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優等生は誰がために  作者: うえりん
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第一話 優等生は気づかない①

 学園ラブコメです。優等生が恋をしたいと思い、もう一人の優等生とあれこれする物語です。ちょっと長いですが、どうかお付き合いください。


 学年一位になった。


 英語と数学と理科は一〇〇点だった。狙っていたわけではないが、それでも学年の頂点に立つというのはなかなか爽快だ。


「お前はやればできるやつだと思ってたんだよ。いやマジで」

「すげーな、あの姫に勝つなんて。お前ホントに人間か?」


 と、こんな感じで褒め称えられても悪い気はしない。力ある者が相応の扱いを受けるのに、なにを遠慮する必要があるのか。


 そう。これは当然のことなのだ。喜んで然るべき事態なのだ。


 ――が、心のどこかで誰かがなにかを言っている。まったくもって意味不明ではあるが、そうとしか表現できないこの感覚。


「なぜだろう。胸がもやもやする」


 なんてことを呟いたらそれは恋だと教えられた。あろうことかそれを言ったのは学年でも有数のおちゃらけた生徒で有名な狭間(はざま)くんだった。名前がなんとなく似ているという理由で話すようになり、二〇秒でこの人はこの世で最も尊敬すべき人物だと確信した愛すべき級友である。ちなみに僕の名前は風間(かざま)である。


「恋? それは主に男女の間に芽生え、ときに性別どころか異種間、生物の垣根さえ超えて発現するというあの恋か?」

「その通りだ。その恋だ。知っているか? 人は恋する生物なんだ」

「知らなかった。なんで人は恋をするんだい?」

「好きな人がいるからじゃないか?」


 ノータイムで答える狭間くんは他の級友が言うところの真に見事な間抜け顔をしていたが、僕はこの答えこそは最も真実に近いのではないかと思った。


 好きな人がいるから恋をする。

 なんだか素敵じゃないか。


「狭間くん」

「どしたい」

「僕は、恋がしてみたい」


 狭間くんはやれやれと肩をすくめ、僕の肩にぽんと手を置き言った。


「それは無理ってもんだ。なぜなら恋とは落ちるもんだからな」

「君は天才か」


 と、こんな感じで過ごすいつも通りの昼休みだった。


 のだが、そこに突如暴風雨が吹き荒れた。


 恋恋来いと念じつつ自作の弁当を頬張る僕は気づかなかったのだが、教室の扉が盛大に開け放たれ、とある人物が現れたのだ。


 その人物は教室中の視線を一身に集めながら微塵も気を乱さず、真っ直ぐ僕と狭間くんが昼食をとる机にやってきたという。


「ちょっといいかしら?」

「恋来い」

「コイ? あなた魚に興味があるの? それとも花札かしら? コイコイって掛け声があるのでしょう? ってそんなことはどうでもいいの。あなた、風間(かざま)(せい)()くんよね?」


 そのときの僕はといえば恋という名の現世(うつしよ)の神秘に思いを馳せていたので当然彼女の言葉は聞こえていなかった。次第に引きつりはじめる彼女の頬と隆起するこめかみ。それらを見て取った我が友狭間くんは堪らず声をかけたという。


「えーと、確かにこいつが風間誠二です。見ての通り恐ろしく変わったやつなんで、話かけるのは後にした方がいいかと。今は恋について考えているので」


 と、気を遣っているのがよくわかる口調。彼にしては珍しいと思ったものだ。


 狭間くんは例え女子数人で構成されるグループ内で彼自身に対する批評を行っている最中でもまったく躊躇することなく「今俺のこと話してた? もしかして告っちゃう系?」と会話に加わることができるいわば英雄なのだ。そんな彼が気を遣う相手とは果たして。後で嫌でもわかることなので、今は状況を進めることにする。


 僕の前で仁王立ちする彼女は狭間くんの回答がお気に召さなかったらしく、ぎりぎりと歯を食いしばって怒りを抑えていたという。


「・・・・・・なるほどね。この私よりも、魚の方が大事ってわけ」

「いやいや、鯉じゃなくて恋。変の下が心バージョンのあれ」

「恋ですって? なんでそんな下らないことを真剣に考えてるのよこの人は」

「それは知らない」


 というわけで業を煮やした彼女はあらん限りの力をもって僕の弁当が置かれた机を叩いたのだった。


「なんだ? 誰か来たのか?」


 かなりの轟音が響き渡ったが、僕は至って冷静だった。これまでも人の話が耳に届かず、こういった事態に発展したことは何度かあったのだ。いわば日常の些事に過ぎない。僕は思考を一時中断して顔を上げた。


