前、定期を買った帰りに、一緒に一〇〇円ショップで色違いでおそろいのものを購入した。
そしてそれを僕も彼女も未だに使っているのは、木曜日に確認済みだ。
次回、急展開!




