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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第五章:二つの力と、新たな世界の始まり

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46話:大野たち転移!神に与えられた、破壊の力

私たちが魔王城でアルカディウス様と和平について話し合っていた時、急に城の中に不穏な空気が漂った。


「アルカディウス様、どうしたんですか?」


私が声をかけると、魔王は険しい表情で立ち上がった。


「何者かが人間領土で大規模な破壊活動を行っている。しかも、その力は…異常だ」


田中くんが「破壊活動?」と眉をひそめる。


「ああ、街という街が次々と襲撃されている。だが、これは普通の冒険者や勇者の仕業ではない。もっと…邪悪で強大な力だ」


私の胸に嫌な予感が走った。真実の目が微かに反応している。何か、とても悪いことが起こっている。


「詳しく教えてください」と神崎先生が言うと、アルカディウス様は重い口調で続けた。


「報告によると、三人の人間が突然現れ、問答無用で街を襲撃している。建物を破壊し、人々を傷つけ、そして…笑いながらこちらに向かってきているという」


その時、私たちの頭の中に突然、聞いたことのない声が響いた。


『我が愛する子らよ。お前たちは私を裏切った。魔族などという下等生物と手を結ぶとは、なんと愚かな。だが心配するな、お前たちには相応しい相手を用意した。田中がよく知っている者たちだ』


田中くんの顔が青ざめる。


「まさか…」


『そう、田中を苦しめていた者たち。大野、山田、佐々木。彼らに真の力を与えた。田中を消し去るための、絶対的な力を』


私は思わず田中くんの腕を掴んだ。大野たち…田中くんをいじめていたあの三人が、この世界に?


「神め…」茜お姉ちゃんが拳を握り締める。


『彼らはもうすぐそこまで来ている。お前たちの愚かな平和ごっこを終わらせるために。震えて待つがいい』


神の声が消えると、城内に重い沈黙が流れた。


「急いで人間領土の状況を確認しましょう」


私が提案すると、アルカディウス様は頷いた。


「魔法で現在の状況を映し出そう」


空中に映像が現れた瞬間、私たちは息を呑んだ。


画面には、見覚えのある三人の姿があった。大野、山田、佐々木。だけど、彼らの姿は以前とは全く違っていた。


身体は筋肉質になり、目は異様に光り、そして…何より恐ろしいのは、その表情だった。完全に理性を失い、破壊を楽しんでいるような、狂気に満ちた笑顔。


「うわあああ!」


大野が巨大な岩を素手で砕き、その破片を建物に投げつける。建物は一瞬で崩れ落ちた。


山田は両手から炎を放ち、街の一角を焼き払っている。


佐々木は風の魔法で人々を吹き飛ばし、その様子を見て大笑いしている。


三人とも、力に酔いしれているようだった。神から与えられた絶対的な力を振るうことに、完全に夢中になっている。


「ひどい…」由希子が手で口を覆った。


「神は彼らを利用している」と憤りを込めて言ったアルカディウス様。


「あの力は強大だが、きっと何かしらの代償があるはずだ。でも今は、彼らを止めることが先決だ」


田中くんが立ち上がる。


「行こう。彼らを止めないと」


「でも田中くん、神の力を受けた相手よ?大丈夫?」


私の不安に、田中くんは優しく微笑んだ。


「大丈夫。僕たちには、神に与えられた力じゃない、自分たちで育てた力がある。それに…」


田中くんが私の手を握る。


「僕たちには、仲間がいる」


その言葉に、私は勇気をもらった。そうだ、私たちは一人じゃない。


「魔王様、お願いがあります」


私がアルカディウス様に向き直る。


「人間領土での戦闘になりますが、私たちに任せてもらえませんか?」


「しかし…」


「きっと、あの三人も心の奥では苦しんでいるはずです。だからこそ、私たちが止めてあげたいんです」


アルカディウス様は少し考えてから、頷いた。


「分かった。だが、無理は禁物だ。本当に危険だと感じたら、すぐに撤退するのだ」


私たちは急いで人間領土へ向かった。


現場に到着した時、街の半分以上が破壊されていた。逃げ惑う人々、崩れた建物、そして空に立ち上る煙。


そして、その中央に立つ三人の姿。


「よお、田中」


大野が振り返ると、その顔には傲慢な笑みが浮かんでいた。


「久しぶりじゃねえか。こんなところで何してんだ?」


山田と佐々木も同じように、力に酔いしれているような表情だった。神から与えられた絶対的な力を手に入れて、完全に調子に乗っている。


「大野…君たちも神に騙されているんだ」


田中くんが一歩前に出る。


「騙されてる?」大野が哄笑する。「おいおい、俺たちは最高の力を手に入れたんだぜ?見ろよ、この力を!」


大野が拳を振り上げると、近くの建物が粉々になった。その破壊力は、確かに異常だった。


「やめて!その力に頼っていては、本当の強さは身につかない!」


私が叫ぶと、山田が私を見て舌打ちした。


「うるせえ、ブス。お前らなんか、俺たちの敵じゃねえんだよ」


でも、私は怯まなかった。田中くんが隣にいる。みんながいる。


「そうやって、いつまでも他人を見下すのか」


田中くんが黒刃の剣を抜く。その瞬間、彼の周りに雷が走った。


「田中くん…」


私は田中くんの背中を見つめた。以前の、いじめられていた弱々しい姿はもうそこにはない。毅然として、仲間を守ろうとする強い意志を持った、本物の勇者がそこに立っていた。


「お前が強くなったって?」大野が嘲笑する。「神様から力をもらった俺たちに勝てるわけ…」


大野が突進してくる。その速度と力は確かに凄まじかった。でも、田中くんの動きの方が洗練されていた。


風斬波!


