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第一章 『新ヶ島』メランコリー ②


「あー、ツイてない・・・」


 つい溜息混じりの心の声が口から漏れ出した。

 バイトと罵倒のW疲労感。オレは寝起きのように、うーんと上半身を伸ばした。


「『恋メモ』もう終わっちゃってるし・・・あー疲れたっ、アタシ帰る!」

 貂子は異議でもあるかのようにバシンッと机を叩いて立ち上がり、自分のロッカーに手をかけたところで止まった。


「・・・着替えるから、あっち向いてて」

「女子は向こうに更衣室があるだろ!」

「面倒くさいの!」


 ったく、マジでここで脱ぐのかよ・・・

 しかたなく半回転し、背もたれにハグしながら何の飾りもない白壁を向いた。

 ちょっとした出来心で、鏡や何か反射して背後が映る物を探してしまったが、そんな都合の良い物がこの部屋にあるはずもなかった。

 ・・・いや、ある。

 オレは右ポケットにスマホが在ることを感触で確認した。いつもムカつく生気のない顔面を映し出してくれる真っ黒のスリープ画面。スマホをイジっているフリをして反射させれば、そこには秘密の花園。純粋な青少年たちの憧れ、疑似女子更衣室。この世の全てがそこに在るというワケだ。大海賊もビックリだぜ。

 よし、今だ。「オレも帰るとするかなぁ」と何気ない助演男優賞モノの演技を決め、ポケットのスマホを取り出そうとした時、背中から声を掛けられた。


「アンタさ、本当にツイ(・・)て(・)ない(・・)と思ってる?」


「ワすッ!」


 驚いた勢いでスマホは床に叩きつけてしまった。画面イッたかな・・・

 大丈夫、怪しいことはしていない。まだ、していない。

 いや、それにしてもだ。

 一瞬、貂子か疑った。

 先ほどまでとは真逆の、まるで医者が深刻な話をするかのような落ち着いたトーンだった。

 いつものキーキーうるさい彼女ではなかった。

 一ヶ月間で配達中だけでも五回事故に遇っている人間に対する質問としては、予想の斜め上遥か彼方をいっている。

 思わず振り返りそうになる衝動に羽交い絞めし、無理やり抑え込んだ。


「な、何言ってんだ?テン、この有様(ありさま)でオレがツイてるわけないだろ・・・」


 衣服の擦れる音。

 その音源が背後の小柄なJKともなれば、本来ならワックワクのドキドキシチュエーションであるはずなのだが、今のオレにはそんな余裕がなくなった。。

 白衣貂子の発言と、これまでの『悪運』が頭の中でシェイクされ、思考回路ががショートしてしまっているからだ。

 修復には少し時間が必要だと経験で理解した。


「ハァ・・・、まぁいいわ」


 貂子の声で、自分が地蔵のように固まっていたことに気づいた。

 数秒という時間であるが、脳内パニックのおかげで数時間はリープした感覚だ。


「アンタ、どうせ今日これから暇でしょう?」

「あ、あぁ。あとは帰って寝るだけだけど」

「そっ、じゃあちょっと付き合って、話がある」


 待て待て待て、パニックで畳みかけてくるんじゃない。

 そういや出会った頃に一度だけ彼女をラーメンに誘ったことがあったが、自分の時間は大切にする派だと豪語され断られたことを思い出した。

 以後、誘ったこともなければ何かに誘われたことも、もちろん無かった。

 時間ピッタリに来て、時間ピッタリに帰る。

 店外での彼女のことはわからないと、他のバイトの連中も言っていた。

 その彼女の方から、放課後のお誘いを受けている。

 いったい何なんだコイツは・・・理解の範疇を超えてきている。


「よし、終わり~。戻っていいわよ」


 少し躊躇(ためら)ったが、身体を再び半回転し元の方に向くと、そこにはブレザーを着た貂子が立っていた。

 背後からの声を本当に彼女かまだ少し疑っていたので、ホッとした。

 首にリボンは付けず、ジャケットのボタンは全開。おそらくこれが彼女のスタイルなのだろう。

 それにしてもこうじっくりと制服姿を眺めるのは初めてだが、なかなか似合っている。いや、イイ。


「・・・何見てんのよっ」

「あ、いやっ・・・あのさ、付き合うのはいいんだけど何すんだ?」


 バイト着を学生バッグに丁寧に詰め込みながら、コチラに目をやった彼女はまるで何かイタズラを企む子供のようにニヤッとしていた。

 ・・・イヤな予感。


「これからアンタの家に突撃訪問するから案内しなさいっ!」


 ビッ!と人差し指の銃口が鼻をかすめた。

 一秒、二秒、いや五秒ほど時が止まった。


 本当に時魔術を発動したのか・・・?


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああいぃ!?」


 脳内液晶モニターはついにエラー表示。


 オレはついにパンクした。



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