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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第五章:二つの力と、新たな世界の始まり

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49話:「新たな勇者と消えた存在」

交流都市ハーモニアの朝は、いつものように人間と魔族が共に働く平和な風景で始まった。


市場では人間の商人と魔族の職人が笑顔で取引を交わし、子どもたちが種族の垣根を超えて遊んでいる。


「本当に平和になったね」

私が微笑みながら窓の外を眺める。


「ああ、でも...」田中君が眉をひそめる。

「魔王から聞いた話が気になるんだ。神の力は確かに弱まっているけど、完全に諦めたわけじゃないって」


その時、魔王アルカディウスからの緊急連絡が届いた。


『田中よ、新たな転移者がはじまりの森に現れた。しかも今度は...神が直接「神」だと名乗って接触しているようだ』


みんなの表情が引き締まる。田中君の時は「システムメッセージ」として曖昧に勇者の役目を告げていた神が、今度は露骨に正体を明かしているという。


「急いでコレットの街へ向かいましょ」

私が言った。


コレットの街に到着した私たちは、村の中央で大声を上げる青年を目撃する。


「僕は神セレスティス様に選ばれし勇者だ!魔王を倒して世界に平和をもたらすのが僕の使命なんだ!」


青年は17歳ほどで、真っ直ぐな眼差しと正義感に満ちた表情をしている。

街の人たちは困惑した様子で彼を見つめていた。


「あの...」

田中君が近づく。

「君、転移してきたばかりだよね?」


「そうだ!僕は勇者・佐伯拓海だ!君たちも冒険者なら、魔王討伐に協力してくれるよね?」


私が前に出る。

「拓海君、魔族は君が思っているような悪い存在じゃないのよ」


「何を言ってるんだ!神様がはっきりと『魔族は世界の脅威だ』と仰ったんだ!僕は間違いなく正義のために戦う!」


どれだけ説明しても、拓海君は頑として聞く耳を持たない。


神から直接使命を告げられた彼の確信は、昔の田中君とは比較にならないほど強固だった。


私は直感で分かる。言葉だけでは、この子の心は動かせない。



「仕方ないね」田中君が決意を固める。「実際に見てもらおう」


私たちは拓海君をハーモニアへと案内することにした。


最初は警戒していた拓海君も、人間と魔族が笑顔で共存する様子を目の当たりにして戸惑い始める。


「これは...一体...」


魔族の子どもが転んで泣いているのを、人間の女性が優しく慰める光景。人間の老人と魔族の青年が将棋を楽しむ姿。そして何より、誰もが平和で幸せそうな表情を浮かべている。


「拓海君」私が優しく語りかける。

「魔族も私たちと同じ心を持った存在なの。家族を愛し、平和を願っている」


そして私たちは魔王城へと向かった。魔王アルカディウスとの対面で、拓海君の世界観は完全に崩れ去った。


「君が思い描いていた『邪悪な魔王』とは違うだろう?」魔王が穏やかに微笑む。「私も君と同じように、大切な人々を守りたいだけなのだよ」


拓海君の目から涙が溢れる。「僕は...僕は一体何をしようとしていたんだ...」


「君は騙されていただけよ」私が彼の肩に手を置く。「私たちも最初はそうだった」




「それじゃあ、僕はどうすれば...」


「冒険者として、この世界で新しい人生を楽しめばいい」

田中君が笑顔で答える。


「この世界では、現実世界の1時間がここでの24時間に相当するんだ。レベルアップして異世界転移スキルを覚えれば、自由に行き来できるようになる」


拓海君の表情が明るくなる。

「本当ですか!それなら...僕も皆さんのように、本当の平和のために働きたい」


彼の二重生活もきっと充実するに違いない。


「これからも、きっと神は新しい勇者を送り込んでくるよ」と私が言う。

「私たちは彼らに正しい道を示していこうね」


「ああ」田中君が頷く。

「それが僕たちの新しい使命だ」


私は心の中で思う。

神の洗脳から一人、救うことができた。

私たちの見抜いた本当の現実を一人でも多くの人に伝えていかなければ。




数日後、田中君と私は現実世界に戻った。異世界で大野たちが力に溺れて死んでいくのを目撃していた私たちだったが、現実世界での変化を確認するために学校を調べてみることにした。


すると、驚愕の事実が判明する。


彼らの名前が生徒名簿から消えている。座席表にも、クラスの記録にも、まるで最初から存在しなかったかのように痕跡が一切ない。


「そんな...」私が震え声で呟く。


「異世界で死ぬと、命だけじゃなく存在そのものが消えてしまうのか...」田中君も青ざめる。


重い現実を受け止めた私たちは、しばらく無言で歩いた。




週末、田中君と私は二人で公園にいた。桜の花びらが舞い散る中、田中君が意を決したように口を開く。


「花...僕と、正式に付き合ってくれませんか?」


私は一瞬きょとんとして、それから声を上げて笑った。


「今更何言ってるの?私たち、もうずっと付き合ってるようなものじゃない」


「でも...」田中君が真剣な表情で続ける。「きちんと言葉にしたかったんだ。君がいなければ、僕は今でも一人ぼっちの勇者のままだった。君と一緒だから、本当の平和を築くことができた」


私の目に涙が浮かぶ。男性からのきちんとしたけじめの言葉に、胸が温かくなる。私にとって、ずっと交際しているようなものだったけれど、こうしてはっきりと言葉にしてもらえることが、こんなにも嬉しいなんて。


「はい...こちらこそ、よろしくお願いします」


桜の花びらに包まれて、私たちは静かに抱き合った。私たちの前には、きっとまだまだ多くの試練が待っている。でも、田中君がいる限り、どんな困難も乗り越えていける。


新たな勇者たちを正しい道へ導く使命と、二つの世界を繋ぐ架け橋としての責任を背負いながら、田中君と私の新しい章が始まろうとしていた。




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