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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第三章:広がる秘密の輪

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23話:姉妹の絆と新たなスタート

「な、なんのことー?別に変じゃないよ?」


花の声は、いつもより少しだけ、上擦っていた。

カップの中のカフェオレを見つめる瞳は、明らかに動揺を隠しきれていない。


その細い肩は、微かに震えているようにも見えた。


あたしは、真っ直ぐに花の目を見つめた。


「とぼけんな!あたし、知ってるんだからな!あんた、最近、別の世界に行ってるだろ!」


あたしの強い言葉に、花の顔からみるみるうちに血の気が引いていく。


彼女は目を見開き、信じられないものを見るかのように、まるで幽霊でも見たかのようにあたしを見つめている。


その表情は、恐怖と、そして隠し事が露見した焦りでぐちゃぐちゃになっていた。


「な、なんで……お姉ちゃんがそれを……!?」

「なんでって……あたしだって、行ったんだよ!昨日、あんたと同じ世界に!」


あたしは、花を安心させるように、落ち着いた声で話し始めた。


異世界に転移してしまった経緯、魔物と戦ったこと、レベルアップして「魔法剣」と「異世界転移」のスキルを獲得したこと。


そして、昨日オークの集落でどれほど危険な目に遭ったか、ベテラン冒険者に救われたことまで、全てを洗いざらい花に打ち明けた。


花は、ただ呆然と、時には目を見開いて息をのんだりしながら、あたしの話を聞き続けた。


まるで、目の前で語られる物語が、自分の身に起きていたことと繋がっているとは信じられない、といった様子で。


あたしが全てを話し終えると、花はポロポロと、大粒の涙を流し始めた。


その瞳からは、これまでの全ての秘密と重圧が溢れ出すようだった。

「ごめんなさい、お姉ちゃん……っ、心配かけたくなくて、言えなかったの……っ」


花は嗚咽を漏らしながら、自分が田中くんと一緒に異世界に行っていること、田中くんの認識阻害のこと、そして彼がどれほど孤独に戦ってきたのかを、震える声で語ってくれた。


