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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第三章:広がる秘密の輪

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26話:神崎麗華、異世界へ

ここからは神崎麗華先生目線のお話です。

生徒たちが消えた場所には、空間が微かに歪むような、膜のようなものが揺らいでいるように見えた。


それは、私の知的な感覚が捉えた、異質な「何か」の痕跡。


あの四人が、一体どこへ消えたのか。

この「何か」が、その答えを握っている。


私は迷わなかった。


生徒たちの姿が吸い込まれるように消え失せたその場所に、私は恐れることなく足を踏み入れた。


足裏に、ひんやりとした、しかし確かな抵抗を感じる。


次の瞬間、視界が白く染まり、体がぐっと引っ張られるような、


強烈な浮遊感が私を襲った。

まるで、真空のチューブを高速で落下していくような、平衡感覚を失う感覚。


全身の細胞が軋むように感じられたが、生徒たちを追いかけるという使命感が、その全てを上回る。


気がつけば、しっとりとした土の感触を足裏に感じていた。

あたりは鬱蒼とした森で、夕暮れ時特有の薄暗さが支配している。


遠くから、聞き慣れない獣の鳴き声が響いてくる。

「ここが……異世界……」

茫然と立ち尽くす私の目の前に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。


『ようこそ、異世界へ。あなたは【冒険者】としてこの世界で生きる力を得ます』


『武器を選択してください:剣、斧、槍、弓、杖、素手』


私は一瞬躊躇した。


戸惑いや驚きよりも先に、冷静な分析が始まる。


この状況で最適なのは何か。自身の体幹の強さを活かせる、リーチのある武器。


「……槍を」


私がそう選択すると、手の中に硬質な感触が生まれた。


見れば、質素ながらも精巧な造りの銅の槍が握られている。


そのずっしりとした重みが、ここが現実ではないことを如実に物語っていた。


『スキルを獲得しました:槍術習熟(微小)』

『新たな力が覚醒しました。戦闘を経験することで、その能力は明らかになるでしょう』


私の頭を最初に過ったのは、明日の学校の授業と、出勤のことだった。


(いけないわ!明日は朝から会議があるし、生徒たちを放っておくわけにはいかない!)


私は一人暮らしだ。

家族に心配をかけることはないが、教育者としての責任感が強く、無断欠勤など考えられなかった。

一刻も早く、あのゲートを通って現実世界に戻らなければ。


その時、森の奥から、複数の低い唸り声が聞こえてきた。

「グルオオオオ!」

現れたのは、醜悪な顔をした緑色の肌の生物――ゴブリンの群れだった。


5、6匹のゴブリンが、手に粗末な棍棒を持って、私めがけて襲いかかってくる。

「ふっ!」

私は槍を構え、冷静に応戦した。


普段から体幹を鍛え、教師としての体力には自信がある。

ゴブリンの棍棒を軽くいなし、鍛えられた体幹から繰り出される槍の一突きは、正確にゴブリンの急所を貫いた。


『経験値を獲得しました。』

ゴブリンはあっけなく倒れる。

私は生徒を心配する一心で、無我夢中だった。

一匹、また一匹と、次々にゴブリンを撃退していく。

『レベルアップしました!』

『スキルを獲得しました:ライトシールド』


ゴブリンの棍棒を受け止めた瞬間、私の左腕に淡い光の盾が具現化した。

私は驚くことなく、その光の盾で次の攻撃を受け流し、槍を振るった。


「こんなところで、時間を取られている場合ではないわ!」

私は急いで森の中を駆け抜けた。


生徒たちを探さなければならない。そして何より、現実世界に戻らなければ。


数時間後、夜のとばりが降りる頃、私は疲労困憊になりながらも、一つの街の門にたどり着いた。


門番の兵士に、ここはどこかと尋ねる。

「ここは、始まりの街コレットだ」


無愛想な返答に、私の胸に鉛のようなものが沈んだ。


始まりの街。ということは、ここが異世界の入り口だ。

そして、どうやら私はまだ、元の世界に戻る方法を見つけられていないらしい。


(まさか、戻れない……?いいえ、そんなことはありえない。必ず方法はあるはずだわ)


