第二話 願い
そのあまりの美しさに少年は言葉を忘れ立ち尽くした。
人魚の銀色の髪が海の赤に溶けていくような錯覚すら起こす、そんな中、人魚は淡々と言葉を並べる。
「どうしたの?私が貴方の捜していた人魚よ。」
人魚は彗の予想を遥かに上回るほど美しかった。
人魚は彗の頬に触れた。
その手はまるで氷の中にでもいたかの様にとても冷たい。
「ひなに、ひなにもう一度逢わせて下さい。」
それでも彗は肩を震わせて言った。
そんな彗に人魚はただ不思議そうな顔をしてみせた。
「なぜ一人の人間なんかに会う為にたった一度の一つだけ叶う願
いを使うの?」
「理解できない」人魚はそう言った。
彗は「いいんです。」とそれだけをいって人魚を見つめた。
「いいわ。ずっと一緒にいられるようにしてあげる。だから…。」
そういうと人魚はぶつぶつと何かを唱え、辺り一面が大きな光に包まれた。
「…貴方の体を頂くわ。」
すると彗の体はゆっくりと傾き人魚の手に落ちた。
白い雪景色と赤い海で有名な恐ろしい作り話で固められた人魚姫が住んでいるという小さな岬には嬉しそうに微笑んで死んでしまった少年の体を白い氷の中に閉じ込めた一人ぼっちの人魚が存在するという。
「これでもう一人ぼっちじゃなくなる。もう私は寂しくないわ…。」
だが、その表情はどこかとても悲しそうだった。
「もう一人ぼっちは嫌なの。彗…ずっと私の傍にいてね。」
そういうと人魚は彗の体ごと氷を海にそっと沈めた。
「貴方が、願いを叶える人魚ですか?」
「えぇ。」
人魚はとても不気味に微笑んだ。