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Out-of-Page Märchen  作者: 桜桃
第4章 - 処理者編 -

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第4章 処理者編 - 第1話「違和感のある世界」

降り立った足元は、石畳だった。


―――ここは、どこだろう。


咲《さく》は体勢を整え、辺りを見回した。


赤茶色の煉瓦《れんが》造りの建物が、石畳の道に沿って続いている。

細い煙突《えんとつ》がいくつも空へ突き出し、その向こうには、古い教会や荘厳《そうごん》な時計塔が霞《かす》んで見えている。


他にも、道路には真っ赤な二階建てバス、黒塗りのタクシー。

街角には赤い電話ボックスや古びた街灯が立っている。



今まで通ってきた童話のような世界とは、まるで違う。

もっと、自分の世界の形に近い。


「…外国?」


そう認識してしまうほど、目の前に広がる光景は、自分の世界で言う外国だった。

映画で見る、ロンドンのような街並みで、行き交う人影は、人型をしている。


咲《さく》は、一瞬安堵する。

国は違えど、見たことのある光景に、長い凶夢《きょうむ》から覚めることができたような、妙な安心感が湧く。


けれど。


その安堵は、一瞬のうちに違和感で覆《おお》われた。


形は確かに人間だ。

しかし、行き交う人々は、人間とは違う違和感を帯びていた。


外国なのであれば、違う言語を話すはずだ。


なのに、聞こえてくる言葉は外国語ではない。

また、言葉で挨拶をしたかと思えば、互いの顔へ鼻先を寄せて匂いを確かめるような仕草をしたり、鼻先をこすり合わせたりと、まるで動物のような行動が目立つ。

なのに、周りはそれを気にするどころか、当たり前の光景のように視線一つ向けない。


あの人混みの中を歩くには、もう少し情報を集めなければ、安全とは言えない。

この路地裏を経由しながら、もう少し様子を見たい。


「……あっちなら、もう少し隠れられるかも……」


人の気配はないが、暗過ぎもしない裏通り。

隠れながらも街を見るにはちょうど良かった。


咲《さく》が通りを進んだ、その時。


低く、不穏な声が耳に届く。


「……人間の髪は、やはり価値が違う」


「皮膚は、“白いもの”が特に高値だそうだ」


言葉が、胸に沈む。


“人間”。

“皮膚”。

“価値”。


それらが結びついた瞬間。

脳が、勝手に理解した。


この世界で自分は、“素材になる”、ということを。


足が、無意識に後ろへ下がる。

息が浅くなる。


違和感は瞬く間に恐怖へと変わり、咲《さく》の顔からみるみる血の気が引いていく。


その時だった。


「どうなさったのですか」


静かな声が落ちた。


反射的に、勢いよく咲《さく》は振り返った。

しかし、振り返った先に立つ男は、穏やかな雰囲気をしていた。


黒と白のまだら模様の外套《がいとう》。

背中の長い裾《すそ》。

顔の三割を覆《おお》うような、目元周辺にある紫色の痣《あざ》。


中年ほどに見える男は、咲《さく》へ一歩近づいた。


「迷われたのですか?」


そして、少しだけ視線を下げる。


「この辺りは、あまり落ち着ける場所ではありません」


ふと、視線が咲《さく》をなぞった。


「……なるほど。気配は、あなただったのですね」

「気配…?」


少し前。

この世界側の境界に裂け目が現れ、咲《さく》が降り立った時のこと。

彼の主人が、異質な気配を感じ取り、偵察《ていさつ》を部下へ命じていた。

その役目を担ったのが、目の前の男だったのだ。


男はほんの一瞬、あなたの匂いを確かめるように、わずかに顔を近づけた。


まるで、犬が相手の認識をする時に行うような仕草。


同じ仕草を返さなければ、確実に疑われる。


咲は、先ほど見た光景を思い出しながら、目の前の男と同じような行動を取る。


同時に、背中がひやりとする。


―――人間だと、気づかれてしまう。


だが。


男は一瞬、ごくわずかに目を見開いたが、咲《さく》を“人間”とは認識していない様子だった。


「(…バレて、ない…?)」


ほんの少しだけ、安堵が戻ってくる。

男はそれ以上追及することなく、姿勢を正した。


「申し遅れました。私、ペッツァートと申します」


ペッツァートと名乗った男は帽子を脱ぐと、胸に添えた。


「主の屋敷で、使用人をしております」


そう伝え、一拍置く。

そして再び帽子を被ると、辺りに視線を向けながら、言葉を選ぶように告げた。


「…ここは、あまり居心地の良い場所ではありません」


遠回しに、“帰れ”と言っていることが分かる。


帰りたいのは山々だ。

しかし、物語を渡り歩いている咲《さく》には当然、行くあてがない。

先ほどの物騒《ぶっそう》な会話を耳にしてから、なおさら人混みの中に繰り出す気は失せていた。


咲《さく》が俯《うつむ》いて口を開けずにいると、男は何かを察した様子で静かに手を差し出した。


「よろしければ、こちらへ」


男は、先ほどよりもさらに穏やかな顔で微笑みを向けている。

その表情や仕草から、“自分は敵ではない”という意思を咲《さく》でも感じる事ができた。


今は、彼に頼るしかない。


導かれるまま、足を進めた。




―――咲《さく》は、知らない。




咲《さく》の身を包んでいる“香り”が。





彼の本能に、静かに刺さっていることを―――。





【第4章 処理者編 - 第1話「違和感のある世界」- 完 -】

→第4章 処理者編 - 第2話「偽りか、誠か」へ



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