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優等生は誰がために  作者: うえりん
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第十話 試合②

いよいよ試合開始です。

「では皆さん、作戦通りに。山野辺先輩。ボール集めますよ」

「う、うん!」

「ちょっと気合が足りませんね」

「え? そ、そうかな・・・・・・?」


 すると姫宮さんが山野辺先輩の後ろに立った。


「背筋を伸ばして」バシン! 


 背中を叩いた。


「視線は前方上一五度」


 手で顎の位置を修正。


「大きくお腹で息を吸って」


 お腹を叩きながら。


「一気に声を出す!」


 叫んだ。


「おう!」


 その声は体育館を突き抜け校舎まで轟いた。


 さっきまでの喧騒が嘘のように、体育館は静まり返っている。それを成し得た張本人は、わけがわからない様子で周りをきょろきょろ見回した。


「す、すげー! 山野辺! デカいのは体だけじゃなかったんだな!」

「マジで鼓膜破れるかと思った! 耳痛ぇよバカ!」

「ご、ごめぇん!」


 井出先輩と大槻先輩が、山野辺先輩の大きな体をもみくちゃにした。

 つられるように、館内が一斉に笑いに包まれた。


「驚いた・・・・・・。姫宮さん、どんな魔法使ったの? いくら体が大きくても、あんな大声そうそう出ないよ」

「私も驚いてるわ。山野辺先輩って、もしかしたら結構すごいのかも・・・・・・」


 三年生はハイテンションで。僕と姫宮さんは呆然としながらコートに入った。


 審判を買って出てくれた川村先生が間に立ち、一〇人の選手が二列に並んだ。


 木我沼くんの姿はない。見れば、ベンチに座り睨み付けるようにしてこちらを注視していた。コートに立っているのは二年生だけだ。


「では、これより一・二年生対三年生+アルファの試合を行う。双方正々堂々、スポーツマンシップにのっとり、怪我と悔いのないよう全力でプレイすること」

「よろしくお願いします!」


 一〇人の選手が叫び、一斉にコートに散らばった。

 ジャンプボールには、僕と沢井谷くん。


「お前が相手かよ。まあ、相手がヤマ先輩でも負ける気しねえけど。先攻は譲るってか?」

「? なに言ってるの?」

「ああ?」

「言ったじゃないか。叩き潰すって。僕は勝つよ?」

「――ッ」


 沢井谷くんがなにか言いかけたが、川村先生がやって来たので口をつぐんだ。


 そっと先生を盗み見る。視線は交わさなかったが、背筋をピンと伸ばした姿を見て、手筈通りやってくれると確信できた。


 ボールが僕らの前に掲げられる。

 先生の細い腕が大きくしなり、ボールが宙高く放り投げられた。


「高っ⁉」


 沢井谷くんがそう言うのも無理はない。ボールは通常ではありえないほど高く放られていた。ゴールより遥かに高く、二階席の観客が若干見上げる程だった。


 しかし沢井谷くんは既に集中を取り戻している。ジャンプのタイミングを計り、腰を落として待ち構えているのだ。


「ヤバイ! そいつは――」


 木我沼くんは気づいたようだ。どうすることもできないけどね。


「お先に」


 ちょっとだけ嫌味っぽく言って、僕は跳躍した。


 落ちてきているとはいえ、ボールはまだバックボードと同じくらいの高さにある。沢井谷くんどころか、ここにいる誰にも手の届かない位置だ。


 ――多分僕と、姫宮さん以外には。


 僕の垂直跳びの記録は一二二センチ。

 僕の身長が一七七センチなのに加え、目いっぱい腕を伸ばせばバックボードの上辺に届く。つまり空中のボールは思いのままというわけだ。


「山野辺先輩!」


 ボールを目いっぱいの力で、ゴール下の山野辺先輩へと弾いた。


・・・・・・ちょっと強く叩き過ぎた。


 以前体育の時間、バレーボールでスパイクを打ち、それを受けたクラスメイトの腕を折ってしまったことを思い出した。もう遅いけど。


 ボールがかなりのスピードで飛んでいく。

 素人や腕力のない選手では取れないだろうが、山野辺先輩は体に見合った安定したキャッチを見せ、誰にも邪魔されることなくゴール下からシュートを決めた。


 歓声が上がった。僕と山野辺先輩はハイタッチを交わしディフェンスへと移る。すると大槻先輩が肩を叩いてきた。


「すごいなお前。垂直跳び何センチなんだ?」

「一二二センチです」

「ジョーダンと同じとか・・・・・・」


