インサイダーズ
「ごめん、使用許可を申請する装備の一覧をメールで送ったんで、漏れが無いか、全員、チェックしといて」
オフィスに戻ると隊長が、そう言った。
「は〜い」
「あと、念の為、代わり番こで自宅まで着替えとか取りに行ってもらえる? 下手したら2〜3日、泊まりになるかも……」
やれやれ……。
その時……。
ポンポコ……ポンポコ……ポンポコ……。
昔話の狸の腹鼓みたいな音が鳴り響き……あ、あたしの携帯電話の着信音だ……。
『ごめん、桜ちゃん。今日、一緒に飲みに行く約束、駄目になったわ。出荷間近の新製品に不具合が見付かっただか何だかで、急に勤め先の品証に呼び出されちゃって……』
「あ……ああ、大丈夫っす。あたしも急に仕事が入っちゃって……」
『あ、そ……。お互い、大変だね……。じゃ、また、いつか』
「誰?」
電話が終った途端、隊長が、そう訊いてきた。
「あ……親類っす。たまたま、門司に住んでる親類が居て……」
「お前、10年前の富士の噴火で、付き合いが有った親類、ほとんど死んだ、とか言ってなかったっけ?」
「だから、育ての親の方の親類っす」
「親類って、具体的に……」
「プライベートな事っすよ」
「いや、久留米に居た頃、育ての親の親類とも付き合いが、ほとんど無いとか、言ってたぞ、たしか」
「ホントにホントに育ての親の親類っすよ」
「だから、具体的に、どう言う知り合い?」
「だから……えっと……育ての親の離婚れた元旦那の従兄弟の娘……」
「……待て」
「はい?」
「それ、完全に赤の他人だろ」
「家族の法事で、たまたま知り合って……その……」
「飯とか奢ってもらってないよね?」
……あははは……。
「警察官が部外者に飯奢ってもらったら、収賄だからね、今の法律だと」
「いや、ちゃんと割り勘にしてますよ、はい」
冗談じゃない。
奢ってもらってんのは、飯じゃなくて酒だ。
……って余計悪いか。
でも、今や、あの人は、あたしの数少ない警察関係以外の知り合いだ。堅気の世界とのか細い最後のつながりだ。失なう訳には、いかねえ。
「あ、中島さん、新潟県警からウチのエラいさんに来たメール、そっちにも転送されてます?」
その時、千夏ちゃんから偶然にも助け船。
「ちょっと待って下さい。あ、来てます」
「新潟? 何で?」
そう訊いたのは……第1小隊の新入り。
「新潟で、韓国の『熊おじさんホールディングス』の系列会社が『裏』の運送屋を手配してたみたい。もう、新潟を出発してて、最低でもトラック4台分の荷物で……北陸・山陰高速道路に入ったって」
「行き先は?」
「南」
元々、戦前にロシアや中国の北の方と新潟を繋ぐ航路が有ったみたいで、今でも、そっち方面からの密輸品は北陸経由で入って来る場合が多い。
しかも、10年前の富士の噴火で本州太平洋側の交通網がやられた代りに、本州日本海側で高速道路なんかが整備された結果、日本に何かヤバいモノが入って来る場合も、逆に日本から中国・韓国・ロシアに何かを密輸する場合も、北陸・山陰経由が多くなり、あの辺りには「裏」の運送屋が結構居るらしい。
「どこに向ってるかとか、そもそも、例の情報に有った荷物なのかとかの特定って出来ます?」
「過去に摘発した事が有るのと同じルートや手口を使うマヌケなら話は別だけど……」
とは言え……もし「正義の味方」が言ってた情報に有った荷物なら……到着するのは今日明日中って……ん? 待てよ……。
ともかく、目先の事務仕事を片付けて……。
そして、一段落した所で……。
「ちょっと、昼飯と……あと、自宅から着替え取ってきま〜す」
「じゃ、あたしも昼飯にするね」
そう言ったのは……千夏ちゃん。
エレベーターに入ると……。
「昼飯……外にする?」
「えっ?」
一応、このビルは、ほぼ全階が警察関係の組織のオフィス。
当然ながら、録音機能付きの防犯カメラの「死角」じゃない場所は、ほぼ無し。
「道路の向いのラーメン屋さんでいい?」
「う……うん……」
千夏ちゃんが指定したのは……大手のチェーンじゃない店。
……マジで気まずいと言うか何と言うか……まぁ、そんな感じの雰囲気。
多分、オフィス内では出来ない話だ。
女2人で、一緒に昼飯食いに行ってるのに……店に到着くまで、全然、会話なし。
千夏ちゃんは、それとなく店ん中を見回しながら……近くの席に他の客が居ない席を選び……。
そして……ラーメン屋なのに、何故か、千夏ちゃんが注文したのは、ちゃんぽんに、炒飯にギョウザに……。
あたしより、頭半分ぐらい背が低くて、体重も5㎏以上軽い千夏ちゃんが普段食う量じゃねえ。
わざと、作ったり全品そろうのに時間がかかりそうなモノを選んでる。
「あのさ……新潟からの情報……どう考えてもタイミング良過ぎるでしょ」
「う……うん……たしかに……」
「あとさ……そっちの小隊に情報を渡したあいつらさ……」
おい、何を訊く気だよ?
「実は、どこの誰かとか……知ってたりしない?」
「知らん……」
「でも、久留米に居た頃から……結構、ズブズブだったでしょ?」
「あいつらは、もっと直球の手を使う。こっちに教えたい情報が有るなら……回りくどい手は使わねえ」
「じゃ……誰が、こんなタイミングで情報流したの? どう考えても、あたしら……誰かの掌の上で踊らされてるよ」
「誰って言われてもさ……」
「他県……しかも、あんだけ離れてるとこの県警の関係者を動かせて……」
「全国ネットの組織か……たしかに……せい……」
「それ以上言わない。他の警察機構の人達に聞かれちゃマズいから……」
「それだ」
「え?」
「他の警察機構だよ……それも、全国ネットの……」




