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第一歩 initium「始まり」

「すみません、これください。」


「あいよ。お嬢ちゃん可愛いからおまけしとくよ。」


「ありがとうございます。」


魔女帽のつばを少し上げ、会釈してまた奥へ進んでいく。




ここはグラディウス王国、城下町の商店街。


辺りを見渡すと露店がたくさん出されている。


多くの人が行き来する店には何かの肉やアクセサリーが売り出されている。


ここだけ見れば「普通」の城下町であろう。


その時であった。


「どけそこのガキッ!」彼女の身体が後ろから強く押された。


「ハハハッ!残念だったなクソ店主!これは貰ってくぜェ!


瞬足魔法は便利だなァ!」


万引きであろう。風のように立ち去った男の後ろから店主と思われる人が追いかけていく。


いつからだろうか。ここまで治安が悪化したのは。


それは紛れもない「あの日」であろう。




『魔法』。それはここ、グラディウス王国で発明されるとまたたく間に世界中に浸透していった。


グラディウス王国は何人もの優れた科学者がいたため、『魔法』の存在が知られるとわずか数日で数百の魔法を発明した。さらに彼らはそれを一般人にも適応できるようにした。


グラディウス王国は『適応技術』こそ世間に発表しなかったため実質、魔法王国化した。


『魔法』は唯一無二のものであり、他人が「A」という魔法を持っていたら他に「A」を持っている人は居ない。故に魔法はその人を象徴するシンボルとなった。


しかし人を助けたり幸せにする魔法は思いもよらない形で人類に牙を向けた。


いわゆる悪用である。


今の男のように小犯罪をする者もいれば人を殺す者もいる。


風の噂であるが隣国では魔法戦争なるものが起こっているらしい。


そして魔法は唯一無二であるが、なくなることは決してない。


持ち主が死ぬとどこからかその場所に魔導書が落ちる。そう。


持ち主は死んでも魔法は死なないのだ。


そしてその落ちた魔導書を読むことで魔法は繰り返される。


魔法使い、魔女は複数の魔法を所持できる。つまりは落ちた魔導書を好きなだけ取り込める、いわば器の人間であるが一般人は一つの魔法にのみ適応できるからこその魔法象徴化が起きたのであろう。




今万引き男に押されて地面に尻もちをついている少女、ステラも「魔女」だった。


彼女は魔法普及中に適応性が極めて高く、魔女だと判断されるとすぐに優遇された。


当時は嬉しかった。たくさんの人を救える、戦える、つまり守れる、と。


それにステラは強かった。王国では最強と言っていいほどの魔法の使い手になった。


しかし次第に耳に入ってくる悪い事柄に魔法が関わることが増えていった。


段々と自分が魔女であることが誇りでなくなっていった。




家に帰ると隣の家のお婆さんが居た。


「おかえりなさい。暗い顔してどうしたんだい?」


ステラは今日あった万引き犯の話をするとお婆さんはニコニコしながら我が子を諭すように言った。


「大丈夫だよ。ステラちゃんみたいな素敵な魔女だっているんだから。


魔法はそんなものじゃないって皆いつかわかってくれるわよ。」


「…そうかな」


「そうよ、だから今日はおやすみ。大変だったんでしょう?」


その言葉に救われたような気がした。明日は家でゆっくり休もう。




その日の夜。


ステラはサイレン音で目が覚めた。


重いまぶたをこすりながら窓のカーテンを開けた。


目を疑った。




やけに眩しい街は赤赤と燃えていて、人々の泣き声や叫び声が通りにこだました。


慌ててベランダに出ると王国は真っ赤な炎に包まれていた。


これだけの大範囲がたった寝てる間に…『魔法』に違いなかった。




敵の国が攻めてきたのだとわかるまで時間は要さない。





下の方を見ると白色の塊が落ちていた。


下に降りて寄ってみるとそれが頭蓋骨であることがわかる。


文字にして表すならば…「阿鼻叫喚」。


その時足元の髑髏に言葉を失い突っ立っていたステラの足を誰かが後ろから掴んだ。


「ひっ…」という声が漏れる。


動かない足を何とか振りほどき手の正体を見る。


絶句。涙が出てくる。足の震えが一層強くなった。


その手の持ち主は顔が半分潰れて、足が一本無くなっていた隣のお婆さんだった。


「…テ…ちゃん…?」声と認識するのが難しいほどか細い声でお婆さんは言った。


「お婆さん大丈夫!?今すぐ医者を…」


するとお婆さんはまた、彼女の足を掴んだ。弱ってるとは思えない強い力だった。




「…ス…テラちゃんが…やった、の?」


その形相は半壊した顔からも一瞬でわかる、恨み、苦しみ、失望であった。


自分が疑われていることを悟った慌ててステラは涙目で反論する。


「違う!私じゃない!」その言葉を聞いたお婆さんは顔を見上げて彼女に言った。


その目は嘘つきを見る目だった。




「信じてたのに。」


その言葉はかすれておらず、最後の力を振り絞って出された呪いの声であった。


読みは合っていたらしくその瞬間すっと息を吸って倒れた。


確かにステラの魔法は王国の中でも最強格の魔法を所持していた。疑われることは仕方ないのかもしれない。が、信頼していて寄り添ってくれたあのお婆さんに、そう言われたことが何よりもショックだった。


足の力が抜けて地面に膝をつける。全身が震えて汗が止まらない。頭がくらくらする。


ついた太ももに暖かい水溜りができた。嗚咽が止まらなくなる。




何が悪かった?人類はどこで間違えた?諸悪の根源は何だ?


荒くなる息を整える。


敵国か?王国か?魔法使いか?魔女か?魔法発明家か?




いいや、─『魔法そのもの』だ。




少し歩くと倒れている男を見つけた。見たことない鎧。敵国のものだろうか。


その横には共倒れしている住民がいた。必死の抵抗で相打ちにしたのだろう。


すると城の方で大きい爆発音が響いた。煙が上がる。


散々我慢してきた。人を助けるもので何故人を傷つける。


「…お前らは魔法の使い方を間違えたんだ。」


これをすればこいつらと同類だろうか。


いいや、あくまで「同じことをするまで」だ。




彼女は辛さと怒りで震える手に杖を持った。


「レヴィテイション。」


彼女の体は燃える街のはるか上空へと浮いていく。竜のように登っていく。


「お前らがこうさせたんだよ…。」


死ぬわけでもないのに走馬灯のように顔が浮かぶ。


今からすることを受けた人たちの悲痛と叫びと泣き顔が脳裏を走る。


「わかってよ…。自分のせいだって、自分たちのせいだって…。」


涙を浮かべた王国最強の魔女は杖を精一杯に高く掲げた。


「イグニス。」


上空に一筋の光が差す。


それはどんどん大きくなっていく。


地上で戦っている者たちが肉眼で捕らえられるほどに大きくなった時。


異常な熱が王国を包む。地響きは秒単位で大きくなる。




巨大な隕石は一つの国を広大な砂漠にした。


さあ、誰が追ってくるだろう?


そいつは自分を悪魔よばわりするのだろうか?


そいつは魔法を使って自分を捕らえようとするのか?




「そんなやつらからは全部根こそぎ奪い取って最後には自殺してやる。」


砂漠に無数に落ちた魔導書を拾いながら心優しい魔女は悪魔になると決めた。





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