光る風 〜蜘蛛の子へ、神様からのギフト〜
昆虫達と蜘蛛を作り終えた神様。
ふと見ると足下に蜘蛛の子がいる。
「羽は?」
「ごめん、つけ忘れた。」
蜘蛛の子、泣いてしまった。
「悪かったよ。今から羽はつけられないけど、なんとか空を飛べるようにしてあげる。」
「本当?」
「ただし、一生に一度だけな。」
◇
ある晴れた春の日、
渓谷の木の上で蜘蛛の子が生まれた。
蜘蛛の子は、枝のてっぺんを目指して登っていく。そして、風を待つ。
風が吹く。蜘蛛の子はお尻から糸を出して風の中に放つ。
糸が十分に長くなると、蜘蛛の子は足を放す。
風の中に放った糸に引かれるようにして、蜘蛛の子は空へと舞い上がる。
こうして、蜘蛛は一生に一度だけ、空を飛ぶ。
蜘蛛達は生まれた場所を離れ、思い思いに散ってゆく。
◇
風は、渓谷を遡るように吹いている。
蜘蛛の子は、風に乗って谷を遡る。
切り立った崖が迫る谷の上空を、無数の蜘蛛の子たちが飛ぶ。
お尻から出した糸に引かれて、蜘蛛の子は後ろ向きに飛んでいく。
後ろ向きだと、あまり自分で飛んでいる気がしないけど、春の風は気持ちいい。
横をみると、他にも沢山の蜘蛛の子たちが、糸にぶら下がって飛んでいる。
それは、春の日差しを受けて光り輝く。
幾つもの細い光の筋が空を舞う。
まるで、風が光っているようだ。
◇
「ほら、吊り橋が見えてきたぞ。」
お父さんに手を引かれて、小さなリュックを背負った男の子が、登山道を歩く。
「あれ渡るの?怖いよ。」
「大丈夫、お父さんが手を握っててあげるから。」
男の子は、お父さんに手を引かれて、吊り橋の入口に立つ。
「怖い?」
「ちょっと。」
男の子は、吊り橋の向こう岸を見つめる。
谷を渡る風が吹いていた。
その風は、よく見ると、時折きらきらと光るのだ。
「おとうさん、あれ何?」
「あれって?」
「風が光ってるよ。」
男の子の指さす先をみる。
本当だった。
幾つもの光の筋が、風に乗って流れてゆくのが、確かに見えた。
「本当だ。風が光ってるね。」
◇
蜘蛛の子は、吊り橋に差し掛かった。
橋の上に、お父さんと男の子がいた。
橋の手前で風が乱れた。
男の子にぶつかりそうになる。
お願いぶつからないで。僕はもっと先へ行きたいんだ。
風が、蜘蛛の子を脇へと流した。
男の子の顔の横をすり抜ける。
◇
「光る風が、横をとおっていった。」
「そうか、すごいな。」
蜘蛛の子と男の子は、こうして一度だけ出会い、すれ違った。
でも、これからも、思い出の中では何度もすれ違うだろう。
黒部渓谷の、春の出来事である。




