第一話 赤い海
遠い昔よりそこには人の願いを叶える人魚姫が住んでいるという。
白い雪景色と綺麗な青い海で有名な小さな岬。
人々はそれを『人魚岬』と呼んでいた。
青い海と雪の白は対照的で妙に美しかった。
人々は人魚を愛し、人魚もまた、人を愛した。
だが、100年前を境に、海は赤く染まり、人魚に会いに岬へ行った人々が、誰一人として帰って来なくなった。
いつの間にか人々は人魚の存在を恐れはじめた。
人食い人魚。
港街ではそう囁かれるようになった。
大人たちはわが子を守ろうと必死に人魚岬の恐ろしい作り話を作り上げていった。
「ここが人魚岬…。赤い華が咲いてるみたいだ。」
彗は母親からきいた、命と引き換えにたった一つの願いを叶える人魚を探しに岬に来ていた。
彗は初めて見る赤い海に少しだけ恐怖を覚えた。
海だというのに赤い水面には波すらたっていない。
まるで波すらも海の底深くに飲み込まれてしまったかのよう。
辺りを見回しても人魚どころか生き物一つ存在しない。
その場所で彗は人魚の存在を捜し続けた。
「人魚岬に存在するとうい美しいといわれている人魚姫。どうか僕の願いを叶えて下さい。」
「どうして貴方は人魚を捜すのですか?人魚を見つけたらもう帰れないかもしれないのに…。」
その透き通った声に彗はまた辺りを見回した。
だが、景色はさっきまでと何一つ変わらず、ただ声だけが岬中に響いていた。
「大切な、大切な人が死んでしまったんだ。だから自分がどうなってもいいから。一度でいいからあの人に逢いたかったんです。」
彗が答えると不自然に海が揺れた。
すると赤い海から銀色の髪をしたとても綺麗な人魚が顔をだした。