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贖罪の賢者  作者: 生茶
第一章
15/16

喧嘩するのは仲が悪いから

「ちなみにだが……。俺の知り合いに古代魔法やら古代文明の研究をしているやつがいるから、どんなものか見てもらうこともできるぞ。他よりも高値で引き取ってくれるかもしれん」


 あまりにもクロウが落ち込んだ様子なので、フィルアが慰めるように言うと、クロウはすぐに気を取り直したように表情を明るくさせた。単純な奴だなと誰もが思う中、カイルがもう一冊の本をフィルアに手渡した。

 フィルアが手渡された一回り小さな本をめくると、先ほどの分厚い本とは違い、手書きの文字らしき文章が目に入った。


 文字は読めないものの、どうやら手帳もしくは日記らしいそれは、とても丁寧なのだろう文字で、色々と書かれている。そして、パラパラとページをめくっていると、とあるページがフィルアの目にとまった。


「これは、魔法陣か」


 そのページには、手書きで書かれた魔法陣と、その周りには読めない文字がびっしりと敷き詰められていた。ぱっと見ただけではどのような魔法かはわからない。これは街に戻ったらきちんと調べようと思い、フィルアはカイルへと本を戻した。


「戦利品の確認はもういいだろ。反省会とかするんなら宿に戻ってからにしてくれ。俺はもう疲れた」


「そうですね。ここに長居する必要もありませんし。さっさと撤収しますか」


 そして、それぞれが荷物の確認をしている間に、カイルはギルド員の男に挨拶を済ませ、準備を整えた一同を見回した。


「それじゃあ帰ろうか。日が出ている内に帰るのは難しいだろうし、夕食を食べたら今日は早く寝よう。反省会は明日の朝ね」


 本当に反省会なんてしてるのかと、フィルアが内心呆れながら適当に返事を返す。一同が頷いたのを確認し、カイルは歩き出す。

 しかし、その歩みはたった数歩で止まる。


「どうしたの?」


 不思議そうにルーアが首を傾げていると、カイルが目を細めた。森の奥から金属の擦れあうカチャカチャという音、微かに木々や雑草をかき分ける音が聞こえてくる。

 そして生い茂る木々の隙間から、木漏れ日に反射する金属の鎧が見えた。


「……騎士?」


「だろうね。いやあ、彼らより早くこの遺跡にたどり着いて良かった。僕らの手柄が無くなっちゃうからね」


 ルーアが呟くと、カイルがほっとしたように胸をなでおろした。ギルド員の男に、今日か明日には騎士が遺跡の探索に手を貸してくれるということは聞いていたこともあり、驚きはしないが、安堵のため息は出る。

 国としても、古代遺跡の可能性のある代物なのだから、国としての手柄は少しでも多いほうがいいと思って、騎士を派遣したのだろう。しかし、第一発見者であるカイルのパーティーが先に探索していても違法ではない。


「騎士と協力したほうが楽だったんじゃないのか?」


「冒険者は貪欲なんです」


 フィルアの呟きにカイルが困ったように言う。フィルアの言うとおり、騎士と協力することも可能だっただろうが、確実にその分の手柄は分配されてしまう。

 冒険者としての知名度を高め、ランクを上げるには少し危険に身をさらすことも仕方のないことなのである。


 そうこうしているうちに、騎士の一行が森を抜けてカイルたちの前に姿を現した。人数は十数人と多くはない。

 全員が豪華すぎず、だが丁寧に手入れのされた光沢を放つ、鈍色の鎧を身にまとっている。胸にはルーザント王国の紋章が刻まれ、腰には柄頭と唾だけを見ただけで業物だとわかる、一級品の剣を携えている。

 凛々しく澄んだ顔立ちの騎士たちは、騎士たる誇りと威厳を体現させたかのような存在感を放つ。


 王国の中の腕利きの中の腕利きのみがなれる騎士の敷居は高い。剣の腕だけではなく、高い教養や騎士として相応しい素行まで評価される。現在、王国に騎士はおよそ500人に満たない人数がいるが、その誰もが百人力といっても過言でないほどの能力を有する。

 普通の歩兵とは格の違う存在なのである。


 魔法を目指すものは賢者、剣の道を目指すものは騎士といった様に、その存在だけでもなかなかレアなものである。


 そんな騎士の一行に目を奪われるのもつかの間、フィルアはとある人物を見つけて露骨に顔をしかめた。


「……いったい、こんなところで何をしているんだフィルアよ」


 先頭に立つ一人の騎士が、呆れ混じりにフィルアを睨んだ。他の騎士とは違い、もうワンランク高い装備を身にまとい、王国の紋章も金色に装飾されており、腰の剣帯にささるのは聖銀(ミスリル)製の剣である。

 その、他の騎士とは一線を画している圧倒的な存在感を放つ黒髪の若い男は、若くして騎士団大佐の座を我がものとするホープであった。


 その知名度は凄まじく、今後は国を支える騎士として巷でも度々耳にする。そんな崇高な騎士様に、剣呑な雰囲気で睨まれているフィルアを見て、ルーアとクロウは戦々恐々としていた。


「ちょちょ、ちょっと! 何したか知らないけど早く謝りなさいよ。あの人、レイア・エイマーズ様よ! エイマーズ家って言ったら大貴族よ。不敬罪で捕まっちゃうよ!」


 耳元で口うるさく騒ぐルーアを鬱陶しそうにフィルアは遠ざける。慌てて目を白黒させているルーアにため息をついたフィルアは、レイアを睨み返して言った。


「久しぶりだな糞兄貴」




          ■




 レイア・エイマーズが三十にも満たない年齢で騎士団大佐の地位を手に入れたのは、何も不正を行ったわけでもなく、その剣の腕と騎士としての振る舞い、幾度となく戦場で戦果を挙げてきたからである。

