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優等生は誰がために  作者: うえりん
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第二十六話 デート開始

風間くんはモテます・・・・・・が、見てるだけの方がよかったと思われる類の男の子です。

 雫の機嫌が直ったのはいいが、次の日には彼女を名前で呼んでいるのがクラス全員に知れ渡ったのは、少々厄介だった。


 狭間くんはなぜか涙ぐみながら雫に握手を求め右手を潰されていたし、他のクラスメイトからの視線は生温かった。


 雫がことあるごとに話しかけてきては「誠二~!」と大声で叫ぶのがなんだか気恥しかった。


 とにもかくにもプレゼントの情報を得たかった僕だが、雫が「教室で話すのは恥ずかしい」とわけのわからないことを言って逃げるので、収穫はゼロだ。ならばなぜ名前を呼んだ。


 

 結局、有力な情報を得られぬまま待ち合わせ当日を迎えてしまったのだった。


 出がけに今日は遅くなると乙女に伝え、ついでに顔を出した虚栄心を満たすめ実はお兄ちゃん今日デートなんだと言うと、なぜか宝物であるNゲージ 2027 C50の記念モデルを見つめたまま動かなくなってしまった。


 小さな背中は抱きしめたくなるほど哀愁を漂わせていたが、兄は今日人生初のデートである。お土産でご機嫌をとることとしよう。


 電車で二駅移動すれば隣町へと到着する。


 目的地であるショッピングモールまではバスも出ているが、歩いて行っても遠くはない距離だ。


 ここは徒歩を選択して二人の会話を大切にした方がデートっぽいに違いない。

 まして、姫宮さんの体力なら問題あるまい。


 時計を見れば、待ち合わせまで三〇分ある。


 予定通り。男の子は女の子を待たせてはいけないのだ。


「あの、すみません」


 その声に振り返ると、見知らぬ女性の二人組が立っていた。


 最近女性誌を読み始めた僕にはわかる。かなりおしゃれな人たちだ。

 季節のカラーを取り入れたお出かけコーディネートといったところか。


「なにか御用ですか?」

「はい。実は道をお聞きしたくって。この辺りにショッピングモールがあるはずなんですが、どこだかわからなくって」

「ああ、それなら知っています。僕もこれから向かうところなのですよ」


 二人の顔がパッと輝いた。


「よかった~。もしよければご一緒してくれませんか? 私たち県外の大学に通ってて、この辺り詳しくないんです」

「すみません。待ち合わせをしているので。バスがあるので、停留所までご案内しますよ」

「あう。残念・・・・・・」

「? 乗っていれば、間違いなく到着しますよ?」

「あ。はい。ありがとうございます。なにかお礼をさせてくれませんか?」

「いえ、大したことはしていないので」

「高校生?」

「ええ、はい」

「わーっ! やっぱり! 若いもん!」


 あなた方だって十分若いでしょうに。川村先生がここにいたら、膝を抱えて泣いていたんじゃなかろうか。


「行き先は同じだよね? 一緒に見て回らない? お姉さんがご飯おごるよ? ケータイ教えて?」

「あの、待ち合わせをしているので・・・・・・」

「なら、その人も一緒にどう? 彼女?」

「いえ、友達ですが」

「ならいいじゃーん!」


 よくない。これはよくないぞ。


 二人はいいじゃんいいじゃん行こうよを連発して僕の腕に絡みついてくる。そんなに二人で行くのが嫌なら単独で行動するか、さらに人数を増やせばいいだろう。


「お待たせ。その方たちはお知り合いかしら?」


 救世主の登場である。


 振り向けばそこに姫宮さんがいる。今日は珍しく髪をシュシュでまとめていた。


 髪の中ほどで縛り胸の前に荒らしている。服装はフリルを適度にあしらった白いワンピースにカーディガンを羽織っている。肩からバッグを下げ、足元は白のサンダル。制服姿の彼女しか知らないのでとても新鮮だ。


「うっ・・・・・・!」

「すごっ・・・・・・!」


 女性二人がたじろぐのがわかる。


 無理もない。


 姫宮さんはかなりの美人だ。加えてスタイルがいい。


 細身のシルエットが長い脚で強調され、服によって適度な女性らしさも演出している。


 控えめに言って、二人組の三・五倍は美しい。女性は比べる生物なので、この差が単に年上というだけで埋まらないのは理解できたはずだ。


 こんなことがわかってしまうのも女性誌を読み漁ったおかげである。

 

 姫宮さんはまだ早いと言ったが、やはり無駄ではなかったのだ。



「失礼。その人は私と待ち合わせをしているのですが。なにか御用ですか?」


 笑顔。

 勝者のみに許される余裕の笑みである。


「あなたたち程度がこの私に勝てると思って? 体重ならばあなた方の圧勝でしょうけど。この私の前に立つならせめてあと一〇回生まれ変わってからにしなさいオーホホホ!」


 これは僕の妄想である。実際の姫宮さんはツカツカ僕に歩み寄り、腕を取ると(凄まじい握力で掴まれた。雫に教えてあげないと)スタスタと歩き出した。


 二人組はなにも言えずに、僕らを見送った。


「では、お気をつけて!」


 と言ったが返事はなかった。


 悔しさに歪む顔が、果てしなく怖い。


姫宮さんは、自分が美しいと理解しています。

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