田中くんの剣から放たれた風の刃が大野を吹き飛ばす。でも、人を傷つけない程度の力に調整されていた。


「ぐはっ!」


大野が地面に転がるが、すぐに立ち上がる。


「この野郎…」


今度は山田と佐々木も加わって、三人同時に攻撃してくる。


炎の球、風の刃、そして大野の怪力。


でも、私たちは慌てなかった。


攻撃に対してみんなが連携して動く。由希子はクイックで私たちの動きを加速させ、シールドで防御を強化する。


茜お姉ちゃんがファイアーウォールで炎を相殺し、私がウィンドウォールで風を防ぎ、神崎先生がライトシールドで大野の攻撃を受け止める。


そして更に私は、縫合突で三人の隙をつく。


「うわああああ!」


三人が同時に倒れる。でも、まだ立ち上がろうとしている。


「なんで…なんで俺たちが負ける…」


大野が地面に座り込みながら呟く。


「君たちが弱いからじゃない」


田中くんが優しく答える。


「僕たちには、仲間がいるからだ。一人で戦っているんじゃない。みんなで支え合って、一緒に強くなってきたんだ」


「仲間?」山田が笑う。「そんなもん、いらねえよ。俺たちには神の力がある!」


山田が再び炎を放とうとする。でも、その瞬間だった。


山田の身体が突然光り始めた。


「うわあああああ!」


山田が悲鳴を上げる。


「何が起こってるんだ!?」


佐々木も慌てるが、彼の身体も同じように光り始めた。


私は直感的に悟った。この光は、神の力が暴走している証拠だ。


「田中くん…彼らの身体が限界を超えてる」


私が震え声で言うと、神崎先生が息を呑んだ。


「まさか、あの力は…人間の身体に負荷をかけすぎていたのね」


茜お姉ちゃんも理解する。


「神は最初から、あいつらを使い捨てのつもりだったってことか」


「そんな…そんなはずは…」


大野が震え声で呟く。彼の身体も光り始めていた。


「俺たちは…俺たちは特別な存在のはずだった…神に選ばれた…」


でも、神の力の副作用が、ついに現れたのだ。


田中くんが大野に近づく。


「大野、もうやめよう。君たちも、神に利用されただけなんだ」


「田中…」


大野の目に、初めて恐怖の色が浮かんだ。


「俺、死ぬのか…?」


その瞬間、私は大野の中に、いじめっ子ではない、一人の怯えた少年を見た。


私は由希子に目配せする。由希子は頷いて、回復魔法を唱え始めた。


でも…もう遅かった。


「がああああああああ!」


大野の身体が光に包まれ、そして…消えていく。


「大野!」


山田と佐々木も同じように、光となって消えていく。


最後まで、彼らは神の力に溺れ、そして異世界で朽ち果てていった。


私たちは、ただそれを見つめることしかできなかった。


戦いが終わった後、私たちは破壊された街を見つめていた。


「もし、神の力を断っていたら…大野たちはどうなったんだろう」


田中くんが呟く。


「あの神だから、無理矢理にでも与えて戦わせたのかな」


私は田中くんの手を握った。


「私たちの力も神が与えたのかもしれないけど、小さな力を育てて成長させてきた。それが私たちと大野たちの違い。もう、この力は私たちのもの……」


茜お姉ちゃんが溜息をつく。


「それにしても、神という奴は本当に最低だな。人間を愛してるって言いながら、人間を使い捨てにするなんて」


神崎先生も重い表情で頷く。


「生徒として見ていた彼らが…あんな風になってしまうなんて」


由希子が涙を拭う。


「私たち、これからどうしたらいいんでしょうか?」


田中くんが振り返る。


「僕たちは正しい道を歩んでいる。神の歪んだ愛に対抗できるのは、僕たちのような存在だけだ」


神崎先生も頷く。


「そうね。私たちには、神に与えられた力ではなく、自分たちで育てた力がある」


私は改めて決意を固めた。


神は、まだ諦めていない。きっと、また新しい勇者を送り込んでくるだろう。


でも、私たちはもう一人じゃない。人間と魔族、みんなで力を合わせて、本当の平和を作っていこう。


大野たちのような犠牲者を、二度と出さないために。


「私たち、きっと神を止められるよ」


私が言うと、田中くんが微笑んだ。


「ああ、みんなで一緒になら」


夕日が破壊された街を照らしている。でも、その光は絶望ではなく、新しい始まりを照らしているようだった。


私たちの本当の戦いは、これから始まる。

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