 ここでようやく僕と彼女は見つめ合う。


 第一印象はお嬢さま。その言葉がしっくりくる。といってもこれまで本物のお嬢さまという生物に出会ったことがないので、すべては見聞きした創作物から推測した外見的特徴の寄せ集めであるが、やはり彼女はお嬢さまとしか表現できなかった。


 お嬢さまの特徴その一。髪が長い。もちろん長いだけでなくとても綺麗である。世にいう烏の濡れ羽色だ。見るのは初めてである。


 お嬢さまの特徴その二。肌が白い。病的という印象はなく、白というより真珠色といったところか。頬は一滴紅を差した桃色なので、健康優良児に違いない。


 お嬢さまの特徴その三。とても美人だ。顔を構成するパーツのすべてが丁寧に作りこまれている。世界中のお人形さんはきっと彼女をモデルに作られたに違いないと思わせる美しさだ。


 他にもお嬢さまの特徴はたくさんあるが、彼女というお嬢さまの存在がオンリーワンであることは疑いようがなく、つまりお嬢さまと言えば彼女。彼女といえばお嬢さまという等式が成り立つわけなので、これ以上お嬢さまの特徴を並べていっても意味がない。というわけで、とりあえず名も知らぬこの少女を僕はお嬢さまと呼ぶことにして、こう訊ねた。


「君は誰?」


 真に常識的かつ模範的な質問である。本来なら先に自分の名を名乗るのが礼儀であるが、彼女は明らかに僕を知っている様子なので省いた次第である。これで彼女に関する情報を一つ得られる。その後の会話もスムーズに進められるし、いい質問だと思う。


「私を、知らない・・・・・・⁉」


 ところが彼女はそうは思わなかったようで、僕と狭間くんとクラス全員が見ている中、彼女は唇をわなわなと震わせ、次いでその口元を手で覆い、数歩後ずさった。心なしか頬の血の気も引いたように見える。


「失礼。もしやどこぞの名家の出身ですか? 申し訳ありません。田舎者の無礼をお許し下さい。お嬢さま」

「いやいや、そうじゃねえって。風間よ、お前この子のこと知らないの?」


 さすがは頼れる級友狭間くんである。僕の知らない情報を早くも掴んでいるとは。


「ああ。彼女とは初対面のはずだ。もしかして狭間くんの知り合いかい?」

「いいや、俺も話すのは初めてだよ。でも、この学校で彼女を知らないやつなんて、お前以外いないと思うぜ?」


 一斉に頷くクラスメイト。


 なんてことだ。自分が世間一般でいうところの高校生とは若干感性を異にしている自覚はあったが、まさかここまでとは。


「そう、だったのか・・・・・・。やはり僕には狭間くんが必要のようだ。これからも、どうかこの僕を助けておくれ」

「へへん! 今さら水くせえじゃねえか。俺たちゃ友達。支え合っていこうぜ!」


 僕らは互いに手を取り合った。


「勝手に盛り上がってんじゃないわよ! この私を無視するとはいい度胸じゃない! ま、それくらいじゃないと張り合いがないけどね」

「ああ、狭間くん。君はやはり、僕がこの世で唯一尊敬できる人物だよ。いつも僕の知らない世界を見せてくれる。感動でお礼の言葉もないくらいだ」

「て、照れるぜ・・・・・・。生まれてこのかた、こんなに頼りにされたのは初めてなんだ。ほら、俺ってバカだからさ。この学校だってスポーツ推薦で、ようやく入れたくらいだし」

「なにを言っているんだ。それで十分じゃないか。むしろ、君には才能と努力によって育まれた運動能力と、天性の人徳がある。天は二物を与えるのだとしみじみ思うよ。君の傍にいると自分の矮小さを実感せずにはいられない。君と友達でよかった」

「ほ、褒めすぎだっつの・・・・・・。俺だって、その・・・・・・風間のこと、す、好――」

「やめろーっ!」


 見知らぬ女子生徒が僕らの間に割って入った。はて、この人は一体誰だっけ? 


 ・・・・・・ああ、そうだ。お嬢さまだ。要は知らない人だ。


「私を無視するなよぉおおおおお! バカーッ! うわーん!」


 大粒の涙を流しながら走り去る誰かさん。一体彼女の目的はなんだったのか。僕と狭間くんは顔を見合わせることしかできなかった。


 次回、なぞの美少女の正体が判明。

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