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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第一章:私だけが知る隣の席の秘密
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6話:屋上の衝撃と、私の勇者様

屋上の扉の隙間から、私は息を殺して中を覗いた。


風が強く吹き荒れ、髪が頬を叩く。心臓が早鐘を打っている。


「てめぇが大野をビビらせたって話じゃねえか」


大坪先輩の低い声が響く。


その周りを取り囲む不良たち。そして壁際で小さく震える田中くん。


いつもの光景だった。弱い者が強い者に一方的に痛めつけられる、見慣れた構図。


「どういうことか説明しろや、ヘタレ」


大坪先輩が田中くんの襟首を掴み、乱暴に壁に押し付ける。


「ひっ……」


田中くんの小さな悲鳴が聞こえた。私の胸が締め付けられる。


『やめて……』


心の中で叫んだその時――


「おい、聞いてんのか、コラァ!」


大坪先輩の拳が、田中くんの顔に向かって振り下ろされた。


私は目を瞑った。見ていられない。


でも――拳が肉を打つ音は、聞こえなかった。


恐る恐る目を開けると、信じられない光景が広がっていた。


田中くんが、大坪先輩の腕を掴んでいた。


「な……?」


大坪先輩の困惑した声。私も同じ気持ちだった。


田中くんの顔は相変わらず俯いている。


でも――その肩の震えが、さっきとは違って見えた。


恐怖ではない。何か別の感情が、彼の中で渦巻いている。


次の瞬間。


田中くんの体が、まるで別人のように動いた。


流れるような動作で大坪先輩の重心を崩し、そのまま壁に叩きつける。


ドシン!という鈍い音が響いた。


「がっ……!」


大坪先輩の巨体が、まるで人形のように崩れ落ちる。


『嘘……』


私の常識が、音を立てて崩れていく。


「先輩!」


「てめぇ、何しやがった!」


取り巻きたちが一斉に田中くんに襲いかかった。


でも――彼らの動きが、やけにゆっくりに見えた。


いや、違う。田中くんの動きが、あまりにも速すぎるのだ。


最初の男の拳を紙一重でかわし、その懐に滑り込む。正確無比な反撃が腹部に決まり、男は呻き声と共に膝をついた。


二人目の蹴りを、まるで予知していたかのように回避。カウンターの一撃で相手はバランスを崩し、派手に転倒する。


三人目は――もう戦う意志を失っていた。


田中くんに向かっていた足が、途中で止まる。


「ひ、ひぃぃ……」


恐怖で顔を歪ませ、後ずさりする不良たち。


たった数秒の出来事だった。


でも、その数秒で――屋上の空気が完全に変わった。


田中くんは、また俯いて震えている。まるで自分が何をしたのか分からないように。


「化け物……」


誰かが呟いた。


私の心に、電流が走った。


化け物?


違う。


彼は――ヒーローだ。


「く、くそっ!今日は引いてやる!」


大坪先輩が捨て台詞を吐いて、仲間を引きずりながら逃げていく。


屋上に静寂が戻った。


田中くんと私だけが残された。


彼がゆっくりと顔を上げる。その瞬間、私たちの目が合った。


田中くんの瞳に宿っていたのは――深い悲しみだった。


まるで「また見られてしまった」と嘆いているような。


「あ……」


私が声をかける前に、彼は駆け足でその場を去っていく。


一人残された屋上で、私は呆然と立ち尽くしていた。


風が頬を撫でていく。でも寒気を感じたのは、風のせいじゃなかった。


『田中くん……一体、何者なの?』


あの動き。あの反射神経。あの冷静な判断力。


普通の高校生があんなことできるはずがない。


でも同時に――私の胸の奥で、別の感情が芽生えていた。


恐怖じゃない。


憧れ。


そう、憧れだった。


あんなに小さく見えた田中くんが、実は誰よりも強かった。誰も気づかない秘密を抱えていた。


まるで――


『私だけの秘密のヒーロー』


そんな風に思えてしまう自分が、不思議だった。


普通なら怖がるべきなのに。普通なら距離を置くべきなのに。


私は――もっと知りたくなった。


彼の秘密を。彼の正体を。


そして、彼の孤独を。


『今度こそ、絶対に話しかけてみせる』


夕焼けに染まる屋上で、私は強く決意した。


田中くんの秘密を共有できるのは、きっと私だけ。


だから――私が彼の一番の理解者になってみせる。


風が再び吹き抜けていく。でも今度は、暖かく感じられた。

冴えない隣の席の彼が、実は異世界最強の勇者だったなんて、誰も信じてくれない。

でも、私だけは知っています。彼がどれだけ孤独で、どれだけ頑張ってきたかを。

もし、この物語を通して私と同じように田中くんを応援したいと思ってくれたなら、ぜひ【評価】や【ブックマーク】でその気持ちを教えてくれませんか?

あなたの応援が、きっと彼を孤独から救う光になります。


※この後書きの文章はいろいろなバージョンがあります。

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