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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第三章:広がる秘密の輪

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27話:神崎麗華、異世界での奮闘

宿屋の簡素な部屋で目を覚ますと、慣れない木の天井が視界いっぱいに広がった。


まだ夜の帳が完全に開ける前、ひんやりとした朝の空気が肌を撫でる。


だが、昨夜、ぐっすりと眠ったおかげだろう、頭はすでに冴え渡っている。

重かった体の疲労も、ほとんど感じない。


宿屋に備え付けの、ごわつく麻の部屋着から、異世界に転移した時に身につけていた服装へと着替える。


それは、体に沿うように仕立てられた濃紺の革製チュニックに、動きやすさを考慮した同色の細身のパンツ、そして頑丈な革のブーツという、まるで物語の騎士がまとうような軽装だった。


無駄のない機能美の中に、私の毅然とした雰囲気を引き立てる品格が感じられた。


異世界で活動するには理想的な装いだ。

妙な落ち着きを感じながら、私は身支度を整え、宿屋の受付へと向かった。


壁に飾られた時計が目に入り、思わず息をのむ。

木製の簡素な作りだが、針はきちんと十二時まで記され、まさしく日本の現代世界と同じように時が刻まれている。


(一日二十四時間で、きちんと生活が営まれているのね……)


未開の地とは程遠い、規則正しい時間の流れが存在することに、私はこの世界の文明レベルの高さを見た気がした。


同時に、教師としての生活、時間厳守の日常が、どれほど私の精神に深く根ざしているかを改めて認識させられた。


とりあえず、朝食を摂ることにする。


ギルドの食堂も選択肢にはあったが、宿屋の日替わりメニューがサンドウィッチにサラダ、卵スープとミルクという、比較的女性向けの軽食だったのが決め手となった。


硬すぎず、柔らかすぎないパンに挟まれた新鮮な野菜と肉。温かい卵スープの優しい味。


私は、この異世界での束の間の平穏を、ゆっくりと味わった。


食事を終え、私は改めて自分の現状を整理した。


帰る術が見つからない今、冒険者として生計を立てるのが唯一の方法だ。


宿屋の予算は、あと二泊分。

このままでは路頭に迷うことになる。

何もしないわけにはいかない。

私は覚悟を決め、ギルドへと向かった。


受付で依頼掲示板に目を凝らす。

ゴブリンやスライムの討伐依頼は、報酬が極めて低い。


ゴブリン集落の壊滅で10レム。

百匹倒しても百レムにしかならない計算だ。

これでは、到底生活できない。


(やはり、一角うさぎしかないわね)


昨夜の一角うさぎ討伐で100レムという報酬を得たことを思い出す。

朝早く訪れているためか、掲示板には一角うさぎの依頼が五件も貼られていた。


(これは、全て受けるしかないわ。疲労を覚悟で、一気に片付けるべきね)


私は受付に行き、手続きを済ませた。


女性スタッフが、少し驚いたような、しかし好奇心を含んだ笑顔で私に問いかける。


「もしかして、一角うさぎハンターさんですか?今日の分、全部持っていかれます?」


彼女の冗談に、私は小さく苦笑を漏らした。


だが、冗談を言っている場合ではない。


全ての依頼の期限は三日以内。


これなら、何とか今日の内に片付けられそうだ。


依頼場所は、カナリア台地、カザフの丘、ヤワタ野原、イセサキ湿原、ヒダカ台地。地図を確認すると、それぞれの依頼場所は結構離れている。


肉食のうさぎだからか、そこまで数は多くないのだろう。


しかし、付近に住む人々からすれば、間違いなく驚異に違いない。


私はまず、ここから一番近いカナリア台地へと向かうことにした。


街を出ると、空気はさらに澄み渡り、足元を彩る草花の匂いが鼻腔をくすぐる。


レベルアップしているためか、昨日より足取りが軽い。


地面を蹴る一歩一歩が、以前よりもはるかに力強く、体が軽く感じられる。

昨日の疲れもほとんど残っていない。


カナリア台地では、すぐに一角うさぎを発見した。


「フッ!」


昨日と同じように『ライトシールド』で攻撃を受け止め、槍を繰り出す。


その突きは、迷いなく一角うさぎの急所へと吸い込まれていく。

冷静かつ的確に、一角うさぎを仕留めていく。


そのたびに、身体能力が向上していくのが実感できた。

(ファイト!ファイト!)

私は心の中で自分に声をかけながら、次々と依頼場所を移動した。


カザフの丘へと続く道の、緩やかな上り坂を駆け上がった。

ヤワタ野原の広々とした平原を横切り、イセサキ湿原の湿地帯を慎重に進む。

そして、最後のヒダカ台地へ。


一日中、魔物と対峙し、走り続けた。


教師としての体力には自信があったが、この世界の活動はそれをはるかに超えるものだった。


しかし、疲労よりも、自身の成長を実感する奇妙な高揚感、そして生徒たちを見つけ出すという目的意識が、私を突き動かしていた。


身体の芯から汗が吹き出し、息は乱れていたが、精神はどこまでも研ぎ澄まされていた。


夕方までに全ての依頼の一角うさぎを倒し終え、私は始まりの街コレットへと戻った。


ギルドの受付で全ての依頼を報告すると、合計で900レムという報酬を手に入れた。


冷たい通貨の感触が、私の掌に心地よい。


しかし、その喜びも束の間、私の視線は手元の槍へと向かった。


(これは……もう限界ね)

連日の激しい戦闘で、私の相棒となった槍は、刃こぼれが激しく、全体的に歪みが生じていた。

金属疲労を起こしているのは明らかだ。


これでは、いつ折れてもおかしくない。

受付の女性スタッフに「おすすめの武具屋はありますか?」と尋ねると、彼女は『鋼の鎚亭はがねのつちてい』という店を教えてくれた。


私はすぐにその店へ向かい、新しい槍を300レムで購入した。


それは、鍛え上げられた鉄製の穂先を持つ、堅牢な一本槍だった。

真新しい槍は、手に馴染むほど完璧なバランスだ。


新しい槍の代金を引いても、前日の稼ぎと合わせておよそ十二泊分の予算ができたことになる。


(まだまだ、安心はできないわね。生徒たちを見つけ出すためにも、もっと強くならなければならないし、何より、この世界で生きていくための知識も必要だわ)


私は新しい槍をアイテムボックスにしまい込み、再びギルドの食堂へと向かった。


私はカウンターで、肉と根菜がごろごろ入った温かいシチューと、焼きたての黒パンを注文した。


冒険者たちが大勢集う食堂は活気に満ち、香ばしい肉の匂いと、エールの独特の香りが混じり合っている。


一人、窓際のテーブルに腰を下ろし、慣れない食事を口に運んでいると、突然、見知らぬパーティが私に話しかけてきた。

「クラスの空気」だった田中くんが、なぜか輝いて見える。

そして、そんな彼の隣で、佐藤さんもまた、驚くほどの成長を見せている。

担任として、私は彼らの「異変」に気づいているかもしれません。

...それでも、この世界の真実を、あなたは知りたいですか?

もし「知りたい」と強く思うなら、【評価】と【ブックマーク】で、その熱意を示してください。

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