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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幽霊の出るトンネル

作者: うちはイタチ

第1章 噂のトンネル


“ねえねえ、聞いた?また…出たんだって!”



“え~っ。まじヤバイじゃん!”



福島県いわき市豊間に、「出る」と噂のトンネルがある。


確か、私がまだ小学生の時だったと思う。若い女性の幽霊が出る…と評判になり、みんな幽霊を見に行ったらしい。


少ない時で8人以上。多いと50人近くが夕方から深夜にかけ、トンネルの入口付近で待ち続けたという。


かくいう我が家の父や祖父まで、幽霊見たさに近所の人の車に便乗して行ったのだから、驚きだ。



“…へえ、幽霊が出るんだぁ。”



私はその噂を耳にして、鳥肌がたったものだ。信じられなかった。故郷に、そんな恐ろしい場所があるなんて…。

「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」とか、言うではないか。



“どうせ違うって!”



友達が、笑う。



“出るわけないよ、幽霊なんて…。”


一時期、幽霊出現の噂で持ちきりだったものの、次第に飽きてきたのだろう。誰も、口にしなくなった。


なぜならば…。


例のトンネルの隣に、新しいトンネルが作られたからである。


古いトンネルは、立入禁止区域となった。崩落の危険性がある、というのが名目だった。


それでも、肝試しに入る人が後を絶たなかった。入口には、柵が設けられた。が、壊してまで侵入していく不届き者のために、頑丈な鉄格子が設置された。


当然、肝試しなどできるはずもなく、噂は、次第に立ち消えになっていった。


形ばかりの供養が行われ、近くには供養塔が建てられた。幽霊も出なくなったらしく、成仏したのだろうと、皆、納得した。


ただ……。


なぜ、そこが幽霊騒動を引き起こす現場になったのか。私は、全く知らなかった。


ところが、それから半年後……。



「帰りに、エラいもの乗せちゃってさ~。」



タクシー運転手の一言を皮切りに、再び、幽霊騒動の恐怖が始まろうとしていた。

第2章 ハイヒールの女

「途中まで、乗せていってほしいって言われて…。」



運転手の話では、山道の途中で女性をひろったらしい。しかし、例のトンネル前で、その乗客は霧のように消え失せたとか…。


しかも、今度は新しいトンネルの前で…だ。タクシーでは、よくある幽霊話である。


そのうち、幽霊が乗るのはタクシーだけに限らなくなった。全く霊感のない会社員が、やはり同じ場所で知らずに乗せてしまった、という。


まだ小学生だった私には、それがどの辺りで起きた事なのか、全然見当がつかなかった。


それから10数年後、私は、今の主人と出会った。



「塩屋崎灯台まで、ドライブしない?」

ある時、主人の提案で、塩屋崎灯台までドライブがてら、夕食をとる事になった。


言うまでもない。豊間にある、塩屋崎灯台である。


3時頃だったため、まだ日は高かった。


が、もう秋。日没は早い。灯台を見てから、新舞子に向かうことにした。


季節は、すでに10月中旬に差し掛かろうとしている。そろそろ、薄手のコートが必要な時季だった。


私は助手席に身を沈め、次々に移り行く外の景色を眺めていた。


車内には、主人の好きな曲が流れている。


…と、その時。


車外から、カツカツカツ…。リズミカルに響く、ハイヒールの音が聞こえてきた。

見えたわけではないのに、なぜか私は、黒いハイヒールをイメージした。

ドア1枚隔てた車外に、女性の後ろ姿が見えた。


まだ若く、23から24歳といったところか。セミロングの黒いストレートヘアが、さらさらと揺れていた。


綺麗な薄紫の、ワンピースが見える。小さめの黒いバッグを、右肩にかけているのがわかった。身長は、150cm前後だろう。どちらかと言えば、華奢な体つきだ。



「若いねえ。」



ほぼ同年代にも関わらず、半ば感心したように私は呟いた。



「まだ半袖だなんて…」



主人は聞こえなかったのか、鼻歌を歌っている。


私は、再びシートに身を沈めようとして、



“……!?”



奇妙な点に気づき、勢いよく起き上がった。 そうだ。何か、変だった。彼女には何かしら、おかしな所があった。


百メートル先には、豊間で最後のトンネルが、真っ暗い口を開けて待っている。そこまでの間に、民家はひとつもない。


トンネルの先も、そうだ。何回か来ているので、よく記憶している。


彼女はまるで、そのトンネルに向かっているかのように、歩いていた。


なぜ…?


どうして…?


…あんな、電灯も点いていないようなトンネルなんかに…。



“彼氏と、喧嘩でもしたのかな?”



だったら、戻ればいい話である。普通なら、遠回りでも明るい方を好むはずだ。

それに、…何よりも奇妙なのは、半袖だった事だ。


“あれじゃ、真夏の服装じゃない?”



私は思わず、身を乗り出さんばかりに、彼女の顔をまじまじと見つめた。美人ではない。が、可愛らしい顔立ちなのがわかる。


視線に、気づいたのかも知れなかった。


相手がゆっくりと、まるでスローモーションのように、こちらへ、目だけ動かすのがわかった…。



第3章 奇妙な体験


“…やばっ!”



見て見ないふりを決め込み、シートに身を沈める。



“怒らせちゃったかな…?”



