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旅中記  作者: 琅來
第Ⅱ部 禁域の杜の社
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第一章「危殆に瀕す」―2

 六人は、マウェを除き、到って気まずそうに、居心地が悪そうに、彼らの陣営に招き入れられた。

 特に、ミリーメイとメイファとリューシュンは、それが顕著であった。

 何をどうすれば、相手が気付いていないとはいえ、追われている相手の本陣に招待されなければならないのだろう。

 まあ、マウェが知り合いだということを明かさなければ、『招待』どころか『連行』されていた可能性の方が高いから、今の状況は最悪とは言えないだろうが。

 ウィオとリラも、気まずそうに視線を交わしていた。

 もし、これでばれてしまったら……もしかしなくても、自分達も一緒に連れて行かれてしまう。

 そうなったら、村の存続はおろか、《ウェルクリックス》を捕まえることもままならない。

 結果、何もしないまま村は潰れて終わりとなってしまう。

 それだけは耐えられない。

 何が何でも、やらなくてはならないのだ。

 リラは、ふと思った。

(そういえば……マウェさんの話に出てた、あの三人……。自分の所にいろって魔女は誘ったけど、自分達にはやらなければならないことがあると、戻らなければならない場所があると言って、それを断った……もしかしたら、今の私達と同じ気持ちだったのかも……。私には、やらなければならないこと――《ウェルクリックス》を捕まることがある。行かなければならない場所――帝都に、行かなければならない。そして、しなければならないこと――皇帝と対峙して、村を護らなければならない。最後に、戻らなければならない場所に――私達の村、メイラン村に戻らなければならない。こうやって考えてみると、私達と〝鬼の森〟の三人って、よく似ているわね。でも、違うところもある。こうして……ミリーメイさん達に出会えたことが。まあ、皇族で巫女でってことには、すっかり度肝を抜かれたけどね……)

「どうぞ。大したもてなしもできませんけど」

 フェムリヴドと名乗った二十代後半ほどの男性に、飲み物を手渡された。

「あ、ありがとうございます」

 リラが会釈すると、

「いいえ~」

 と笑って返されたが、リラは、その目が全く笑っていないことに気付き、ぞっと背筋に寒気が走った。

(……怖いっ! 何この人! そ、そりゃあ、名前に年齢までも詐称しちゃったのは、こっちだけど……)

 六人がリューセムやフェムリヴドと向かい合って座ると、まずリューセムが口を開いた。

「さて……一つ、訊くが……マウェ。何故お前は、名前だけではなく年齢まで偽った?」

 口調こそは厳しいが、どこか呆れ返っている雰囲気がある。

「まあ、それはこちらの事情です」

 マウェは、あっさりばっさり切り捨てた。

「偶然とはいえ、貴方方が捜している人間とこちらの人間の特徴が似通っていたもので、つい嘘を吐いてしまいました。それに、こちらが追われていないとも言い切れませんでしたし」

 その言葉に、リューセムは眉を寄せる。

「どういうことだ?」

 その言葉に、ミリーメイが答えた。

「えっと、リューセムさん。その、私達は、もともと別の目的で動いていたんだけど、偶々一緒にいる。……これは、分かって頂けるかしら?」

「ああ」

「それで、そのもともとの人数なんですけど、私と、こっちの娘と義理の息子、で、そっちのマウェさんとこちらの二人。まあ、偶然ですけど、マウェさんは私達のことを庇ってくれたんです」

 その言葉に、フェムリヴドが呆れ返ったように言った。

「それだけで? たったそれだけで、名前まで偽ったと?」

「しょうがないじゃないですか。だって、こっちだけ名前を変える訳にはいきませんでしょう?」

 リラは、思わず口を挿んでいた。

「……どういうことだ? 娘よ」

「まず、私達の事情をご説明致しますね。私と彼は、ここから離れた村――メイラン村に戸籍を持っています」

「……メイラン村?」

 二人が首を傾げるのを見て、リラはくすりと笑った。

「ええ。そこで、私はふくおさをしていて、彼は村長の一人息子……つまりは、メイラン村の次期(むら)おさです」

 その言葉に、二人は唖然とした。

「……副長と次期村長が? 何故ここに? それに、今の時期に村を離れるとは、尋常ではありませんね」

「……そうか。では……あの噂は、正しかったということか」

「……ラムドウェッド大尉?」

 フェムリヴドは訝しげに眉根を寄せた。

「どのような噂ですか? リューセムさん」

 リラが問い掛けると、リューセムは頷いて言った。

「其方らは、婚約者であろう? そして、メイラン村を取り潰そうと目論む近隣の村の者が異議を申し立てて、それで旅に出ることになった。その目的までは、知らぬが……」

「あら、正解です」

 リラは、悠然と微笑んだ。

「凄いですね。そこまでご存知でしたか」

 すると、フェムリヴドが納得したかのような声を上げた。

「ああ、そういえば、聞いたことはありますよ。もう、十年以上前でしたか……副長の長女と村長の長男が婚約することになったって……あれ? ちょっと待って下さい。貴方達、兄弟は?」

