47話:人間と魔族、二つの世界を繋ぐ橋(後編)
「ところで」
王が田中くんたちを見つめた。
「この街の統治はどうしましょうか?」
「統治?」
田中くんが首をかしげた。
「そうです。中立都市とはいえ、何らかの管理体制は必要でしょう。法の制定、紛争の調停、街の運営など」
アルカディウス様が重々しく言った。
「この街は、人間でも魔族でもない、第三の存在が治めるべきです」
「第三の存在?」
「田中よ」
魔王が真剣な表情で言った。
「君たちこそが、その任を担うべきではないでしょうか」
田中くんは驚いて声を失った。
「え?僕たちが?」
「考えてみてください」
ハインリッヒ三世が説明した。
「田中殿たちは、人間でありながら魔族とも深い信頼関係を築いている。両方の種族から尊敬され、信頼されている存在です」
私が慌てて手を振った。
「でも、私たちはまだ高校生ですよ?街を統治するなんて」
「年齢は関係ありません」
神崎先生が励ますように言った。
「あなたたちがこれまで成し遂げてきたことを考えれば、十分にその資格があります」
茜お姉ちゃんが腕を組んで考えた。
「確かに、私たちなら公平に判断できるかもしれない」
「でも責任重大ですよ」
由希子ちゃんが不安そうに言った。
「人間と魔族の未来がかかっているんです」
アルカディウス様が優しく微笑んだ。
「田中よ、君は既に多くの人々を救ってきた。今度は、より多くの人々の未来を支えることになる」
「魔王様…」
田中くんは深く考え込んだ。
「無論、一人で背負う必要はありません」
王が付け加えた。
「人間と魔族の代表者による評議会を設置し、重要な決定は合議で行えばよいでしょう」
「それに」
私が田中くんの手を握った。
「私たちがいるじゃない。みんなで力を合わせれば、きっとできるわ」
田中くんは仲間たちの顔を見回した。茜お姉ちゃんの頼もしい笑顔、由希子ちゃんの温かい眼差し、神崎先生の励ましの表情。そして、私の信頼に満ちた瞳。
「分かりました」
田中くんがゆっくりと頷いた。
「お受けします。ただし、僕一人の力では無理です。みんなで協力して、本当の意味での平和な街を作りましょう」
王とアルカディウス様が立ち上がり、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
王が言った。
「この街が、人間と魔族の永遠の友好の象徴となることを願っています」
「田中よ」
魔王が厳かに言った。
「君たちに託すこの街は、ただの都市ではない。希望そのものなのだ」
私が立ち上がった。
「じゃあ、街の名前を決めましょう。何かいいアイデアはありますか?」
「『ハーモニア』はどうでしょう」
由希子ちゃんが提案した。
「調和という意味の」
「いいですね」
茜お姉ちゃんが頷いた。
「人間と魔族の調和を表す、ぴったりの名前だ」
「『交流都市ハーモニア』」
神崎先生が口にした。
「響きもいいですね」
王が満足そうに頷いた。
「では、正式に『交流都市ハーモニア』の建設を決定いたします」
アルカディウス様も同意した。
「人間と魔族の新しい歴史の始まりですね」
会談は成功に終わった。人類史上初めて、人間と魔族が対等な立場で交わした平和協定。それは小さな一歩だったが、確実に未来への道筋をつけた瞬間だった。
翌日、田中たちは人間領土の平原に立っていた。王が提供してくれた広大な土地は、見渡す限りの草原が広がっている。
「何もないなあ」
田中くんがぽつりと呟いた。
風が吹き抜け、草が波のように揺れている。空は青く澄み渡り、雲がゆっくりと流れていく。本当に何もない、ただの平原だった。
「でも」
私が田中くんの腕に寄り添いながら続ける。
「ここに私たちの街ができるのね」
「そうですね」
由希子ちゃんが目を輝かせた。
「学校も、病院も、図書館も」
「酒場も忘れるなよ」
茜お姉ちゃんが笑いながら続ける。
「ガルザさんとの約束だからな」
神崎先生が地図を広げた。
「まずは都市計画から始めましょうか。どこに何を建てるか」
田中くんは広い平原を見渡した。確かに今は何もない。
しかし、この場所に人間と魔族が共に暮らす街ができる。
子供たちが種族の垣根を越えて友達になり、大人たちが協力して働き、老人たちが昔話を語り合う。そんな平和な光景が、田中くんの心に浮かんだ。
「大変な道のりになりそうですね」
田中くんが呟いた。
「でも」
私が微笑みながら続ける。
「みんなで力を合わせれば、きっと素晴らしい街ができるわ」
風がまた吹いた。それは新しい時代の始まりを告げる風のようだった。
「よし」
田中くんが拳を握った。
「やってやろう。人間と魔族が本当に理解し合える、そんな街を作ろう」
何もない平原に響く田中くんの声は、希望に満ちていた。そして空の彼方から、まるでそれに応えるように、温かい日差しが差し込んできた。
新しい物語の始まりだった。




