悪いやつら
会議室に集まっているのは、第1小隊の隊長である千夏ちゃんに、同じく第1小隊の狙撃・索敵担当兼副隊長である村山征治。そして、これまた、第1小隊の汎用型の河野晴香、渡辺翔、衛藤明宏、そしてパワー型の増谷良平。この内、増谷が1週間前に、前任者が殉職したせいで配属された新メンバー。前の勤務地は山口県内。
あたしら、第2の小隊の新メンバー2人も居る。狙撃・索敵担当の東郷優月と、汎用型の長友陸。2人とも前の勤務地は鹿児島県。
第2小隊の死に損ない組は……隊長の中島真一に、パワー型兼副隊長の、このあたし眞木桜。そして、汎用型の大石隆太と池田晴紀。
そして、ウチの連中の中でもVIP オブ VIPである庶務担の重松さんも席についている。
「じゃあ、他県から配属されて1週間ぐらいの人も居るんで、この際だから、福岡・熊本の妖怪系ヤクザの情報もレクチャーするから」
千夏ちゃんは、そう言いながら、福岡・熊本・佐賀・長崎あたりの地図をプロジェクターで投影。
「約30年前の二〇〇一年に『特異能力者』の存在を、全世界の一般人が知るようになって以降、九州、特に北部日本海側の県で3つの暴力団が、いがみ合うようになった。俗に言う『九州3大暴力団』。で、この3つは『本社』の社長と『一次子会社』の社長の半数以上が『河童』系である事が共通している」
続いて、表示されたのは……その3つの暴力団の「本社社長」……正確には、もう「元本社社長」だ。……と言っても人間態の写真だが……。
「まず、北九州市を中心に活動している青龍敬神会。表向きは右翼系政治団体。次は久留米市を中心に活動している安徳ホールディングス。表向きは総合企業。商社からセキュリティから医薬品まで何でもやってた。ま、去年の12月までは、福岡県の北半分が青龍敬神会の縄張りで、南半分が安徳の縄張りだった。最後の1つが熊本の龍虎興業。ここは表向きはライブとかコンサートとか格闘技なんかのイベントの運営と、その関連会社」
「で、僕達は、安徳が潰れるまで、その御膝下である久留米が勤務地だった」
ウチの隊長が、そう続けた。
「あ……あの……」
第2小隊の新入りの片割れである長友が、おずおずと手を上げる。ガタイのいい強面の奴が「おずおず」ってのも、何か妙な感じだが……。
「ウチの小隊の先輩達が……久留米勤務だった頃に……その……」
うん、ウチに配属されて、いい気持ちじゃない事は良く判る。
「大丈夫だ。安徳最強と言われた『銀の狼』は、今、刑務所だ。元部下の弁護士費用を稼ぐ為に、囚人部隊で『社会奉仕活動』中だそうだ」
「久留米の銀の狼」こと久米銀河は、ヤー公にしては義理固い奴ではある。本人曰く「年寄と子供は国の宝だと思ってる古いタイプの男」で、それは嘘じゃない。「獣化能力者としては東アジア最強候補3人」の内の1人で、「殺していい相手」認定した奴には情け容赦無くて、もちろん奴にとっての「殺していい相手」には警官も含まれてて、更に強化装甲服を付けたレンジャー隊10名以上を1人で易々と新鮮なミンチ肉にした実績が有る点を除けば、ホントにいい奴だ。
「その狼さんが、地元の『正義の味方』にブチのめされて……」
他県から配属されたばかりの3名の顔に浮かぶのは「どうやってブチのめしたんだ?」と言いたげな表情。
うん、久留米の地元の「正義の味方」チームの化物ぶりを知ってる、あたしらだって信じられない。化物オブ化物 VS 化物オブ化物の大喧嘩で、何で、周辺の被害がほとんど出なかったんだ?
