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贖罪の賢者  作者: 生茶
第一章
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そろそろやる気出す

「ごめん。飯奢るから許してくれ」


「え? マジでいいの? フィルア、お前やっぱり良い奴だな」


 ご飯を奢ることを言っただけで、すっかりと機嫌を良くしたデニアスは、フィルアの隣の席についた。


「アルさん。俺もビールくれ。あと、フィルアの奢りで適当に飯見繕って」


 デニアスが店長にそう言うと、店長は面倒そうに厨房に戻っていく。アルさん、というのは、店長のことで、本名のアルガンツを略している、常連客からの愛称であり、他には普通に店長だったり、マスターだったりと、色々な呼び名で呼ばれている。本人は、マスターではなく店長だと訴えているが、フィルアは直す気もなかった。


「それでよ、フィルア。お前にいい情報をやろう」


 デニアスが唐突に言った。


「なんだよ。できるなら金になる話がいい」


 鬱陶しそうに肘をついて言うフィルアに、デニアスはにやっと口角を上げる。


「もちろん、金の話だ」


「久々に、お前と知り合いでよかったと思ったよ」


「酷いこと言うなって。俺らの仲だろ?」


「少なくとも友達未満だよな」


「やっぱりこの話は無しだ。急用思い出したから帰るわ。じゃあな、知り合いAの男」


「待て! 待て待て。落ち着け。俺らの仲だろ!?」


 帰ろうと席を立つデニアスを、フィルアは慌てて肩を掴んで引き止める。その丁度のタイミングで、店長がジョッキに注がれたビールと、軽いつまみを持ってきてくれたことで、デニアスはおとなしく席に着いた。

 ビールを一気に半分ほど飲み干したデニアスは、気を取り直してフィルアに言った。


「フィルアよ。この前、ノートランドの森で遺跡が見つかったのは知ってるよな?」


「ああ、知ってるよ。カイルのとこのパーティーが攻略したとかなんとか」


「そう、そこだ。それで、これはカイルからの情報なんだが、遺跡の最新部に魔法仕掛けの扉があるらしいんだが、その扉がどうにもこうにも開かないらしい。このことはカイルのパーティーしかまだ知らない。あの遺跡も国が調査団を派遣したらしく、隅々まで搾り取られるのも時間の問題だ。幸い、遺跡に住み着いた魔物たちのおかげでまだ調査はほとんど進行していないらしい。で、どうだ?」


「で、どうだ? て何がだよ。そんなの調査団に任せればいいだろ」


「あのな、遺跡の最新部に開かずの扉があるんだ。そりゃとんでもないお宝があるはずだぜ。そんなもの国に取られるよりも早く、奪っちまえば一攫千金だ。もちろん、一人で行くことなんて難しいだろうから、この話に乗るなら、無償で冒険者パーティーを紹介してやる。腕利きのパーティーだから足は引っ張らないだろう」


 正直、おいしい話だった。遺跡の扉を開けるだけの話だ。それに、腕利きのパーティーもデニアス経由で一緒に連れて行くことができる。腐っても、元賢者であるフィルアは、魔法仕掛けの扉を開くことは難しいことではないと考えていた。

 魔法解析に関しては、他の魔法使いよりも頭一つ飛び抜けているフィルアになら、いくら遺跡の魔法だろうと、解除できないものではない。最悪、扉の中に強力な魔物やお宝を守る守護者ガーディアンがいようと、倒せるなら倒してしまい、逃げてしまっても大したリスクにはならないだろうと、フィルアは判断した。

 かなり、この話に興味を示していたフィルアに、デニアスはにんまりと笑みを見せた。


「ここで成果を得たら賢者に戻れるかもよ?」


 賢者に対しては、執着した様子のないフィルアだったが、デニアスのその囁きに、惹かれてしまった。あのぐーたら生活が頭をよぎったせいである。


「わかった。この話に乗ろう」


「よし! 決まりだ」


 デニアスはパンっと手を叩いてはにかんだ。

 なんだか乗せられてしまったような気がしたフィルアだったが、デニアスが情報通なことも知っていたこともあり、信用できると深くは疑わなかった。

 そして、デニアスは、用意された焼き飯やサラダを頬張りながら、詳しい話を進めた。


「しかし、あのフィルアがこんな依頼受けるとはなあ」


 そう感慨深げに言ったのは店長のアルガンツだ。

 それに対して、フィルアは口を尖らせる。


「うるせえ。今の俺は金を稼ぐためにならなんでもやる男だ。これからのことも考えなくちゃならないし、ずっと寝てる生活はしばらくお預けだ」


 心底残念そうに言う相変わらずのフィルアに、デニアスと店長は苦笑いした。そして、フィルアはデニアスと店長と会話に花を咲かせることもなく、依頼の詳しい話を聞いた後、デニアスの分の代金を払って店を出た。

 次に向かう場所は冒険者が多くいる、商店街の通りだった。幾分、話が急で、フィルアは冒険に出る準備も何もない。冒険者ギルドの依頼ではないにしろ、こういったクエストはかれこれ数年ぶりで、賢者になってからは一度も経験していなかった。そのための買出しに出る必要があった。