冷静になろうと努めながら、私はふと、違和感を覚えた。


意識を集中すると、アイテムボックスというメニューが目の前の半透明のウィンドウに現れた。


開くと、そこには倒したゴブリンやスライムの魔石が数個と、そして、現実世界で身につけていた教師の制服やカバン、財布までがそのまま入っていた。


(これは便利だわ……でも、現金がない)


財布の中身は空っぽだった。

異世界で使える通貨を持っていないことに気づき、私は途方に暮れる。


その時、視界の隅に、「冒険者ギルド」と書かれた看板を掲げる建物が目に入った。


私は迷わずギルドの扉を開けた。

中に入ると、受付にいた男性職員が対応してくれた。

「冒険者登録をしたいのですが、可能でしょうか」


私は毅然とした態度で尋ねた。

事情を説明し、魔石を売却することで、ようやく異世界で使える通貨を手に入れた。


手に入れた僅かなレムを握りしめ、私はギルドの紹介で『羊飼いの憩い』という宿屋へと向かった。

宿屋のカウンターに立つ主人に声をかける。

「一泊、おいくらになりますか?」

「お客様、一泊60レムになりますが」

主人の言葉に、私は手元のレムを確認した。


持ち合わせているのは、わずか40レム。

やはり足りない。

急いでゴブリンの群れを突破してきたため、稼ぎが少なかったのだ。

私はギルドに戻り、再度男性職員に話しかけた。


「もう少し、効率よく稼げる依頼はありますか?宿泊費が足りないもので」


男性職員は、地図を広げて説明してくれた。「一角うさぎ」の討伐依頼は、1匹100レムと高額な報酬だという。私は背に腹は代えられず、その依頼を引き受け、バンバカバンの丘へと向かった。


バンバカバンの丘に到着すると、私は血生臭い光景を目にした。

大きな白いうさぎが、ゴブリンらしき肉を貪り食っている。

「ッ……!」

私は思わず顔を背けた。

いくら魔物とはいえ、同族を喰らうような醜悪な光景に、私は生理的な嫌悪感を覚えた。

だが、宿のためだ。


私に気づいた一角うさぎは、低い唸り声を上げ、血に濡れた口元を歪ませながら、真っ直ぐにこちらに向かってきた。


その突進は、見た目からは想像できないほどの速度と威力を持っていた。

私は『ライトシールド』を具現化し、迫りくる角を光の盾で受け止める。


衝撃で腕が痺れるが、私は教師としての冷静さを保っていた。

一角うさぎが体制を崩した隙を突き、槍でその胴体を突き刺す。

硬い毛皮と肉を貫く感触が、手のひらに伝わってくる。


「ぐぅ、グルルル!」

一角うさぎは苦悶の声を上げながら、それでも猛攻を仕掛けてくる。

私は盾で受け、槍で突き、少しずつ、しかし確実にその巨体を弱らせていった。


やがて、巨体は血溜まりの中に倒れ込んだ。


ギルドに戻り、報酬と魔石の売却価格を合わせて180レムを手に入れた私は、ようやく『羊飼いの憩い』の簡素な部屋にたどり着いた。

ベッドに横たわり、天井を見上げる。


異世界での初の夜。

(一体、生徒たちはどこへ消えたのかしら……)

田中、花、由紀子、そして茜。あの四人の姿が脳裏をよぎる。

彼らもこの世界に転移しているのだろうか。

そして、無事なのだろうか。


(そして、私は……どうするべきなのか)

教師としての責任感が、この未知の世界で私を突き動かす唯一の理由だった。

疲労と、途方もない現実に、私は静かに眠りについた。


私の大切な教え子たち。

特に田中くん、佐藤さん、鈴木さん。

彼らは、この数ヶ月でまるで別人のように変わってしまった。

担任として、私は彼らの成長を喜ぶと同時に、その異常なまでの変化に大きな不安を抱いています。

もし、この物語を通して彼らのことを心配に思ったなら、ぜひ【評価】と【ブックマーク】で、彼らの無事を祈ってください。

あなたの祈りが、彼らに届きますように。

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