18話:姉、異世界デビュー!
「うげっ……頭痛え」
体を起こし、周囲を見回す。
見慣れない木々、異様な空気。
間違いなく、ここは現実世界じゃねぇ。
『転移者よ。初めての転移、歓迎する。ここは「始まりの森」。』
突然頭の中に響く声に、あたしは驚きもしなかった。
むしろ、状況を把握するのが早かったな。
「あー、なるほどね。異世界転移ってやつか。花のやつ、こんなところに来てたのか」
『これより、お前は異世界の理に従う。まず、初期装備を選択せよ。』
頭の中に浮かんだ半透明のウィンドウを見て、あたしは迷わず剣を選んだ。
「剣だ剣。こういう時は、シンプルが一番だろ」
ずっしりとした木の剣が手に現れ、動きやすい服装に身を包む。
着ていた服は消えてやがった。
「よし、まずは……」
その時、足元で緑色のゼリー状の物体がぷるぷると震えているのに気づいた。
「スライムか。ゲームで見たことあるな」
あたしは躊躇なく剣を振り下ろした。
プシュッという音と共にスライムが弾け飛ぶ。
『経験値を獲得しました。レベルが上がりました。』
「おっ、マジでゲームみたいだな」
あたしは面白がりながら、次々と現れるスライムを倒していく。
すると、ガサガサという音と共に、小さな緑色の人型生物が群れをなして現れた。
「ゴブリンか。こいつらも定番だな」
あたしは不敵に笑った。恐怖よりも、むしろ楽しかったね。
「へっ、こんな雑魚ども、この姉貴様が秒殺してやるよ!」
最初のゴブリンが襲いかかってくると、あたしは迷わず剣を振るった。
木の剣とはいえ、あたしの腕力と運動神経は並みじゃねぇ。ゴブリンは一撃で倒れた。
『経験値を獲得しました。』
『スキルを獲得しました:剣術習熟(微小)』
「よっしゃ!」
あたしは次々とゴブリンを蹴散らしていく。
もともと運動神経が良く、度胸もあるあたしにとって、ゴブリン程度の相手は怖くもなんともなかった。
一匹のゴブリンが棍棒を振り下ろしてくるが、あたしは軽やかにステップで回避する。
「遅ぇんだよ!」
反撃の剣が、ゴブリンの胴体を横一文字に薙ぎ払う。
『スキルを獲得しました:怪力(微小)』
「お、新しいスキルか。面白いじゃねーか」
あたしは戦いを重ねるごとに、自分の身体能力が向上していくのを実感していた。
スライムやゴブリンじゃ、もう相手にならねぇ。
次々と現れる魔物を片っ端から倒していくうちに、あたしのレベルは急速に上昇していく。
Lv.1 → Lv.3 → Lv.5
剣術習熟:微小 → 小
怪力:微小 → 小
森の奥からは、さらに強い魔物の咆哮が聞こえてくる。
しかし、あたしにとってそれは恐怖ではなく、むしろ挑戦への呼び声だった。
「もっと強いやつはいねーのかよ?」
その時、森の奥から巨大な影が現れた。
ゴブリンよりも一回り大きく、筋骨隆々とした体に鋭い牙を持つ魔物。
『オーク:高い攻撃力を有する。』
「おお、こいつは手応えありそうだな!」
あたしは興奮に目を輝かせた。
オークが巨大な斧を振り回して襲いかかってくるが、あたしは冷静に間合いを測る。
「でかい分、動きが読みやすいんだよ!」
オークの斧を紙一重で回避し、脇腹に剣を突き刺す。
しかし、オークの分厚い皮膚に阻まれ、思ったほどダメージを与えられねぇ。
「硬ぇな……だったら!」
あたしは「怪力」スキルを意識的に発動させる。
握る剣に、これまでとは比べ物にならない力が込められる。
「うおおおおお!」
渾身の一撃が、オークの首筋を深々と斬り裂いた。オークは断末魔の叫びを上げて倒れ込む。
『経験値を大量獲得しました。レベルが上がりました。』
『スキルを獲得しました:肉体強化』
「やったぜ!」
あたしは拳を振り上げて勝利を喜んだ。
戦闘の興奮と、レベルアップの快感。現実世界じゃ決して味わえねぇほどの充実感だったね。
数時間後、あたしは森を抜けていた。
「思ったより楽勝だったな」
レベルは8まで上がり、剣術スキルも向上している。
