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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第二章:運命の扉と私たちだけの世界
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7話:消える田中くん、光のゲートの出現

屋上での出来事から、私の日常は完全に田中くん中心になっていた。


他の生徒たちは、相変わらず田中くんを「地味で冴えない田中」「空気のような存在」と認識している。大坪先輩たちも、自分たちが屋上で何が起こったのかを語ることはなく、「あいつ、なんか変だった」「もう関わるな」と漠然とした恐怖を抱いているようだった。

具体的に田中くんに「やられた」という認識が薄いのか、それとも恐怖のあまり語ろうとしないのか、私には判断がつかなかった。

しかし、彼らが田中くんに二度と手を出そうとしないことだけは確かだった。


それでも、女子たちが「田中くんってマジ空気だよね」

「あの地味さ、逆にすごい」などと笑い合うのを耳にするたび、

私の胸には微かなイライラが募った。

彼女たちは何も知らない。

あの時の田中くんが、どれほど凄まじく、人間離れした存在だったか。


彼らの知らない、彼の「最強」の姿。

私だけが、それを見た。


その事実が、私の中で特別な優越感となり、同時に、彼の秘密を知る「私」だけの、特別な繋がりを強く意識させた。

そして、その感情は、屋上で芽生えた微かな恋心を、より一層確かなものへと変えていく。

彼は、私の「ヒーロー」だった。誰にも知られず、ただ静かに、私だけの目の前で輝くヒーロー。


だから、彼が、ある日突然、私の目の前から消えた時、私の世界は一瞬にして色を失った。


それは、放課後のことだった。

私は、生物部に行くために教室を出ようとしていた。

田中くんの姿は、まだ教室にあった。

彼はいつも通り、机に突っ伏して寝ている。私がカバンからノートを取り出し、筆箱を入れようとした、その時だった。


田中くんが、いつになく落ち着かない様子で、何度も窓の外や、教室の廊下を見ているのが目に入った。まるで、何かを警戒しているかのように。

そして、他の生徒たちがほとんど教室を出て、誰もいなくなったのを確認すると、田中くんはそそくさと席を立ち、急ぎ足で教室を出て行った。


(田中くん……なんか、今日の様子、いつもと違う……)


私の好奇心と、彼への心配が、私を突き動かした。

私は生物部の活動に遅れるのも構わず、そっと教室を出た。田中くんの後を追うように、校舎裏の、人通りの少ない細い小道へと入っていく。

私は、物陰に隠れて彼の様子を伺った。


田中くんは、小道の奥で立ち止まると、あたりをキョロキョロと見回した。

誰もいないことを確認すると、彼は小さく息を吐き、静かに目を閉じた。


その時だった。


田中くんの体が、まるで光を帯びたように、淡く輝き始めた。


「え……?」


私は思わず声を漏らした。

光は徐々に強くなり、彼の体から眩い粒子が立ち上る。

それは、まるで彼が、光の粒となって消え去ろうとしているかのような光景だった。


「田中くん!?」


私は慌てて、物陰から飛び出し、彼へと駆け寄ろうとした。

しかし、その光は、私を寄せ付けないほどの熱を帯びていた。

触れると肌がひりつくような感覚があった。

光はさらに強くなり、彼の体が徐々に、しかし確実に透けていく。


そして、彼の足元に、突然、空間の歪みが現れた。


それは、まさしく、テレビやアニメで見たことのある「ゲート」だった。

青白い光が渦を巻き、その奥には、見たこともない、暗く不気味な景色が広がっているように見えた。

異世界の入り口。


田中くんは、目を閉じたまま、そのゲートの中へと、ゆっくりと足を踏み入れた。

彼の体は、光に包まれながら、静かにゲートの中に吸い込まれていく。


「いや!田中くん!」


私は叫んだ。

彼の体が、完全にゲートの中に消えようとしている。

彼を失いたくない。

彼の「秘密」を知る私が、ここで彼を見送るわけにはいかない。


危険だ、と頭では理解していた。

だが、彼の隣に立ちたいという、抗いがたい衝動が、私の理性を完全に凌駕した。


彼の存在が、私の世界をこんなにも鮮やかに変えたのだ。

彼が消えてしまうなんて、耐えられない。


私は、迷いなく、光のゲートに向かって駆け出した。


熱い光の渦が、私の体を包み込む。

視界が真っ白になり、平衡感覚が失われる。

体が重力から解放されたかのように、宙を漂う。


(田中くん……っ!)


私の意識は、薄れゆく光の中で、ただ彼の名前だけを追い求めていた。


次の瞬間、私の体は、何かにぶつかるような衝撃と共に、見知らぬ地面へと投げ出された。

冴えない田中くんの、異世界での奮闘。そして、そんな彼を応援する花ちゃんの、一途な恋。

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