魔物との戦闘の恐怖、一人で抱え込む重圧、そして田中くんを支えたいという一心で頑張ってきたこと。


あたしには、花が田中くんのことを、ただのクラスメイトとしてではなく、もっと特別な、守りたい存在として見ていることが、痛いほど伝わってきた。


「そうだったのか……花、一人でそんな大変なこと、抱えてたなんて……っ」


あたしは、涙を流す花の肩を抱きしめた。

こんな小さな子が、どれほどの不安と戦ってきたのだろう。


あたしの無神経な質問が、どれほど花を追い詰めていたのか。

胸が締め付けられるように痛んだ。

そして、あたしの中で一つの決意が固まった。


「よし、分かった。もう、あんた一人には任せておけねぇ。あたしも、あんたと一緒に行く!」


花は、突然のあたしの言葉に、驚きで目を見開いた。

その目にはまだ涙の膜が張っている。


「え……お姉ちゃんも、一緒に!?」

「ああ!あたしだって強くなったんだ!スキルも手に入れた。あんた一人に危ない真似させてらんねぇよ!今度はあたしが、あんたと、その田中くんの力になってやる!」


あたしの強い視線と、決意に満ちた言葉に、花は迷いの表情を浮かべた。


だが、やがてその迷いは消え、喜びと安堵の表情に変わっていく。

「うん……っ、分かった!一緒に行こう、お姉ちゃん!」


花は、満面の笑みであたしに抱きついてきた。


その日、あたしと花は家に帰り、夕飯を家族で済ませてから、異世界の装備に着替えてから花の部屋から転移した。


「田中くんと由希子ちゃんは、もう向こうのギルドにいるから、直接そこに行くね」と、花が転移の準備をしながらあたしに言った。


花がスキルを発動させると、あたしたちの体が淡い光に包まれた。


全身がぐっと引っ張られるような、不思議な感覚。視界が白く染まり、一瞬、無重力のようにフワリと体が浮遊する。


次に目を開けた時、あたしたちは見慣れない石造りの建物の中に立っていた。

どこかの宿屋の一室らしい。

その宿屋の向かい側に道を1本隔てて大きなギルドがあり、あたしと花は二人で入っていった。

高く組まれた梁と、重厚な石の壁。受付の向こうには、様々な冒険者らしき人々が行き交い、活気に満ちている。


ここは、あの始まりの街コレットのギルドとは明らかに違う。

もっと大きく、都市の主要拠点といった雰囲気だ。


「ここは、城塞都市ヴェサリウスのギルドだよ。あたしたちの活動拠点なの」

花が嬉しそうに教えてくれた。


ギルドのカウンターには、凛とした雰囲気の受付嬢が座っている。

そして、奥のテーブルには、目的の二人の姿があった。

一人は、何か本を読んでいる花と同い年くらい男性。

そしてその隣には、見覚えのある少女が座っていた。


「田中くん!由希子ちゃん!」


花が嬉しそうに駆け寄っていく。田中と呼ばれた男性はあたしを見て固まっている、由希子ちゃんは花を見て驚いた顔をしている。

「え、花ちゃん!?」


由希子ちゃんは花の幼な地味なのであたしも何度か花と話している。

彼女も異世界に来ていたなんて。


あたしは花に続いて、田中という男性と由希子のいるテーブルに近づいた。

田中の前に立つと、彼は座ったまますこし身を硬くしたように見えた。


「あの、初めまして。あたし、茜。花の姉です」


あたしが自己紹介すると、田中は慌てて立ち上がり頭を下げた。


「あ、あ、た……田中です。……花から、お姉さんのことは聞いていて……花さんとは仲良くさせていただいています」


「花が一人で危ないことしてるって聞いて、心配で。それに、あたしも異世界で戦う力を手に入れました。もしよかったら、あたしもパーティに入れてもらえませんか?」


あたしも頭を下げ、真剣な眼差しで田中と由希子を見つめた。


あたしの言葉を聞いて、花は一瞬、とても複雑な表情を浮かべた。

嬉しそうな顔と、どこか困ったような顔が入り混じっている。


きっと、あたしが一緒に戦えることは嬉しいけれど、今まで自分だけが田中くんの秘密を知っていて、二人だけの特別な時間を過ごしていたのに、それがどんどん他の人にも知られてしまうのは、ちょっと寂しいのかもしれない。



それに……まさか、あたしに田中くんを取られちゃうんじゃないかって心配してるのかな?


あたしには、そんな花の心の揺れ動きが手に取るように分かった。


「ちょっと、花。あたしと話があるから、こっち来い」

あたしは花の手を引いて、テーブルから少し離れた場所に移動した。



「あのさ、花。あたしは田中くんのことは妹の大切な人として見てるからな。変な心配しなくていいぞ」


あたしがそう言うと、花の顔がぽっと赤くなった。

「お、お姉ちゃん……っ」


「あんたが田中くんのこと好きなのは知ってるし、あたしはあんたの味方だからな。安心しろ」


花は恥ずかしそうに俯いたけれど、その表情は先ほどよりもずっと安心したように見えた。


「ありがとう、お姉ちゃん……」


あたしたちがテーブルに戻ると、田中くんは明らかに緊張した様子で、背筋をピンと伸ばして立ったまま固まっていた。



「あの、茜さん……えっと……」

田中が話しかけてきたけれど、途中で言葉に詰まってしまった。


普段の無表情とは違って、明らかに困惑している様子だ。


田中が慌てたようにペコリと頭を下げる。


その様子を見て、花がクスクスと笑い出した。

「田中くん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ〜」

「で、でも……」


田中は顔を少し赤らめながら、チラチラとあたしの方を見ている。


きっと、花の姉として、どう接したらいいのか分からなくて困ってるんだろう。


「田中くん、そんなに固くならなくてもいいぞ。あたしは花のお姫様気取りを止めてくれてありがたく思ってるくらいだからな」

あたしがそう言うと、田中はホッとしたような表情を見せた。


「それに、花がいつもお前のことを嬉しそうに話してるからな。あたしとしても、妹を大切にしてくれる人は歓迎だ」


「そ、そうですか……ありがとうございます」

田中は少しだけ笑顔を見せて、ようやく肩の力が抜けたようだった。


花は満面の笑みで頷いた。


「うん!もちろん!お姉ちゃんが一緒なら、もっともっと強くなれるよ!ね、田中くん!」

「え、あ、よ、よろ……よろしくお願いします」


田中くんは今度はしっかりとあたしの目を見て、丁寧にお辞儀をした。


こうして、あたしは花と田中くん、そして由希子のパーティに加わることになった。


異世界でのあたしの新たな冒険が、今、始まったばかりだ。


「あのコには、私がついてる。だから、アンタらは安心して読んでな」

どうも、花の姉の茜だ。

妹の恋愛事情は心配だけど、あいつは意外と芯が強いからな。それに、あの冴えない隣の席のアイツも、意外とやるもんだ。

もしこの物語が気に入ったら、下の【評価】や【ブックマーク】で、私たちが最強の家族だってことを証明してくれ。

あんたらも、あの子たちの応援団だろ?

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