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優等生は誰がために  作者: うえりん
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第二十七話 必殺技

〝切り落とし〟って知ってます? ほら、餓狼伝に出てくる、あの技。


「まったく、あんたはなにやってるのよ」

「なにって、道案内だけど?」

「んなもん口実に決まってるでしょ。ほいほいでれでれ着いて行っちゃって、なさけない」


 この言い方には少しむっとした。

 僕にだって、男の子のプライドというものがあるのだ。


「ほいほいもでれでれもしてないさ。ただ、あの二人が困っていたから、ちょっと手助けしただけだ。君の方こそ、あんな冷たい態度をとる必要はなかったんじゃないかい?」

「あんた、そんなだから逆ナンなんかされるのよ。デートの待ち合わせ中だってこと忘れてない? 他の女なんて適当にあしらうくらいでちょうどいいの。優しいアピールもときには逆効果になると覚えておきなさい」

「優しいアピール? なにそれ」

「電車で席を譲るとか、彼女を車道側に立たせないことよ。そういう細かい気遣いができる男は、それだけで好感度アップなんだから」

「あれ実在するのか。てっきり小説の中でのことだとばかり思っていた」

「小説は願望の産物よ。それをされて嬉しくないわけがないわ」

「勉強になるよ。でも、やっぱりあれはただの手助けだよ。僕が逆ナンなんてされるわけがない」

「・・・・・・本気、なのよねえ・・・・・・」


 なにかを堪える表情の姫宮さん。ここはデートの相手役として気の利いた一言が求められているに違いない。


「姫宮さん、そんな顔をしないで。かわいい女の子には笑顔が一番似合うんだから。さあ、笑っておくれ。それだけで僕は幸せだ」

「あーうん。そうね。あんがと」

「あれ? 予想と違う」

「そりゃ、あんたの性格知ってればこうなるわよ。台詞も臭過ぎ。ギャグか」

「笑顔を求めた点においては成功ってことで」

「もうそれでいいわ。それより気をつけなさいよ。最近の女はみなケダモノよ? あんた見た目も中身もちょろいんだから、気を抜けば一発よ」

「ちょろいってなにさ。僕は身持ちは固い方だ。それにさっきのは逆ナンなんかじゃないよ。これまでだって、そんなことをされた経験は一度もない」

「道案内やそれに準ずる手助けは? 他にも、お店で店員さんにアドレス渡されたりしなかった?」

「それくらいはみんなあるじゃないか。お礼をしたいとしきりに言ってきた。店員さんも仕事熱心だ。断るのが大変だよね、あれ。真面目で優しい人が多くてうれしい限りだ。日本の未来は明るい」

「ちょろっ」

「さっきから失敬な人だな君は」

「もういいわ。それよりなにか言うことはないの?」


 と言って姫宮さんは立ち止まり、腰に手を当て僕の前に立った。


 僕だって馬鹿じゃない。彼女の求める言葉くらい心得ている。


「ありがとう。言葉にする機会を逃して困っていたんだ。とても綺麗だよ、姫宮さん」

「もう一声」


 ふ。僕は人知れず笑みを浮かべた。


 今こそは勉強の成果を発揮するのだ。


「その服、今月の『ガーリー』で特集してたやつだよね? サンダルも有名なブランドのものだね。基本に忠実な色の合わせ方で目に優しい。加えて踵が少し高いから、姫宮さんの長い脚をさらに強調してとてもスタイルがよく見える。強いてあげれば胸のボリューム感がもう少し欲しいかな。先の理由でスレンダーに見え過ぎる感じが否めないんだ。上げ底ブラの使用をお勧めする。よければ僕が選ぶのを手伝うよ。大丈夫。シンデレラバストには夢と希望が詰まっている」

「――ふっ」


 右手で左手を捕まれた。


 握手かな? と思ったが違った。


 姫宮さんが一歩踏み出し僕と並んだ。

 同時に一回転。スカートの裾が優雅に広がり風を感じる。

 腕がなんの抵抗もなく上へと導かれ、僕の後頭部を撫でるように下げられた。


 そしてときは加速する。


 姫宮さんは躊躇いを微塵も見せず、腕を僕の背後へと振り下ろしたのだ。


 このままでは、後頭部を地面に打ち付け死亡する。本気で放つ四方投げは、受け身不可能の必殺技なのだ。


 僕は力に逆らうことなく、その場にしゃがみこんだ。そしてそのままで半回転。


 投げはすかされ、僕らは再び向かい合った。


「訳を聞こうか」

「私に訊ねる前に、自分の胸に訊いてみなさい」

「もしかして胸のこと気にしてる? だから胸に訊いてみろって? 姫宮さんセンスあるなあ胸はないけど。ドンマイドンマイ。需要はあるって」


 今度は回転投げだった。


 しかも、顔面への膝蹴りまで狙っていたようだ。


 しかしこれは歩くだけで抜けられる。隙を見てまた半回転し、三度僕らは向かい合った。


「養神館?」

「いいえ、合氣会よ」

「へー。しかし、いきなり切り落としはないんじゃないかな? 格闘漫画じゃないんだから」

「うるっさい! あんたにはデリカシーってものがないの? 女の子の下着選ぶなんて軽々しく言うんじゃないわよ」

「妹はよく選んで欲しいって言ってくるよ? 一緒に買いに行くし」

「妹と一緒にするな! 世の中には家族以外の人間の方が多いのよ!」

「わかったから落ち着いて。みんな何事かと思ってるよ」


 僕らは周囲の視線を集めていた。姫宮さんが美人のせいだ。


「もう、いい。やっぱり、あんたには早過ぎたのよ。これは私のミスだわ・・・・・・」

「いやいや、そんなことないって。自分で言うのもなんだけど、女の子のファッションについては、なかなかのものだと自負してるんだ。見れば大体どこのブランドのなんて服かわかるし、値段も暗記している」

「努力の方向がぶっ飛んでるわよ。気持ち悪い」

「なんで⁉」


技の説明下手ですみません。


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