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第3話「妖精を見た」
学校から帰って来た敦子は
裏庭の椿を一輪切って
仏壇に添えた
レースのカーテン越しに
静かな黄昏が
コップを満たす水のように
ゆっくりと注がれて満杯になる
母が好きだった椿が
この冬も順序よく咲いていく
敦子は毎日数える
母と創った椿の歌を唄う
「赤い椿の妖精さん
赤い靴でお庭で散歩
赤い帽子で飛んでいる
私が見えたらお友達になってね
赤い手袋はいい匂い
赤いスカート咲いている
私が見えたらお友達になってね」
枝の先で花に半分隠れて
恥ずかしそうに
敦子を見ている妖精がいた
敦子は想い出の時間が棲む
庭を見ながらレースを引くと
ポツリ涙がこぼれた