37話:勇者パーティ、レミナの里を救う
しかし、平和な時間は長くは続かなかった。
夜更けに、村の見張りから警鐘が鳴り響いた。
「盗賊だ!盗賊の襲撃だ!」
私たちは慌てて外に飛び出した。松明の明かりに照らされて、十数人の盗賊たちが村に押し入ろうとしている。
「村長さん、村人の皆さんは家の中に避難してください」
田中くんが冷静に指示を出す。
「私も村人の方々の避難誘導を手伝います。皆さん、慌てずに奥の建物へ!」
神崎先生が教師らしい責任感を見せる。
「でも田中様、相手の数が...」
「大丈夫です。僕たちに任せてください」
田中くんの言葉には、絶対的な自信が込められていた。
盗賊たちが村の中心部に侵入してくる。リーダー格の男が大きな斧を振り回している。
「へへへ、こんな小さな村でも金目の物くらいはあるだろう」
「女や子供がいれば、奴隷として売れるしな」
盗賊たちの下品な笑い声が響く。しかし、それも束の間だった。
「そこまでです」
田中くんが盗賊たちの前に立ちはだかった。月光を受けて、彼の剣が鈍く光る。ダマスカス鋼の黒い波紋模様が闇夜に美しく浮かび上がり、柄の魔石が青い光を放っている。その隣には神崎先生が槍を構えて立っていた。
「ライトシールド!」
神崎先生の槍から光の盾が展開され、盗賊たちの矢を防ぐ。
「ガキが一匹出てきやがったな。返り討ちにしてやる!」
リーダーが斧を振り下ろすが...
シャキン!
田中くんの剣が一閃し、斧が真っ二つに割れた。黒い波紋の刀身が月光に輝く。
「な、何だと...?」
「次は君たちの番です」
田中くんの剣技が炸裂する。ダマスカス鋼の美しい刀身が舞い踊り、一人、また一人と盗賊たちが倒されていく。その動きはまさに華麗としか言いようがなかった。戦闘の最中、剣の刃に小さな欠けができたが、柄の魔石が青く光ると瞬時に修復される。
「田中くん、左から来ます!」
私の警告に応じて、田中くんが振り返る。そこに茜姉の炎剣が閃いた。
「炎剣・紅蓮斬り!」
茜姉の剣から炎が立ち上り、複数の盗賊を一度に薙ぎ払う。
「神崎先生、右側をお願いします!」
「任せてください!」
神崎先生の槍が縦横無尽に踊る。ライトシールドで攻撃を受け流しながら、的確に盗賊たちの急所を突いていく。その戦い方は、ベテランパーティでの経験が活かされていた。
「茜さん、すごい連携ですね!」
由希子も負けてはいない。回復魔法だけでなく、補助魔法で私たちの能力を底上げしてくれる。
「シールド!」「エンハンス!」
光の盾が私たちを包み、身体能力が向上するのを感じる。
私も優れた観察力で盗賊たちの動きを読み、みんなに的確な指示を出していく。
「右の盗賊、動きが鈍いです!左足を庇ってます!」
「後ろから弓矢が来ます!」
五人の連携は完璧だった。これまでの冒険で培った絆と信頼関係が、戦闘でも遺憾なく発揮される。
あっという間に盗賊たちは全員無力化された。逃げ出そうとする者たちも、田中くんの素早い動きで全員捕縛された。
「み、見事だ...」
隠れて見ていた村人たちから、感嘆の声が漏れる。
「村長さん、この盗賊たちはどちらに引き渡せばよいでしょうか?」
田中くんが縄で縛られた盗賊たちを見下ろしながら尋ねる。剣をアイテムボックスにしまう前に、刀身を確認する。戦闘中についた小さな傷は、すべて魔石の力で修復されていた。
「そうですね...一番近い街の憲兵隊に引き渡していただければ。確か盗賊団には懸賞金もかかっていたはずです」
村長が答える。私たちは翌朝、盗賊たちを連行して最寄りの街まで向かうことにした。
盗賊たちを最寄りの街の憲兵隊に引き渡した後、私たちはレミナの里に戻った。
予想通り、盗賊団には懸賞金がかけられており、かなりの報奨金を受け取ることができた。
「この報奨金の一部を、村の防衛強化に使ってください」
田中くんが村長にお金を渡そうとすると、村長は慌てて手を振った。
「とんでもありません!皆様にお支払いするべきお礼もないというのに」
「いえ、僕たちは十分にお世話になりました。これは気持ちです」
結局、村長は田中くんの好意を受け入れることになった。
村人たちが総出で私たちを見送ってくれた。
「田中様、皆様、本当にありがとうございました」
村長が深々と頭を下げる。
「昨夜の戦いを見せていただいて、改めて実感いたしました。皆様は本当のヒーローでいらっしゃる」
子供たちも目を輝かせて私たちを見つめている。
「田中お兄ちゃん、また来てね!」
「茜お姉ちゃんも!」
「由希子お姉ちゃんの料理、また食べたい!」
「花お姉ちゃんも、絶対だよ!」
「神崎先生も、また槍を教えて!」
子供たちの純粋な笑顔に、私たちの心は温かくなった。
村を後にしながら、私は心の中でつぶやいた。
「私たち、本当のヒーローになれたのかな」
「そうですね」
由希子が微笑む。
「こういう平和な村を守ることができて、冒険者として本当に良かったと思います」
「ああ、俺たちがやるべきことが見えた気がする」
茜姉も満足そうだ。
「生徒たちがこんなに立派になって...教師として誇らしいです」
神崎先生が感慨深くつぶやく。
田中くんが振り返って、私たちを見つめる。
「みんな、ありがとう。一人だったら、きっとここまでできなかった」
「何言ってるんですか、田中くん」
私は笑いかける。
「私たちは仲間でしょう?」
レミナの里で過ごした短い時間は、私たちにとって大きな意味を持つものになった。戦うことの本当の意味、守るべきもののかけがえのなさ、そして仲間と共にいることの素晴らしさ。
すべてを学ぶことができた、かけがえのない経験だった。
私たちの冒険は続く。でも、これからは迷うことはない。レミナの里のような平和な場所を守るために、私たちは戦い続けるのだから。




