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第1話「妖精が生れた」
初雪と一緒に六花の羽根をつけ
妖精がひとり月夜に生まれた
小さな庭に咲く赤い椿が
満月を花器にして活けられる
氷のように輝き
ガラス細工のような微笑みの
椿に妖精が溶け込んでいく
月を追いかけるのか
月が追いかけているのか
妖精の眠る花はゆらゆらと
揺りかごのように
月光を集めて夢を見る
宇宙から舞い降る光は言葉
祈りにも似たぬくもり
花にも似た香り
夜空を見上げるのは
妖精のふる里が懐かしいから
魂がいた場所だから
月夜は懐かしい国を見る