 ノートランドは、この王都から馬を用いて約二日ほど西に向かったところの街だ。そして、ノートランド遺跡は、ノートランドの街に隣接するようにある広大な森林地帯にある。


 何もないならそれで良いのだが、冒険には何があるかはわからないため、フィルアはそのための用意にはお金を惜しまず、徹底的に必要なものを集めた。実は久しぶりの冒険にワクワクしていたことも相まって、なけなしの金をふんだんに使ってしまった。しかし、この依頼を完遂させてしまえば、少なからず元は取れるだろうとは踏んでいた。


 そして、買い物を一通り済ませたフィルアは、一度宿に戻って荷物をまとめる。集合時間が翌日の早朝で、しかも王都の西門のため、明日起きて向かっていては間に合わない。フィルアが寝泊まりしているこの宿は、王都のやや東の辺りで、王城が見える位置にある。そこから西門までは、馬車に乗り合わせておよそ三時間ほど。今から出れば夕方には西門近くの宿が取れそうだった。

 こういった時に、荷物を置くための自分の家がないのは不便なのだろうが、あいにくフィルアの荷物は少なく、不要なものは宿のおっさんに預かってもらうことができた。


 フィルアは西門行きの馬車に乗り、日が暮れる頃には宿を取ることができた。

 安い宿で、これも質素な内装にフィルアは満足しながら、再度荷物の中身が大丈夫なことを確認すると、宿のご飯を食べてさっさとベッドへと転がる。

 いつもならすぐに意識が遠のくのだが、まるで遠足前の子供のように、目が覚めてしまう。思えば、実家を飛び出して、勝手に賢者になり、引きこもり始めてからは王都を出たことはなかった。フィルアがまだ学生だった頃はよく王都の外にも出て行っていたのだが、それももう無くなってしまった。目を閉じて、昔のことを懐かしむように思い出しながらフィルアはゆっくりと眠りについた。





                ■




 翌日のまだ日が地平線から出かかる頃、フィルアは西門の前でデニアスが用意してくれるという冒険者パーティーを待っていた。昼頃は暑いのだが、この時間は肌寒く、フィルアは上着を一枚羽織った状態で門のすぐそばでいる衛兵と適当な会話で暇を潰していた。


「へえ、ノートランドへ向かうんですか。あそこはいいですよね。あの森のおかげで資源が豊富だから、王都ばりに賑わってますしね。なによりご飯が美味しいですよ」


 フィルアが、ノートランドには出向いたことがないことを言うと、衛兵の若い男は親切に教えてくれていた。そして、有益な情報も衛兵は教えてくれる。


「あ、そういえば、ノートランドへ向かうなら気をつけてくださいね。道中は魔物もいますし、盗賊もいますし、夜間は特に注意が必要ですよ。ノートランドの森なんだったら、比較的魔物もいないですし、迷ったとしても、食料も取り放題だからあんまり心配するようなこともないんですけどね」


 そうして数分話していると、こちらに近づいてくる四人組のパーティーが目に入った。馬を五匹引き連れていることから、フィルアのい分の馬も連れてきてくれたのだろうと判断し、フィルアは衛兵に礼を告げてパーティーに近づいて顔を見たところで固まった。


「お久しぶりですフィルアさん」


「なんでお前らなんだよ」


 笑顔で手を振るカイルを見て、フィルアは急に冷めた気分になった。露骨に嫌そうな表情をするフィルアだったが、それはフィルアだけではなかった。


「ちょっと、カイル! なんでフィルアさんがいるのよ。優秀な魔法使い呼ぶってこの人のこと? いやいやいや、無理なんだけど! 優秀な前に色々終わってるんだけど」


 嫌悪感むき出しにして首を振って拒否するのは、ルーアだ。そんなルーアに、フィルアは歪んだ笑みを向ける。


「よお、ルーア。この前ぶりだな。俺もお前とパーティー組みたくないから帰っていいよ」


「私のパーティーなんだから、あなたが帰ってよ!」


「まあまあ、二人とも。喧嘩するほど仲が良いと言いますけど、二人の場合は普通に仲悪いっぽいから、今回は我慢してください」


 宥めるように言うカイルに、牙をむいていたルーアは釈然としない気分で引き下がる。しかし、フィルアはここに来て騙されたような気分になっていた。


「なあ、カイル。デニアスにこの依頼を頼んだのってお前か?」


「ええ、そうですよ。デニアスさんにフィルアさんを連れていけないか相談したらこうなりました。あ、でもでも、依頼の内容は本当ですよ?」


 両手を振っておどけるように言うカイルに、久しぶりに殺意を芽生えさせるフィルア。しかし、どうこういっても乗りかかった船。ここで引き返すのもカイル達に悪い気がするし、なにより、随分と意気込んで揃えた旅用の道具たちが使われずに捨てられていくのが寂しく思えた。

 幸先が悪いこの旅に不安を覚えつつ、フィルアは王都を出るのだった。

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