「警察に引き渡されたんですよね?」
東郷が、そう訊いた。
「そうだけど……」
「どうやって取調べたんですか? どう考えても、マトモな留置所に閉じ込める事が出来そうには……」
「知らん。取調べをやったのは県警の組対なんで」
「で、安徳最強の『兵器』だった『銀の狼』の逮捕が切っ掛けで、安徳ホールディングスは内紛で壊滅。それが去年末。で、元々は久留米小隊のメンバーは、次に『激戦地』になるであろう北九州市に転勤になった訳。それが、今の門司第2小隊」
「あ……じゃ……大手の妖怪系ヤクザの御膝下なのは代りない訳ですか……」
ウチの新入りの男の方が、そう言った。ま、あっと言う間に新鮮な肉片にならない事を祈っておいてやるか。
「それが、貴方達が正式配属になる前日に状況が変った」
続いてスクリーンに映ったのは……仮設トイレ内の焼死体に、その仮設トイレの前に転がっている矢で射殺された死体、頭のおかしい殺人鬼が面白半分に切り刻んで殺したとしか思えない死体、そして、大量の人間に踏み潰されたようにしか見えない死体だ。
「ゴールデン・ウィーク最後の日に、久留米の筑後川で『魔法少女』もののイベントが開かれた。で、知っての通り、魔法少女ものの芸能興業の運営は大概が犯罪組織のフロント企業。この日のイベントも……実は、九州3大暴力団の残りの2つが、安徳の縄張りをどっちのものにするかの代理戦争だったの……。そして、その代理戦争の立ち会いとして、青龍敬神会と龍虎興業の大ボスと№2も出掛けてたけど……そこを地元の『正義の味方』に狙われて……」
「4人とも殺されたんですか?」
「正確には、内1人は、『正義の味方』達が余りに残虐な殺し方をしたせいで、会場がパニックになって……逃げてる途中でコケて、他の観客に踏み殺された可能性大。ま、ともかく、青龍敬神会と龍虎興業は、大ボスと№2と……あとは大ボスの護衛をやるような精鋭の多くが死亡。早速、熊本と北九州市で、跡目争いの内紛が始まった訳」
「で、新入りさん達は、当初の想定とやってもらう仕事がビミョ〜に違う。門司への配属が決った時は、デカい暴力団の『地元』なんで『たまに起きるデカい抗争』なんかの対応をしてもらう筈だったんだけど、配属が終った時には『これから、しょっちゅう起きる事が予想される妖怪系暴力団の内紛』への対応になるから……」
「は……はあ……」
「えっと……」
「どっちみち、大変なのは違い無い訳なんで……」
「で、その内紛を酷くしそうなのが、何故か門司に現われた久留米の『正義の味方』達が、第2小隊に教えた情報。大ボスと№2が居なくなった筈の暴力団に、何故か、韓国系ヤクザのロシア支社が大量の武器・弾薬を『出荷』して、その荷物が、もうすぐ北九州市と熊本に届くらしいの」
「でもさ……こっちのヤクザとしても、判断に困る状況だろ。『自分達が出荷した武器を入手出来た奴を跡目と認める』って、その武器を他の誰かが手に入れりゃ、自分らが不利になる。でも、自分らで、その武器を手に入れたら……韓国のヤクザに『跡目』と認められると言やあ聞こえはいいが……早い話が韓国のヤクザを自分らの後見人と認めたも同じ……韓国のヤクザの風下に立つ羽目になるって事だろ」
あたしは、そう指摘。
「そういう事。北九州市でも熊本でも、青龍敬神会と龍虎興業の『子会社』の内、どこが武器獲得に動くか全く予想が出来ない」
「大量の武器を楽に押収出来るか……こっちにも死人が出てもおかしくない状況になるか……本番にならねえと判んない訳か……」
「とりあえず、上には、装備使用の申請をしときますか……。すいません、重松さん、手続お願いします」
ウチの隊長が庶務担に、そう言った。
「わかりました。使う装備の一覧を送って下さい」
「ねえ、ところでさ、ホントに密輸船が日本に向かってるなら、監視衛星か何かで……」
「調べてみたけど……『レコンキスタ』が契約してる汎用観測衛星が日本海上空を通るのは2時間に1度ぐらい。で、問題の密輸船を特定するのは無理みたい」
「えっとさ、何年か前に導入したスーパーAI様を使えば……」
「無理」
「何で? ヤー公の間で、携帯電話で動く狙撃手の位置を推定するアプリが出回ってる御時世だよ。高層ビル1個分の電力を食ってるって噂のデータセンターで動いてる、すげ〜AIを使えばさ……」
「その高層ビル1個分の電力の半分以上を何に使ってるか知ってる?」
「何? 変な事にでも使ってんの? データセンターの職員が、こっそり16Kぐらいのモニターで3DCGをガンガン使った下手な映画より高画質なオンラインゲームでもやってるとか……」
「違う……上の方も、実態を知ってから愕然としたらしいんだけど……」
「だから何なの?」
「バカ喰いしてる電力の半分以上の半分弱は、人間の言葉でやった命令をコンピューターに理解出来るように翻訳するのに使ってるの」
「じゃ、半分以上の内の残りは?」
「お勉強」
「は? 何? どういう事?」
「技術屋さんの言葉で言えば、『モノシリック構造の汎用AI』って奴は、『古典的な設計の単機能AI』と同じ性能を出すのに、学習データが3桁ぐらい多く要るんだって」
「ちょっと待てよ。昔のAIより技術が進歩してる筈なのに、何でそんな……」
「その『技術の進歩』が『使い勝手』を良くするのに使われた訳。あのデータセンターで動いてんのは、喩えるなら、運転がすごく簡単になった代りに、車載コンピューターが電力の半分を食ってるEVみたいなモノなの」




