34話:放課後の帰り道で、私が不良に絡まれた件
ここからは佐藤花目線のお話です。
いつもの帰り道を歩いていると、見慣れない男たちが私の前に立ちはだかった。
三人組の男たちは、以前田中くんが簡単に片付けたチンピラたちよりも年上で、明らかにこの街の「不良」といった雰囲気を漂わせている。
学生服ではなく、だらしない私服に金のネックレス。
煙草の臭いが漂ってくる。
「おい、佐藤花ちゃんだろ?」
一番前にいた男が、薄気味悪い笑みを浮かべながら声をかけてきた。
私の名前を知っている。
これは偶然じゃない。
「あの……何か用でしょうか?」
震え声になりそうなのを必死に抑える。
でも、心臓がバクバクと鳴っていた。
「大野の野郎から頼まれてな。お前をちょっと脅かしてくれってよ」
大野から?
あのいじめっ子が、まだ懲りずに田中くんへの逆恨みを続けているのか。
「どうやらお前には、俺たちの仲間をボコボコにするような彼氏がいるらしいな。だが、今回はそうはいかねえぞ」
男の目が細められる。
今、田中くんがここにいないという恐怖が私を襲った。
三人の男たちが私を囲むように立った。
逃げ道を塞がれている。
普通の女子高生なら、ここで泣き叫んでしまうだろう。
でも、私はもう、ただの女子高生じゃない。
異世界での記憶が蘇る。
ゴブリンと戦った時の恐怖。 田中くんと一緒に戦った経験。 そして、それらを乗り越えてきた自分の成長も。
「あの.……」
私は深呼吸をして、震えを抑えた。
「大野くんに伝えてもらえませんか?田中くんに嫌がらせをしても無駄だって」
「は?何言ってんだ、この女!舐めてんのか!」
男の一人が苛立ったように私に向かって手を伸ばした。
その瞬間、異世界で培った瞬発力が、私の身体を突き動かす。
私は彼の掌が届く直前で体をひねり、その勢いで男の膝に強く蹴りを入れた。
異世界のモンスターと戦う時に覚えた、相手のバランスを崩すための正確な一撃だった。
「うわっ!」
男は痛みでバランスを崩し、膝をついた。
まさか女子高生に反撃されるとは思っていなかったのだろう。
「テメェ、やりやがったな!」
残りの二人が怒りをあらわにして襲いかかってきた。
でも私は冷静だった。
異世界で戦い続けた経験が、この状況でも私を支えてくれる。
一人目のパンチを紙一重でかわし、もう一人が振りかぶった腕を、私は掌で弾いた。
田中くんに教わった護身術の動きが、自然に身体から出てくる。
「なっ.…….なんだ、こいつ!」
彼らの動きは、異世界のモンスターに比べれば、驚くほど鈍く見えた。私の反射神経は、ゴブリンやスライムとの戦闘で鍛えられ、格段に向上していたのだ。
「おい、この女やべえぞ!何者だよ!」
三人目の男が後ずさりする。私の変化に気づいた彼らは、明らかに動揺していた。
「普通の女子高生じゃねえな...」
そう呟いた男たちは、お互いを見合わせ、最終的に逃げるように去っていった。
男たちの姿が見えなくなってから、私はその場にへたり込んだ。
完全に勝てたわけじゃない。
彼らが本気で来ていたら、どうなっていたかわからない。
でも、自分の力で、身を守ることができた。
逃げることができた。
異世界での経験が、現実世界でも私を守ってくれた。
田中くんがいなくても、私は自分の身を守ることができる。
でも、勝利の安堵よりも、別の感情が心を強く占めていた。
田中くんへの愛情。
男たちが去った後の静けさの中で、私は気づいた。
私が戦えたのは、田中くんを守りたいという想いがあったからだ。
大野の嫌がらせが田中くんに向かうのを阻止したい。
田中くんを困らせたくない。
そんな想いが、私に勇気をくれた。
異世界で培った力は確かに私を強くした。
でも、その力を発揮できたのは、田中くんへの愛があったからだ。
彼を想うことで、私は恐怖を乗り越えることができる。
彼のために戦うことで、私は自分の限界を超えることができる。
「田中くん...」
私の心の中で、彼への想いがより一層深まっていく。
私は立ち上がって、田中くんの家の方向を見た。
一人でも戦えるようになった。
異世界での経験が、現実世界でも私を守ってくれる。
これは確かな自信だった。
でも、もし田中くんが隣にいてくれたら、こんな恐怖を感じることもなかっただろう。そして、彼と一緒にいる時の方が、私はもっとずっと強くなれる気がする。
一人で戦える力を得たからこそ、わかる。
私は田中くんと一緒にいる時が、一番自分らしくいられる。
一番強くいられる。
一番幸せでいられる。
今すぐ会いに行きたい。
この出来事を話して、一緒に今後の対策を考えたい。
そして、何より、彼に会って安心したい。




