第二十三話 月島さんの受難
風間くんは不器用。
『注目度アゲアゲ↖↖女子よカツモクせよ!』のページを再度読んでいく。
・・・・・・やはりそうだ。
小麦色の肌に、くすんだ金髪を携えた制服姿の女の子の写真だ。
いかにも暑そうに手で顔を扇いでおり、その手首にはめられた腕輪こそは、この夏注目必死のマストアイテムだ。
『夏だ! 視線クギヅケ! 視線集めすぎてあたしヤバいんだけど~』という文字がピンク色で書かれ、口から飛び出た吹き出しには『視線が暑いわ~』とある。
そしてその後ろに小さく同じ制服を着た二人組が映っており、『あの子ヤバくない⁉』との文字が、頭上から飛び出しているのだ。
この記事から導かれる結論は、装飾とは単に男の視線を集めるために非ず。
女子という群れの中で、己の存在を際立たせるためにこそあるのだ。
だとすると、月島さんに装飾品は必要ないのではないか? という疑問が生じる。
なぜなら、彼女は今でも十分に注目を集める人気者なのだから。
テニスの実力はもちろん。後輩にも優しく接し、物怖じしない性格から部の内外問わず人望を集めているカリスマなのだ。
既に『視線が暑い』状態の彼女に、これ以上の装飾は無駄どころか、害にすらなりうるのではないか。
「なんてことだ・・・・・・あの子ヤバくない⁉」
写真の二人組の気持ちがよくわかる。さすがは月島さん、装飾品など必要とする隙さら与えてくれないとは。
またしても振り出しなのか。僕は雑誌を閉じ、頭を抱えた。
○
次の日は木曜日だった。
姫宮さんとのお約束まで日にちがない。授業のある今日と明日で、月島さんの欲しいものを導き出さなくてはならない。
とりあえず月島さんと仲のよい友人に訊いてみたところによると、彼女の生活はほぼ部活を中心に構成されており、流行りのキャラクターや、イケメンアイドルには疎いとのこと。
その代り、テニスプレイヤーにはかなり詳しい。
化粧については多少の心得はあるものの、部活で汗をかくので基本ノーメイク。
紫外線対策だけは念入りに行うが、それでも最近肌が荒れたのが悩みの種。アクセサリーは邪魔なのでつけない。
これは八方塞がりではないかとさえ思えてくる。
乙女と相談した品々が、ことごとく否定されていく。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
月島さんに、なんとしてでも喜んでもらえる贈り物をするのだ。
というわけで聞き込みはいったんとりやめにして、僕は見ることに徹した。
彼女の鞄、彼女の筆箱、彼女のペン、彼女の靴下。
彼女の身に着けているものならなんでもよかった。それらの中に共通のブランドでもあれば、それがお気に入りということになる。参考にするには十分な情報だ。
見つめ続けて昼休み。
月島さんは仲のよい女子とともに、お弁当を食べている。若干笑顔が引きつり気味だがなぜだろう? そこにヒントがあるかも。僕は視線に力を込めた。
昼休みも中盤に差し掛かった頃、それは起きた。
弁当を口に運びながら見つめる先で、月島さんは突然机を叩いて立ち上がり、ツカツカとこちらにやって来たのだ。
彼女の顔は赤鬼を彷彿とさせる。
つまりめちゃくちゃ怒っている。
「風間ァ! あんたなにガンくれてんのよ⁉」
僕の机を叩き、睨み付ける。狭間くんが菓子パンを抱えて逃げ出した。
「や、やあ、月島さん。今日も元気そうでなにより・・・・・・」
「ごまかすな! あんた今朝からずっと私のこと睨んでたでしょ!」
「・・・・・・見てないよ?」
「嘘つけ! いい加減にしてよ! どうせまたくだらないこと考えてるんでしょうけど、それ絶対ろくなことにならないから! さっさと諦めなさい!」
「そんなことはないさ! 僕は心から月島さんのことを考えて朝からずっと・・・・・・あ」
「やっぱり見てたんじゃない! さっさと白状しろ! 今度はなに企んでた! まさかまた絵のモデルやれってんじゃないでしょうね⁉ 五時間も動かないでいることなんて普通の人間には無理なの! しかも出来上がったのがキュビズムってあんたバカにしてんの⁉ 私の顔なんて影も形もなかったじゃない!」
「い、いや、あれは芸術のために仕方なく・・・・・・それにあの絵で賞もらったじゃん」
「内閣総理大臣賞をね! おめでとう! おかげで私のあだ名はキュービック月島になったわよ!」
これは相当にお怒りにようだ。胸倉を掴まれ今にも喉笛を噛み切られそうだ。
月島さんは五分もの間怒鳴り散らすと「喉乾いた!」と叫び、教室を出て行ってしまった。
「怖かった・・・・・・」
教室にいるクラスメイトたちも呆然である。
ちらちらとこちらを見ては、ひそひそとなにやら話している。女子会なるものが捗る話題を提供してしまったらしい。
昔から月島さんは、かわいそうになるくらい風間の奇行に振り回されてきました。