 さすがバスケ部。よく知っている。


「ふん。私だってあれくらい跳べるわよ」


 姫宮さんが不貞腐れながら肩を叩いていく。ちょっと痛い。苦笑しながら見送った。


「くっそ、反則だろあんなの」


 敵チームの悲痛な叫びが聞こえる。しかし僕の見せ場はこれで終わりだ。

 すぐ横を沢井谷くんが駆け抜けていく。


「バケモンかよ、お前」

「前にも言われたよ。確か木我沼くんに」

「・・・・・・チッ」


 舌打ちで答え、沢井谷くんはゴール下へと向かった。そこには身長一九〇センチの山野辺先輩がいる。


 ここからが本番である。まずはボールを取り戻す必要がある。


 あくまで取り戻すだけでいい。得点を許そうが、ボールをスティールしようが、二四秒守り切ろうがどれでもいいのだ。


 僕の前に二年の池谷(いけたに)くんがやって来た。

 ポイントガードらしく小柄で敏捷性に優れた選手だ。

 ここでの僕の仕事は抜かれないことだけ。無理にボールを奪う必要はない。相手にチームプレイをさせるのだ。


 池谷くんはかなり警戒しているらしく、慎重に機をうかがっていたが、隙をついてフォワードへパスを出し、それを受けた二年生(名前は割愛)はほぼノータイムでゴール下へ、つまり沢井谷くんへとパスを繋げた。


 身長は山野辺先輩の方が上。

 だが、それを上回るセンスと技術が沢井谷くんにはあった。


 山野辺先輩はフェイクに引っかかり、あっさりと得点を許した。


「わ、悪い」

「ドンマイ。ボール行きますよ」

「おう!」


 短く言葉を交わしただけだが、試合に集中しているのがわかった。姫宮さんにも目を向ける。彼女についている選手がどうしたものかといった表情をしている。

 無理もない。男子と女子の差は歴然。正々堂々と川村先生は言ったが、小柄な女の子相手にいつも通りのプレイをするのは難しい。


 だからそこを突く。


 ポイントガードは僕が務める。中学時代と同じポジションだ。ハーフコートがすべて見渡せる。敵と味方の動きがスローモーションのように感じられる。久々に見るコートの風景は、中学生のときとなんら変わらなかった。


 右手でドリブルしつつ、左手で合図を送った。この一週間練習したフォーメーションが展開される。


 ボールは山野辺先輩へと渡った。

 沢井谷くんが鬼気迫る勢いで止めに入る。

 山野辺先輩は大きな体でゴール下へと捻じ入る。

 シュートモーションに入ると同時、沢井谷くんが跳躍。


 山野辺先輩の足も床を離れている。誰もがオフェンスの失敗を思い描く中、山野辺先輩はボールを足元へと放り出した。


 沢井谷くんがしまったという顔をした。


 彼の足元には姫宮さんが走り込んでいる。ボールを受け取るとレイアップシュートを決めた。


 さすが、一週間も練習しただけのことはある。山野辺先輩たちも彼女の上達の速さに驚いていたっけ。

 姫宮さんは自陣に戻りながら、山野辺先輩にナイスパスと声をかけている。


 僕も一声かけてみた。


「ナイッシュー。姫宮さん」

「・・・・・・ダメね」

「はい?」

「華やかさが足りないわ。やはりスラムダンクしかないかしら・・・・・・」


 真に貪欲なお姫さまである。


 試合は一進一退の攻防を繰り広げた。木我沼くんが言っていた通り、実力では二年生の方が上だ。オフェンスでのチャンスを何度もものにしている。


 しかし、山野辺先輩を始めとした三年生と姫宮さんの連携がほぼ確実に決まるので、点差が一向に開かない。


 むしろ、徐々に三年生+アルファチームがリードする展開である。


 これでいい。


 沢井谷くんには強気なことを言ったが、あれは単なる挑発だ。三年生の実力で大差をつけるのは難しい。むしろ接戦の末にやっと勝つくらいでちょうどいいと思っている。


 下手くそな三年生と女子を含めた寄せ集めチームとほぼ互角の、低レベルな争い。そう評価されたら、二年生たちはきっと悔しがるに違いない。

 

 前半が終了し、二八対三三で三年生+アルファチームのリード。

 チームの雰囲気は悪くない。これならイケると山野辺先輩まで気合が入っている。が、やはり実力はあまりないようで、この時点でファウルを三つももらっていた。あと二つで退場である。


 ところで一・二年生チームはどうだろうか。そう思い視線を向けたとき、その声は聞こえてきた。


「ふざけんなよ!」

言い忘れましたが、この小説は「あたしTUEEEE!」系です。

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