第二十四話 狭間くん、危うし!
結果はともかく、狭間くんは頼りになる男です。
襟とネクタイを直していると、狭間くんが戻って来た。
抱えていたパンが綺麗になくなっているところを見ると、僕が怒鳴られているのを見物しながら食べ終えたのだろう。
「いやー、すごかったな月のん。お前なんかしたの? ていうか、なんで月のん見てたの?」
「実は月島さんに誕生日プレゼントを渡そうと考えていてね。なにか参考になるものはないかと探していたんだ」
「へー。お前にしちゃ青春してるな。でもなあ、風間よ。いくらなんでも四時間も見つめるのはどうかと思うぜ? 現にマジギレされてるじゃねえか」
「ああ。反省しているよ。次はバレないよう気を付ける」
「懲りてない・・・・・・だと・・・・・・?」
狭間くんが失礼なことを呟いたとき、月島さんが戻って来た。
手には歪になった缶を持っている。中身はまだ入っているようだが、怒りをぶつけてあのような姿に・・・・・・。
「おっと、彼女のお戻りだ・・・・・・よし風間。お前はもうなにもするな」
「なんだって? 僕に諦めろと言うのかい?」
「そうじゃねえ。ここは俺っちに任せてもらおうじゃねえの。月のんが欲しいものだろ? だ~いじょうぶ。バレないようにうまくやるって。楽勝楽勝」
なんて頼りになる男だ。
去り行く背中が大きく見える。狭間くんが友達でよかったと心から思った。
尊敬の眼差しを向ける中、狭間くんが月島さんと接触した。
なにやら身振りを交えて説明している。
しばらく聞き入っている様子の月島さんだったが、突然彼女の手の中の空き缶が音を立てて握り潰された。
狭間くんがガクガクと震え始める。そしてすごすごと帰って来た。
「どうだった?」
「・・・・・・ああ、教えてくれたよ」
「本当かい⁉ てっきりダメだと思っていた。それで、なにが欲しいって?」
「握力」
「は?」
「俺っちの頭を握り潰す握力が欲しい。そう言ってた」
狭間くんの背後に目を向ける。
そこには、恐らくはスチール製と思われる空き缶を、直径三センチの球体に成形する月島さんの姿があった。
○
テニス・スポーツ用品、スキンケア用品、ハンドグリップ。
今のところ、候補はこのような感じだ。スポーツ用品とハンドグリップはかぶっているが、せっかく狭間くんが身を挺して聞き出してくれた情報なので、敬意を込めて別枠を用意した次第である。
裏生徒会室で僕の報告を聞いた姫宮さんは、またしても頭痛を堪える仕草をした。
「あんた、とことん贈り物に向いてないわね。むしろ、その程度で許してもらえてよかったと考えるべきよ。四時間ガン見ってストレスってレベルじゃないでしょうに」
「いや、ガン見はしてない。教室以外ではちゃんと陰からこそこそ見守ってた。なぜ気づかれたのか・・・・・・」
「ストーカーじゃない。それにあの子なら普通に気づくわよ。あの子もあんたのこと見てただろうし」
「僕を? なぜだい?」
「そのうちわかる日がくるわよ」
「?」
姫宮さんの言葉は気になるものの、今は月島さんへのプレゼントが最優先である。
ので、裏生徒会の活動を終えた僕は、校門で月島さんを待っている。
プレゼントの情報を得るのはもちろんだが、昼休みの謝罪もしたいと考えたのだ。謝罪は早くするに限る。もちろん乙女には遅くなるとメールで連絡済である。
三〇分ほど待っていると、月島さんがやって来るのが見えた。
いつも通り女子に囲まれている。
みな肩にラケットの入ったケースを担いでいるので、部活の友人だろう。
向こうも僕に気づいたらしい。はたと立ち止まり、笑顔が数舜凍り付く。
そんな月島さんを見て、周りの女の子たちが僕に疑問の目を向けてくる。
「ごめん。ちょっと」
その言葉だけで女の子たちは何事かを察したらしく、口々に別れを告げ走り去った。校門ですれ違いざまに好奇の視線を向けてくる。
とりあえず笑顔で応えておいた。
「・・・・・・なによ」
不機嫌な口調。
そして仏頂面だ。
しかし先に声をかけてくれる月島さんは、とても優しい。人気者の理由を垣間見た。
風間くんは、友達に恵まれています。