 その言葉に、ウィオが苦笑して言った。

「一応いるな。けど、こいつには弟が二人だけしかいないし、俺には姉貴が一人と妹が二人だけ。ついでに、俺が生まれたのと同じ年に生まれて今も生きてるのは、男二人とこいつだけ。だから、俺は次期村長でこいつは副長なのに、婚約者になるって事態が発足した訳だ。ちなみに言っとくと、こいつには叔母さんとかがいなくって、いるのは母親の男兄弟の娘。つまりは代理の副長にしかなれない従姉妹しかいない。で、両親は二人とも亡くなってる。俺は俺で、父親には男兄弟がいなくて、いるのは女兄妹だけ。だからこいつと似たような状態になってるんだ。違うのは、うちは両親が生きてるってことだけど、母さんは末の妹を産んだ後に体を壊して、子供を産めなくなっちまった」

 ウィオは一息つくと、顔を顰めて言った。

「でも、今更になって蒸し返してきたみたいだな、それ。で、俺達にウェブラムの森に行って《ウェルクリックス》を番いで捕まえて来い、と。だから、俺らはここに来てるっつう訳だ。何でマウェが俺と一緒にいるかって言うと、道案内代わりに、っていうことらしい」

 ウィオは鼻で笑うと、溜息を吐いた。

「全く、ふざけてる。でも、拒否したら俺らの村は潰される。だから、やるしかないんだ」

 その強い言葉に、フェムリヴドが頷いた。

「それは、そうでしょうねぇ……。ああ、それで、名前を偽った訳ですか。妨害してくるかも知れないと思ったから……」

「そ、正解」

 一同の間に、少し和やかな空気が流れた。

 だが、リューセムだけが険しい顔をしている。

「あの、ラムドウェッド大尉? いかがされました?」

 フェムリヴドが訝しげに訊ねると、リューセムは険しい顔をリラに向けた。

「それで? 本気で《ウェルクリックス》を捕まえて帝都に行く気か? 巫女殿」

 その言葉に、フェムリヴドを含めた七人は皆絶句する。

 その沈黙を最初に破ったのは、リラだった。

「……さすが、よく、ご存知のようですね……《ウェルクリックス》のこと……」

 その言葉に、リューセムは静かに頷く。

 一人、フェムリヴドだけが事情が分からずに、おろおろとしていた。

「え、えっと……ラムドウェッド大尉? それに……そちらの方も? 一体、どういうことです?」

 その言葉に、リューセムは軽く笑った。

「お前が言ったのではないか? フェムリヴド。昔に、妃達が、物見遊山で、旅をしていた。そして、シャブワル村に泊まっていた。偶然だとは思うが、丁度私達と同じような道を通っている、と」

「あ……それは、確かに言いましたけど……」

「私は、もっとよく知っているぞ、フェムリヴド。その妃達の行き先は、シャブワル村ではない。その先……つまりは、神域であるウェブラムの森。そして、その妃は全員、巫女であった」

 その言葉に、フェムリヴドの顔色が変わった。

「なっ……」

「しかもな、《ウェルクリックス》というと、其方には聞き憶えのない鳥であろうが……《ラーウェーリス》というと、分かるか?」

 その言葉に、フェムリヴドは思わず立ち上がった。

 その勢いに、思わず六人は仰け反る。

「《ラーウェーリス》っ? あの……あの、虹色の糸のことですか? 巫女しか捕まえることのできない鳥の羽を使った、あの、伝説の糸っ……!」

「まあ、糸だけではないぞ。勿論糸にも加工されるが、そのまま羽を使うこともある。そして、もっと贅沢な物になると、《ラーウェーリス》だけを使った布などというような物もある」

「えっ……? ちょっと、待ってくれ」

 ウィオが、頭を抱えながら言った。

「っつうことは? 鳥なら《ウェルクリックス》で? 糸に加工されたり羽の状態だったら《ラーウェーリス》? ……駄目だ、頭がこんがらがる……」

「あ、その……《ラーウェーリス》って、虹色のドレスのことを言うのでは……?」

 リラが訊ねると、リューセムは顔を綻ばせて言った。

「ああ。昔ならばともかく、今では、貴重と言うのもおこがましいほどに貴重過ぎる鳥だからな。今では、その代用品として作られた人工的な虹色や、それに近い色の糸を使って作った物も《ラーウェーリス》と呼ばれるのだ。まあ、いくら似せてあるとはいえ、所詮は代用品。本物には到底敵わぬがな」

 妙に実感の籠もった言葉に、リラは感心したように目を瞠る。

「まあ……そうだったんですか……」

 さすがはリラである。

 ウィオは、頭を抱えて言った。

「おい……俺には、全っ然分からん……お前らの会話、高度過ぎるだろ……」

「あら、これぐらい一般教養よ。そうでしょう? リューセムさん?」

「ああ。そうだな」

「だからっ! 貴族のこいつならともかく、何で副長とはいえたかが農民が『一般教養』なんて抜かすんだっ!」

「あらっ? ウィオが知らな過ぎるだけでしょ!」

 と、ウィとリラの言い争いが勃発しようとしたが、リューセムが首を捻って言った。

「『ウィオ』?」

「あ……」

「あっ……」

「や、っちゃったわね……」

 リューセムは、少し厳しい視線を向けた。

「それで? 君の名前は、ウィオ、というのか?」

「あ……ああ、そうだ。で、こっちはリラ、って言う」

「すみません。まだ、名乗ってなかったんですね」

 リラは苦笑しながら言ったが、内心冷や汗を掻いていた。

(……まずいっ、まずいっ! このままじゃあ、ミリーメイさん達の名前もってことになっちゃう! まずいわ! これで、ばれたらっ……!)

「それでは、そちらの名は?」

 リューセムが、そう言って視線を三人に向けた時、突然人が入って来た。

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