 ガルゼル王国創設から携わる大貴族であるエイマーズ家の長男であり、父は騎士団中将という実質のナンバー2である。


 そして、レイアはフィルアの実の兄であり、フィルアはエイマーズ家の次男である。剣に生き、その命を国へ捧げる事を悠久と誓う一族である。国王ガルゼル・ルーザントからも厚い信頼を得ており、知らぬ者がいない程の大貴族だ。


 そして、かのレイアは最年少での上級士官の位に位置しており、国としてもエイマーズ家としても誇りである。レイア自身もそのことを胸に刻み、常に騎士たる事を忘れずに精進してきたのである。


 だが、エイマーズ家には一つ悩み事があった。次男であるフィルアには剣の才能が無かった。努力はしていたし、彼自身もそれで苦悩していたことは家族全員が知っている。

 順調に行けば騎士になることはできたであろう。しかし、なれるだけだ。魔法の才がいかに高かろうと剣の腕が足りなければ騎士としては三流だ。


 エイマーズ家として、平均的な実力ではまるでダメなのだ。飛び抜けた才能と努力、その二つが必要であり、騎士の中で凡俗では認められない。

 いつしかフィルアは剣の道から外れていた。血の滲むような努力に努力を重ねても無駄なことを知ったのだろうと、レイアはフィルアが剣の道を諦めたことに仕方がないと目をつむっていた。

 しかし、知らぬ間に魔法の道に進み、気づけは賢者という称号まで手にしていた。


 父もレイアも、そのことを喜んだがその反面、エイマーズ家としてのあり方にふさわしいのか疑問に思っていた。エイマーズ家の面汚しとまでは言わないが、問題を起こさない限りはなるべく触れずにいたい問題だったのだ。


 そんな中、フィルアが突然の賢者落ちときた。フィルアが賢者になったとき、姓は公には公表されていなかった。そのため貴族を除く一般市民はフィルアの家名など知る由もなかった。

 だがそんなことは関係なく、父は激怒し、レイア自身もフィルアには少なからず怒りが沸いていた。

 実家にも長年顔を見せず、ほっつき歩いている弟に文句の一つでも漏らしたいのは当然で、しかし兄弟として賢者落ちしたことに対して優しい言葉をかけるべきなのだろうとも思う。


 だが、久しぶりに会ってみると、宿年の敵を見るかのような視線と態度にどうしても棘のある言葉しか浮かんでこないのだ。


 あくまでも反感を買うような態度を崩さないフィルアに、レイアは一つため息をこぼした。


「長らく会っていなかった兄にその言葉は良くないな。貴族としての言葉遣いを忘れるな。……まったく相変わらずだなお前は。どこでふらふらと生きているかと思えばこんなところで会うとはな。賢者になったかと思えば賢者落ちして……、次は冒険者ごっこか?」


 子供を諭すかのようなレイアの口調に、フィルアは青筋を浮かべて声を荒らげた。


「うるせえよ。何も迷惑はかけてないだろ。俺が何しようが自由だ。お前らには関係ないだろうが」


「え? ちょっとまって。フィルアさんてあのレイア様の弟……? てことはフィルアさんエイマーズ家なの? ええっ!? フィルアさんそんな偉い人だったの!?」


「ルーア、ちょっと黙っていようか」


 目を白黒させて混乱しているルーアをカイルがなだめるのを一瞥し、レイアは続ける。


「……いつまで子供なんだ。そんな甘い考えで生きていけるとでも? 貴族だから最悪、家にすがればなんとかなるとでも? そんな馬鹿みたいな考えを持っているのならさっさと捨てろ。いいか、お前は迷惑をかけていないとでも思っているんだろ。お前の知らないところで何度、父が頭を下げてきたかわかるか? それがどういう事か分かっているのか? お前は何度も何度も迷惑をかけてきてるんだよ」


「…………っ」


 追い込むようなレイアの言葉にフィルアは反抗の言葉が出なかった。本当に知らないわけではなかった。エイマーズ家の次男であるフィルアが貴族の間で悪い噂となっていることも、そのことでエイマーズ家の信頼を下げることになっていることも、父が何度かフィルアの横暴な行為の尻拭いをしてくれていたことも。


 それでも今更、尻尾を振って家に帰ることなどしたくない。剣の道を捨てた時からエイマーズ家を名乗るのは辞めたのだ。どんな顔で帰ればいいんだという話だ。


「何も言い返すことができなんだろう。フィルア、今ならまだお父様も許してくださるだろう。いいか、王都に戻ったら必ず家に顔を出せ。いいな」


 冷たく述べるレイアだが、同情的な意味を含めた言葉にフィルアは歯を食いしばり、悔しさを滲ませた。

【あまり重要ではない設定】※本編でまた説明するかも

騎士には階級があります。

上級士官である大将、中将、少将、大佐、中佐

中級士官である少佐、大尉、中尉、少尉

下級士官である曹長、軍曹、伍長

その下に普通の騎士たちがいます。そんで、普通の一般の兵士たちにも階級はありますが、基本的に騎士の下について命令を受ける側になります。街を守ったり警備しているのは基本的に衛兵で、一般的な兵士になります。

あと、この階級は少し違うくね? という意見があるかもしれませんが、ややこしい部分を消して分かりやすくしてるだけです。

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