体力も十分残っていた。
森の出口から見えたのは、石造りの建物が立ち並ぶ中世風の街並みだった。
城壁に囲まれた街の入り口には、「始まりの街 コレット」と刻まれた看板が掲げられている。
「おー、本格的だな。映画のセットみたいだ」
あたしは興味深そうに街に入っていく。
石畳の道、木組みの家々、馬車が行き交う様子。
すべてが新鮮で、まるで中世にタイムスリップしたかのようだった。
街の人々は皆、あたしを普通の冒険者として扱っている。
異世界から来た転移者であることを疑う様子もねぇ。
「面白いところだな、ここは」
しかし、すぐに問題に直面した。
「腹減った……」
激しい戦闘の後で、空腹が襲ってくる。
だが、この世界の通貨を持っていない。
街の屋台から漂ってくる香ばしい匂いが、あたしの空腹感をさらに煽る。
「困ったな。どうすっかな……」
そんな時、ひときわ大きく賑わっている建物に「冒険者ギルド」という看板が掲げられているのを見つけた。
中からは、ガヤガヤと人々の話し声や酒を飲む音が聞こえてくる。
「冒険者ギルド?ゲームでよく聞くやつだな」
あたしは迷わず中に入った。
中は酒場のような雰囲気で、様々な装備を身につけた冒険者たちがテーブルを囲み、酒を飲み交わしたり、大声で笑い合ったりしている。
壁には巨大な地図や依頼書が貼られていた。
受付には、エプロン姿の若い女性が座っている。
あたしはカウンターに歩み寄り、声をかけた。
「あの、冒険者の登録をしたいんですが」
受付嬢は顔を上げ、あたしの姿を見て少し目を丸くしたが、すぐに営業用の笑顔を浮かべた。
「はい、承知いたしました。初めての方ですね。こちらの書類にご記入ください」
慣れた様子で、木の板に紙を挟んだ書類と羽根ペンを差し出す。
あたしは適当に記入しながら、ふと自分の体内の感覚に意識を集中した。すると、頭の中にぼんやりとだが、小さな空間が浮かんだことに気づいた。
「アイテムボックス?」
そこには、森で倒した魔物から得た魔石や素材がいくつか入っている。
スライムの魔石、ゴブリンの魔石、そしてオークの魔石まで。
「これ、売れるのかな?」
そう口にすると、受付嬢はにこやかに答えた。
「はい、もちろんでございます。魔石は魔術の触媒や武具の素材にもなりますので、冒険者ギルドで買い取らせていただいております。スライムの魔石が1個で1レム、ゴブリンの魔石が1個で1レム、オークの魔石が1個で40レムになります」
あたしは目を輝かせた。
「マジか!じゃあ、この魔石、全部売ってくれ!」
差し出したのは、スライムの魔石1個、ゴブリンの魔石が60個、それからオークの魔石が6個だった。受付嬢は再び少し驚いた様子を見せたが、すぐに冷静に計算を始めた。
「スライムの魔石が1個で1レム、ゴブリンの魔石が60個で60レム、オークの魔石が6個で240レムになります。合計で301レムですね」
カラン、と心地よい音を立てて、カウンターに大量のレム貨が並べられた。
「やった!これで食い物が買えるな!」
あたしは早速、ギルド内の食堂で異世界料理を注文した。
「何がおすすめですか?」
厨房から顔を出した髭面のコックが、豪快な声で答える。
「でしたら、こちらの『森の恵み定食』はいかがでしょう!この街の名物で、ボリュームも満点だぜ!」
運ばれてきた料理は、香ばしく焼き上げられた肉の塊に、色とりどりの野菜、そして見慣れない穀物で作られた、どっしりとしたパン。
皿には温かいスープも添えられている。
「うまいじゃん。肉も野菜も、なんか味が濃いな!パンも焼きたてか?」
異世界の食材は、現実世界のものとは明らかに違う濃厚な味わいがあった。
魔力を含んでいるからなのか、食べるだけで体力が回復していく感覚もある。
食事を終えると、あたしは冒険者として本格的に活動を始めた。
ギルドの依頼掲示板には、様々な任務が貼り出されている。