私は、半ばドキドキした。悪い事をした、と思った。


トンネルは、もう目の前だった。何の変哲もない、普通のトンネルなのだが、…魂が、押し潰されるような圧迫感があった。


気味が悪い。入りたくない、と一瞬思った。


誰かが、



“入ってはだめ!絶対、入らないで…!”



そう叫んだような気がした。


車は、まるで吸い込まれるように入り、やがて、吐き出された。



“そういえば、あの人…大丈夫だろうか?”



「ちょっと、止めて!」



主人が慌てて、ブレーキを踏み、



「なに?なに?どうしたの?」



少々怒ったように、声を荒げた。普通なら、歩行者に気づいてもよさそうなものだった。


が、気づかなかった。


女性が気になり、私は振り返ってみた。向こう側に、トンネルの出口が見える。思っていたほど、トンネルは長くはなかった。


トンネルのどこかに、彼女の姿が見えてもいい頃だった。視力2.0の私が、見逃すはずなどない。


…なのに、彼女は現れなかった。

途中で、休んでいる様子はない。かといって、戻っていく姿の片鱗すら見えない。


古い方のトンネルを通り抜ける。…なんて事は、それこそあり得なかった。



“…消えた…?”




人間が消滅するなど、…それこそ奇妙だ。だいたい、物理的に絶対不可能だろう。


下車して確認しようと、ドアノブに手をかける。…が、何かが私を躊躇させた。



“降りるな…!降りてはいけない。”



再び、誰かが私の脳裏に呼びかけてくる。悩んだ挙げ句、私は下車を諦めた。



「女の人、いたよね?」



私は、主人に食いつくような勢いで尋ねた。



「いたでしょ?女の人。ねえ、さっきの人どこに行ったの?」



「はぁっ!?」



“一体、何を言ってるんだ?”



とばかり、主人が、面食らった表情になった。



「女の人?見てないけど?何言ってんの?」


「だって私、見たんだもん!女の人が歩いててさ…。」



“…あれっ?会話が成立していない…。”



そうだ。歯車が、噛み合っていなかった。お互いの主張が、矛盾していた。




『いや~、エラいもん乗せちゃってさぁ…。』



タクシー運転手の話が、突然甦ってきた。



『その若い女の人、…新しいトンネルの前で…』



確か、霧のように消えた…とか言ってなかったっけ?しかも、ここは豊間だ。思わず、全身に鳥肌がたった。


そういえば…。


いつの間に、彼女は現れたのか?あの一本道には、人っ子ひとり見かけなかったはずだ。


地から湧いたか、空から降ったかしない限り、説明のしようがなかった。


奇妙な感覚だった。目撃者が私しかいないとは、どういう事なのだろう?



“まさか、あの人…?”



考えたくもない推測が、嫌でも脳裏を(よぎ)った。


「幽霊でも見たんじゃない?」



主人が、冗談半分にからかってくる。とにかく、一刻も早くこの場を去るに限る。


塩屋崎灯台を見に行った私達は、その後、新舞子で夕食をとった。


結局、あの女性がどうなったのかは、わからなかった。


それから2週間後…




第4章 不可解な出来事


通勤中、主人が事故にあった。


なんでも話によると、道路が凍結していたわけでもないらしい。なのに、スリップしてしまった。一瞬、ブレーキが効かなくなったという。


そこへ、同様にスリップしてブレーキが効かない状態のままの、対向車が激突。車はシンクロするように横滑りし、お互いの後部座席をめちゃめちゃにした。


が、奇跡的に、ふたりとも怪我ひとつしなかった。


さらに、数日後…。


信号で右折待ちしていた私の車の助手席に、追い抜いてきた後続車が接触。サイドミラーだけが、吹っ飛んだ。


両者とも、怪我はなかった。


そして、…。

次が、園児を乗せた送迎バスだ。


帰宅のため送っていたところ、乗用車と正面衝突。幸いにして、我が子は風邪で休んでいたため、大事には至らなかった。


それから、母が乗っていたバスが被害にあった。運転手の具合が悪くなり、気絶。バスは蛇行運転した挙げ句、電信柱に激突して停止した。テレビでも報道された大事故だったにも関わらず、母は軽傷で済んだ。


極めつけは、自宅に車が2度も突っ込んだ事件。


たまたま、父が家に入った直後だったので、間一髪で助かった。


ただ、ガードレールを突き破って玄関先を破壊した相手は、額を負傷したらしい。



…私は、ゾッとした。

第5章 判った事は…


こんなに立て続けに起きたのは、何故だろう?あのトンネルと、何か関係があるのか?それとも、ただの偶然か?


念のため、主人の車を調べてもらったものの、どこにも異常はなかったという。



さて、例の幽霊騒動だが…。



40年以上前、豊間地区のトンネルで、事故による若い女性の死亡事件があったとか…。


跳ねられた直後は生きており、ふらつく足で帰宅しようとしていたところを、後続車に再度跳ねられて亡くなった…とも、即死だった、とも噂されている。


結局、それ以上の詳細は解らず仕舞いだった。


残念ながら、犯人は未だに捕まっていないらしい。

もしかしたら、彼女は、今でも自宅に帰りたがっているのかも、知れない。


或いは、自分を死に追いやった犯人に対し、復讐を…?




あくまでも、私が聴いた噂である。




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