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Out-of-Page Märchen  作者: 桜桃
第4章 - 処理者編 -

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幕間「それぞれの役割」

ゲートが閉じた境界《きょうかい》内。


謎の手に引き寄せられた後、咲《さく》は何者かに抱きとめられていた。


辺りは紫や青など曖昧な色が揺らめき、実体のない壁に囲まれているようだった。


そして。


抱きとめている存在には、見覚えがあった。


「っ……」




―――ジェスター衣装。




咲《さく》は、ゆっくりと顔を上げた。


白塗りの肌。

両頬に、スペードとクローバーのマーク。

大きくて、赤い垂れ目。


間違いない。


また会いたいと思っていた、あの彼だった。


「……大丈夫、だっタ?」


その声を聞いた瞬間。

張りつめていたものが、ふっとほどける。


息が震える。


フールだ。


この世界で最初に出会った、人ならざる者。


しかし、今はそんなことはどうでも良かった。


「フール……っ!!」


咲《さく》は思わず、フールへ縋《すが》り付く。


やっと、少しでも安心できる存在に会うことができた。


フールは体勢を崩さないまま告げる。


「境界《きょうかい》ノ、バグだヨ。危なかったネ」


淡々とした言葉。


けれど、助けに来たという響きがあった。


「私……っ……あれからいっぱい怖い目にあったんだよ……」


フールの腕の中で、咲《さく》は泣きたい衝動を抑えながら伝える。


「うン」


声は変わらない。


しかし、空気を乱すようなことは言わず、ちゃんと聞いていた。


「殺されそうにもなって……怖くて……っ」


咲《さく》の握る指先に、更に力が入る。


「……うン」


先程よりも、相槌《あいづち》の間隔が開く。

彼なりに、何か思うことがあるのだろうか。


フールは何も言わず、咲《さく》の話を聞き続けた。


王子のような毒林檎がいた、白雪姫の世界のこと。

可愛らしい要素が全くない、人魚姫の世界のこと。

立場の逆転した、101匹わんちゃんのような世界のこと。


フールは驚くような素振りもなく、咲《さく》を抱きとめたまま、“うン、うン”と聞いた。


このまま、彼の元に踏みとどまりたいと思ってしまう。


咲《さく》の指が、フールの服をきゅっと握った。


「……ごめんネ」


何かを察した様子で、フールは言った。


咲《さく》の肩に手を乗せ、わずかに距離を開ける。


「え……」


わずかに失われた温もりに、咲《さく》は彼の顔へと視線を上げた。


「……マイ、長居ハ、できなイ」


変わらない困り眉。

感情の見えない表情。


しかし、今はそれが、本当に困っているように見えた。


フールは咲《さく》を離し、ゲートを開く。


彼の指先が空間をなぞると、揺らめいていた景色に、見覚えのある穴が開いた。


刺々しい植物の蔓《つる》が、城に絡みつく世界。


ペッツァートの世界に落ちる前に、境界《きょうかい》の先で見た景色だった。


「これガ、正しい道」


何をもって正しい道としているのかは謎だ。


しかし、彼も案内人だ。

迷い込んだ者に合う道を、彼なりに作っているのかもしれない。


「ここデ、お別れだヨ」


フールはゲートに向けていた視線を、咲《さく》へと向けた。


「元に戻ス、ネ」


いつもの困り眉が、わずかに下がった気がした。


言葉が、妙に引っかかる。


彼も同じ気持ちなのではないかと、錯覚してしまう。


フールはゲートの先へと視線を戻す。


「キミハ、物語の続キ、作るヒト」


それを聞き、咲《さく》はわずかに目を伏せた。


正直、続きを作っているような感じはしない。


ただ、色々な歪んだ童話の中で、良くない終焉《しゅうえん》を迎えかけたことしか覚えていない。


彼の言う続きとは、なんなのだろう。


フールはずっと次の世界へと視線を向けている。


「……マイハ、案内人だかラ」


それは、咲《さく》に言っているようにも、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


咲《さく》の足は、止まったままだ。


このゲートを越えてしまえば、再びフールには会えなくなる。


しかし。


「……時間だヨ」


その声とともに、咲《さく》の体が次の世界へと強制的に吸い寄せられていく。


「え……待って……!!」


咲《さく》の足が、床から離れた。


「フール……っ!!」


フールとの距離が遠くなっていく。


「……次ハ、大丈夫なヤツだかラ」


“大丈夫”の基準は、フール基準だろう。

しかし、ペッツァートの世界から助けてくれた上、あの状況を“危なかった”と分かっていた。


なら、命の危険だけはないのだろう。


安心材料にする情報としては、かなり最低限だが。


「っ……私……」


言葉を探す前に、咲《さく》はゲートに吸い込まれていく。


まだ見えている視界には、フールのいつもの笑顔。


ただ、その赤い目だけは。



―――確かに、揺れていた。


「フール!!」


そして、咲《さく》の視界が白く弾けた。










咲《さく》の消えた境界《きょうかい》内で、フールは呟いた。


「……マイハ、待つヨ」


その真意は、咲《さく》に届かない。


「……キミハ、“持ってる”かラ」


その直後。


じわ……と、フールの頬のマークが、揺らいだ。


「……あァ」


フールの視界が、わずかに歪む。


「……最後ノ、カード……」


その言葉を残すと。


フールは、自分の持ち場へ戻っていった。






【幕間「それぞれの役割」 - 完 -】

→第5章 観測者編 - 第1話「序曲」へ

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