そういう体質ということで許して下さい
エミリア・ロレンスは錬金術の時間が大嫌いだった。
何故ならうまくいかないからだ。
薬草と水と蜂蜜で、簡単な風邪薬ができるはずが、何故だがクッキーができてしまう。
前代未聞である。
錬金術教師のレイモンド・ルドは頭を抱える。
「どうしてクッキーができてしまうんですかね?」
「分かりません」
エミリアは内心喜んでいた。
レイモンドと話せるからだ。
「先生。でもこのクッキー、好きですよね?」
「嫌いじゃありません」
エミリアは自分のことを聞きたかったが、飲み込んだ。
自分には婚約者がいる。
恋心は胸の奥に鍵をかけておく。
自分はそのうち婚約者と夫婦になるのだから。
だが、エミリアは見てしまった。
自分の婚約者である、ヘンリー・イーサン子爵令息が、親友のマルタ・エンター男爵令嬢と裏庭でキスをしている所を。
エミリアはポケットから魔法具を取り出し、ボタンを押した。物を記録する魔法具であり、いつか役に立つだろうと持ち歩いていたのだ。実際に役に立つとはエミリアは思わなかった。
ヘンリーはマルタの制服の中に手をいれ始め、二人はあられもない姿になっていく。
しっかりそれらを記録していく。
エミリアは無だった。何も感じない。マルタにいたっては、やりそうとすら思う。それでも親友だったのだ。
十分すぎる記録を取り、その足で実験室に向かった。
「先生」
急に声をかけたことでレイモンドは驚き、鍋から黒い煙が上がる。それは錬金の失敗を意味していた。
「ごめんなさい。急に声をかけて」
「鍵をかけ忘れた私の責任ですよ。それよりも何か用ですか」
「私の婚約者が親友とキスしていたんです」
レイモンドは眉を寄せる。
「何だって?」
「それからあられもない姿になって、それらを証拠に婚約破棄するんで、先生。伯爵家に婿にきませんか?」
「何だって?」
レイモンドは目を丸くすると、鍋からさらに黒い煙が上がった。一瞬鍋に目をやるがすぐにエミリアに目を向けた。
「私よりも年の合う者がいるでしょうに。わざわざわ私でもなくてもよいでしょう」
「先生。先生は私のこと嫌いですか?」
「ええ。嫌いです」
目を逸らしながらレイモンドは言う。エミリアはレイモンドに歩み寄った。
「目を見て。先生。ねえ、先生」
鍋から黒い煙が上がっている。エミリアは手を伸ばして、ヘラんつかみ、かき回した。
ボンッと音が鳴り、鍋から一枚のクッキーを取り出す。
それを見るレイモンドは口元まで差し出されたクッキーを齧る。
「美味しい? 先生」
レイモンドは天を仰ぎ、溜息をついた。
「何でクッキーになるんですか」
「そういう体質ということで許して下さい」
優しく笑うレイモンドに釣られて、エミリアも、笑うのだった。




