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そういう体質ということで許して下さい

作者: 羽倉了
掲載日:2026/03/23

エミリア・ロレンスは錬金術の時間が大嫌いだった。

何故ならうまくいかないからだ。

薬草と水と蜂蜜で、簡単な風邪薬ができるはずが、何故だがクッキーができてしまう。

前代未聞である。

錬金術教師のレイモンド・ルドは頭を抱える。

「どうしてクッキーができてしまうんですかね?」

「分かりません」

エミリアは内心喜んでいた。

レイモンドと話せるからだ。

「先生。でもこのクッキー、好きですよね?」

「嫌いじゃありません」

エミリアは自分のことを聞きたかったが、飲み込んだ。

自分には婚約者がいる。

恋心は胸の奥に鍵をかけておく。

自分はそのうち婚約者と夫婦になるのだから。

だが、エミリアは見てしまった。

自分の婚約者である、ヘンリー・イーサン子爵令息が、親友のマルタ・エンター男爵令嬢と裏庭でキスをしている所を。

エミリアはポケットから魔法具を取り出し、ボタンを押した。物を記録する魔法具であり、いつか役に立つだろうと持ち歩いていたのだ。実際に役に立つとはエミリアは思わなかった。

ヘンリーはマルタの制服の中に手をいれ始め、二人はあられもない姿になっていく。

しっかりそれらを記録していく。

エミリアは無だった。何も感じない。マルタにいたっては、やりそうとすら思う。それでも親友だったのだ。

十分すぎる記録を取り、その足で実験室に向かった。

「先生」

急に声をかけたことでレイモンドは驚き、鍋から黒い煙が上がる。それは錬金の失敗を意味していた。

「ごめんなさい。急に声をかけて」

「鍵をかけ忘れた私の責任ですよ。それよりも何か用ですか」

「私の婚約者が親友とキスしていたんです」

レイモンドは眉を寄せる。

「何だって?」

「それからあられもない姿になって、それらを証拠に婚約破棄するんで、先生。伯爵家に婿にきませんか?」

「何だって?」

レイモンドは目を丸くすると、鍋からさらに黒い煙が上がった。一瞬鍋に目をやるがすぐにエミリアに目を向けた。

「私よりも年の合う者がいるでしょうに。わざわざわ私でもなくてもよいでしょう」

「先生。先生は私のこと嫌いですか?」

「ええ。嫌いです」

目を逸らしながらレイモンドは言う。エミリアはレイモンドに歩み寄った。

「目を見て。先生。ねえ、先生」

鍋から黒い煙が上がっている。エミリアは手を伸ばして、ヘラんつかみ、かき回した。

ボンッと音が鳴り、鍋から一枚のクッキーを取り出す。

それを見るレイモンドは口元まで差し出されたクッキーを齧る。

「美味しい? 先生」

レイモンドは天を仰ぎ、溜息をついた。

「何でクッキーになるんですか」

「そういう体質ということで許して下さい」

優しく笑うレイモンドに釣られて、エミリアも、笑うのだった。

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