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砂時計

作者: 空乃


 砂が零れる。

 さらさらと、まるでコップに注がれた水が落ちるように真っ直ぐに・・地へと堕ちていく。

 それは、私たち人という生き物が持っている、最も大事なモノと酷似しているように思える。

 人の最も大事なモノ――命と。



 小さい頃、私はちょっと一風変わった子供時代を過ごした・・と思う。


 父方の祖母が、「明日香(私の名前)には、不思議な力がある。だから、私と一緒に暮らそう」と、ようやく卒園式を迎える5歳くらいの小さな頭に、皺の寄った手を乗せ、にんまりと笑った。あの顔は、今でもずっと頭の隅っこで息づいている。それくらい、かなり印象深く、子供心に恐怖と好奇心という思いを育たせる種となった。


 それから私の生活は一変した。


 何処か解らない場所に、祖母が私を離さないと言わんばかりに手を繋いでは、息子(私の父)と嫁(私の母)の反対の声など無視して連れ去ってしまったのだ。それを後に成長した私は驚愕することになったのは、言う間でも無い。


 だって、おばあちゃんとの思い出は、ずっと笑いっぱなしの物しか無いのだから――。


 いつだって思い切り笑い、転んで盛大に泣く小さな孫の頭を撫でまわし、たくさん、たくさん、光輝くような思い出を与えてくれた。


 だから、私が小学校を卒業して一週間後に電池が切れた人形のように亡くなってしまうなんて想像もしていなかった。


 もちろん、私は泣いた。

 運ばれた病院に駆け込んで、息子であるお父さん以上に泣き喚いた。義理の娘であるお母さんが、その私の泣きように呆気にとられた程だ。


「あの時の明日香、本当に泣き喚いて・・・お母さん、ビックリしちゃったわ。」

「だって、おばあちゃんと居ると・・楽しくて、悲しかったことなんて直ぐに忘れられるちゃうんだもの。凄く、不思議な人だった・・。―――もう、あれから6年かぁ。もう、おばあちゃんとはお別れだね。」


 あれから6年。

 私は、18歳となり、他県の大学を受けた。もちろん、そっちで独り暮らしを始めるつもりだ。


 仁王立ちするかのように、地にシッカリと足を付けて、両手にたくさんの野菜を詰めた籠を携えた、悪戯好きの子供のような顔。


 近所の男子(今では彼氏)にいじめられては、「明日香が可愛いからだ」と何度も何度も笑っては、撫でていてくれた優しい顔。


 迷子になってしまった小さな私を捜し出して、手を強く握ってくれた時の怒ったような・・泣きそうな顔。


 小学校の運動会で、お父さんとお母さん以上に張り切り過ぎて、ぎっくり腰になってしまった時の、ちょっと情けなくて、凄く楽しそうだった顔。


 何時でも、何処でも・・・おばあちゃんは、輝いていた。


 ―――私を連れ去った時のような、あの、にんまりとした笑顔のおばあちゃんの遺影。


 私が思い浮かぶ、たくさんの輝く思い出の中で、一番存在感を示すのが・・この笑顔。

 これを見た時は、既におばあちゃんの中では、数分くらい後のことまで誰に何を言われようとやり通してやる、という意気込みの表れなのだ。


 それを実行出来るほど――己の意志と、己のことを理解している人の笑顔。


「明日香、そろそろ行きましょう。新幹線に間に合わなくなるわよ。」

「うん。―――じゃあね、おばあちゃん。絶対に、『約束』・・・忘れないよ。」


 行ってきます、おばあちゃん。


 荷物の入った鞄の紐に手を掛ける。

 最期の最期まで、笑顔で逝った自慢の祖母の言葉を思い出しながら。


『人の命ってもんはね、まるで砂時計みたいに・・ゆっくり、ゆっくり、最初の粒が落ちたら、それにつられるように、次第に増えては――「溜まっていく」のと、同じなんだ。だから、おばあちゃんは、ずっと、ずっと生きてきた。どうせ溜まって、落ちる砂が無くなってしまうなら・・おばあちゃんは、後悔なんかしないで砂を溜めてやる。―――そう思って、この81年間を、ずっと生きてきた。』


 まだ12年しか生きていない小さな孫の頭を、ゆっくりと、まるで物語でも読むかのように・・あの頃より皺が一段と増えた手で撫でながら話す。


『良いかい、明日香。人は、限りある時間の中でしか生きられない。だから、お前は――約束しておくれ。』


 ――どんなに辛いことがあっても、絶対に、生き抜いて・・・また会った時に土産話として話してくる・・って。


「 『だって、明日香にもおばあちゃんと同じように不思議な力があるんだから』――か。」


 人を惹き付けて放さない、人に1番必要なモノだ・・そう、おばあちゃんは言っていた。

 同じ力が有るのだから、それが引き合い、また会える。

 だから、あの頃みたいに、また笑い飛ばしながら話して、話して、話し尽くそう。

 それが、おばあちゃんとの『約束』。


 それが、おばあちゃんと私を繋ぐ、大きな、大きな絆の証。


「明日香――!早くしなさ――い!」

「はぁ――い。」


 だから、もうちょっと待っていてね。

 砂時計の砂が全部無くなるまで、私は私なりに生きて、生きて・・・幸せになるから。おばあちゃんみたいに笑って、子供を抱いて、孫を連れ去って――。


 『約束』を、必ず守るから。


 改めて――。夢に向かって行ってきます、おばあちゃん。



 さらさらと砂が落ちていく。

 まるで人の命のように、最初の一粒が零れれば長い時を経て、その運動を停止させる。

 だが、その砂の零れる時の中で、人がどう生きるかは、その持ち主次第。


 どう生き、どう最期を迎え、砂時計の砂を止めるかは――貴方次第。


初めての投稿作品です。

中学生のころから、話を書くのは好きだったんですが、

こういうサイトで投稿してみる勇気があまり持てず・・・(汗


楽しめて頂けたのなら、幸いです。

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