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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第四章:暴かれた真実と、本当の敵

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38話:魔族の子供を助けて、私たちが知った真実

辺境の村での盗賊討伐を終え、城塞都市ヴェサリウスに戻った私たち。


ギルドに報告を済ませ、一息つこうとした時だった。


「田中健太殿にお伺いしたい儀がある。陛下がお呼びである」


突然、王室の使者に呼び止められた。


私たちは皆、驚きを隠せない。


今まで田中くんが王に謁見したことは一度もなかった。


実力は認められていたとはいえ、対人関係が苦手な田中くんは正式な謁見を避けてきたのだ。


でも、今回は私たちも一緒だ。


「大丈夫だよ、田中くん。私たちがついてるから」


そう言って、私たちは王城へと向かった。


厳かな雰囲気の謁見の間。


国王ハインリッヒ三世は、田中くんを勇者として正式に認定した。


「多くの勇者が現れては消えていく中、そなたほどの実績を重ねた者はいない。黒刃の勇者よ、ついに魔王討伐の時が来たのだ」


国王の説明によると、魔族領は東方の険しい山脈の向こうにある。


「嘆きの渓谷」という、ただ一つの狭い谷間からしか入れないという。


「嘆きの渓谷を抜けた先には、魔族の特殊な結界が張り巡らされており、村や街は人間の目には映らん。多くの勇者や冒険者が挑戦したが、魔王城の在り処すら掴めずにおる。近頃は魔族どもの反撃も激しくなっておるゆえ、くれぐれも油断はするな」


重い使命を背負って王城を後にした私たちは、いよいよ魔族領へと足を踏み入れることになった。



「嘆きの渓谷」は、想像をはるかに超える険しい道のりだった。


両側を切り立った崖に挟まれた、人が一人通れるほどの細い道。


私たちは慎重に進んでいく。


「この先が魔族領の境界だ」


田中くんが地図を確認しながら言った。


渓谷を抜けると、鬱蒼とした深い森が広がっていた。


「境界の森」――多くの勇者が魔族との初戦を繰り広げる場所だ。


森に入ってしばらく歩くと、突然、地の底から響くような大きな咆哮が聞こえてきた。


「フォレストベア!」


巨大な熊のような魔物が姿を現す。


魔族領の魔物は一段と強力で、威圧感がこれまでの比ではない。


田中くんの黒刃がきらめき、茜お姉ちゃんの炎剣が唸る。


由希子ちゃんが回復魔法で私たちをサポートし、私がモンスターの動きを読んで指示を出す。


完璧な連携で、魔物はあっという間に倒れた。


「やっぱり、魔族領の魔物は手強いな」


田中くんが息を整えながらつぶやく。


さらに森の奥へ進むと、今度は遠くから戦闘の音が聞こえてきた。


金属がぶつかり合う音、魔法が炸裂する音、そして悲鳴……。


「誰かが戦ってる!」


私たちが音のする方向に急ぐと、開けた場所で激しい戦闘が繰り広げられていた。


武装した冒険者パーティが、魔族らしき一団を追い詰めている。


「魔族は一匹残らず始末しろ! 情報を吐かせろ!」


冒険者のリーダーが叫んでいる。


魔族たちは必死に抵抗していたが、数で劣勢に立たされていた。


しかし、激しい抵抗で冒険者も負傷しており、魔族が撤退すると彼らは深追いはしなかった。


その時、私の目に小さな影が映った。


戦場の端で、小さな魔族の子供が倒れている。


右足から血を流して、動けずにいる。


「子供がいる!」


私が指差すと、一人の冒険者がその子供に気づいた。


「おお、魔族の子供じゃねえか。これはいい獲物だ」


冒険者が邪悪な笑みを浮かべ、剣を抜いて子供に近づく。


「やめて!」


私は思わず飛び出していた。


田中くんたちも私に続いて駆け出す。


「何だ、お前らは! 邪魔するな!」


「子供に剣を向けるなんて、許せない!」


私が冒険者に向かって叫ぶ。


冒険者のリーダーが険しい表情で田中くんを睨みつけた。


「俺たちはただの旅人だ。目の前で子供が傷つけられるのを黙って見ていることはできない」


田中くんが冷静に答える。


リーダーは田中くんの放つ圧倒的な気迫に気圧されたのか、眉をひそめて命令した。


「ちっ……! 今日は引き上げるぞ。こっちにも負傷者がいる、無駄な戦闘は避ける」


冒険者たちは私たちを睨みつけながら去っていった。


静まり返った戦場に、私たちはぽつんと立ち尽くしていた。


その足元には、怯えきった様子の子供がうずくまっている。


小さな角の生えた頭に、淡い紫色の肌。


震える声で話しかけてきた。


「お、お願い……僕を殺さないで。僕、何も悪いことしてない」


その言葉に、私たちは胸を締め付けられる思いだった。


この子は、私たちを恐れている。


「大丈夫よ。怖がらないで。怪我の手当てをしてあげるから」


茜お姉ちゃんが優しく声をかけると、子供の表情が少し和らいだ。


「僕、リオ。お母さんとお父さんと、森の中で木の皮を剥いでたら、人間の冒険者たちに見つかっちゃって……。お父さんとお母さんが僕を逃がしてくれたんだけど、転んじゃって動けなくなっちゃったんだ」


リオくんの話から、人間の冒険者たちが魔族の村の位置を知らず、境界の森を闇雲に捜索していることがわかった。


見つけられない苛立ちから、無差別に魔族を襲っていたのだろう。


「魔族はね、みんな普通に暮らしてるだけなんだよ。畑を作ったり、お店をやったり……」


リオくんの話は、私たちが王から聞かされていた魔族のイメージと全く違っていた。



リオくんの案内で、私たちは森の奥深くに隠された魔族の集落に到着した。


木々に覆い隠されるように作られた集落は、結界の力で外からは全く見えない。


「リオ!」


集落の入り口で、リオくんのお母さんが駆け寄ってきた。


彼女は泣きそうな顔でリオくんを抱きしめ、その安否を確かめている。


リオくんのお父さんも、心配そうにこちらを見ていた。


「人間……?」


集落の魔族たちは私たちを見ると、恐怖に顔を歪めて後ずさりした。


子供たちは泣き出し、大人たちは手にしていた農具や狩猟用の槍を構える。


「待って!」


リオくんが叫んだ。


「この人たちは僕を助けてくれたんだ!」


それでも、すぐに信用してもらえたわけではなかった。


私たちは集落の外れに案内され、見張りをつけられた状態で一夜を過ごすことになった。


集落を見回すと、魔族たちは本当に普通の生活を営んでいた。


子供たちは元気に遊び、大人たちは畑仕事や手工芸に励んでいる。


人間の村と何ら変わらない、平和な日常がそこにあった。


「王様が言っていたことと全然違う……」


由希子ちゃんが戸惑ったようにつぶやいた。



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