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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第三章:広がる秘密の輪

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19話:暴君、丘を蹂躙す

「うっわ、ゴブリンとかスライムとか、金になんねーのばっかじゃねーか。もっと稼げるやつねーのかよ?」

あたしは掲示板を鼻で笑いながら、手頃な依頼を探していた。


すると、一枚の依頼書が目に留まる。


『緊急討伐依頼:カンバラの丘に出現する一角うさぎの討伐』

討伐対象:一角うさぎ 1匹

報酬:80レム


「お、一角うさぎ?80レム!?こいつは高額だな!」


あたしは依頼書を掴み取った。受付嬢が心配そうに声をかけてくる。


「お客様、一角うさぎは非常に凶暴な魔物です。角での突進は驚くほど速く、迂闊に近づけば命の危険が……」

「へっ、いいってことよ!稼げりゃなんでもいいんだ!」


あたしは得意げに笑い、ギルドを後にした。


街の外に出てカンバラの丘を目指す道中も、相変わらずスライムやゴブリンがちょろちょろと現れる。

「ったく、こんなんじゃレベル上げにもなんねーっての。それに金にもなんねぇしな!」


あたしは文句を言いながらも、剣を一閃するたびに魔物が吹き飛んでいく。

最早、あたしにとってただの邪魔者でしかなかった。


カンバラの丘に到着すると、そこは血生臭い匂いが漂う、殺伐とした場所だった。

そして、あたしは信じられない光景を目にした。


丘の窪地で、何かの肉を貪り食っている白い影。


それが、今回討伐対象の一角うさぎだった。

しかし、その食い散らかされている肉は、どう見てもゴブリンのものだった。


角の先端には、まだゴブリンの血と肉片がべっとりと付着している。


肉食……しかも、ゴブリンを喰うのか。

その恐ろしさに、あたしは一瞬、たじろいだ。


「……ゲテモノ食いかよ。マジかよ、このうさぎ……」


しかし、次の瞬間には、花の情報を得るための滞在費用を稼ぐという目的意識が恐怖を上回った。

「うさぎのくせに!このあたしが遊んでやるよ!」

あたしは果敢に一角うさぎに向かっていった。


「グルルルル!」

一角うさぎは、あたしに気づくと低い唸り声を上げ、その凶悪な角を突き出して突進してきた。

その速さは、想像を遥かに超えていた。

あたしの敏捷な動きをもってしても、回避は紙一重だ。


「やっべ、速えええ!」

ビュン、と風を切る音がして、あたしの頬を冷たいものが掠める。


致命傷は避けられたが、頬には鋭い痛みが走った。


「チッ!やるじゃねーか!」

あたしはすぐさま剣を振り上げるが、うさぎは素早く身を翻し、次の突進を繰り出す。


その動きは予測不能で、低レベルのあたしにとっては、まさに命がけの戦いだった。


角をかわしながら、なんとか剣を振るう。


しかし、一角うさぎの毛皮は見た目以上に頑丈で、木製の剣ではなかなか深い傷を負わせられない。


「硬ぇな!なら、怪力でぶっ潰してやる!」

あたしは「怪力」スキルを最大限に発動させ、渾身の一撃を叩き込んだ。


ドゴォッ!という鈍い音と共に、一角うさぎは怯んだ。

その隙を見逃さず、あたしは角を避けて、胴体に剣を突き刺した。

うさぎは甲高い悲鳴を上げて倒れた。

『経験値を獲得しました。レベルが上がりました。』

「はぁ、はぁ……ったく、強えええな、このクソうさぎ!」


あたしは全身から汗を吹き出しながらも、勝利に高揚していた。


これは、現実世界じゃ味わえねぇほどの充実感だった。


依頼を完了し、魔石を提示することで報酬を受け取る。

1匹100レムという高額な報酬は、新人冒険者にしては破格だった。

それに、魔石の売却価格80レムが加わる。1匹で180レムの報酬はなかなかだ。



依頼をこなすうちに、あたしは他の冒険者たちとも交流を深めていく。

「茜さんは強いですね。まだ始めたばかりなのに」

「まあ、運動は得意だからな。あとは、なんか体が勝手に動くんだよな」

あたしが一角うさぎを倒した話を、他の冒険者がたまたま聞いていた。


「人を探しているんだけどさあ。若い女の冒険者を知らないか?」

あたしは花の情報を聞いてみた。


「さあ、若い女の冒険者はそこら辺にいるんで、それだけじゃ分からないです」


確かに、花の服装もこの世界では変わってしまっているだろうし、顔の特徴もなんて言えば伝わるのかわからない。


ここにはいないようだし、他を探してみようと思った。


夜になると、あたしは街の宿屋『羊飼いの憩い』に泊まった。

一泊60レムの部屋は、簡素なベッドと、汚れた体を流すための小さな水場があるだけだったが、異世界での初めての夜としては十分快適だった。


「明日は、もっと強い魔物と戦ってみるか。花に会うには時間がかかりそうだし、金も必要だ」

あたしは翌日への期待と、妹への思いを胸に、眠りについた。


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