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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第三章:広がる秘密の輪

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15話:ユキもまた、始まりの森へ

私は、花から「秘密」を聞き出すため、彼女を追いかけた。


最近の花は、まるで別人のようだった。

数学のテストで満点を取ったり、体育で驚くような身体能力を見せたり。


それは嬉しい変化だったけれど、同時に不安だった。


何よりも、田中くんの隣にいる時の花は、まるで周りの空気など存在しないかのように、彼と親密に話していた。


田中くんはクラスにいるのに、誰も彼を気にしない。


まるで透明人間みたい。


花だけが彼を見ている。

そこに、私にはわからない「何か」がある。親友として、それを知らずにはいられなかった。



放課後、花が田中くんと二人で屋上へ向かうのを見て、私は決意した。


今日こそ、全てを聞き出す、と。

私は二人の後をこっそり追いかけ、屋上へのドアの陰に身を潜めた。


人目につかず、何かをするにはここが一番都合が良かったのだろう。


二人は屋上の隠れた一角へと足を進め、何やら話し合っている。


私は息をひそめて、会話の内容を聞き取ろうとした。


その時、花と、そしてその隣の田中くんの体が、まるで水面が揺れるように歪み始めた。


信じられないような光景に、恐怖と好奇心がないまぜになり、私はその場に釘付けになった。


しかし、歪みは急速に広がり、私の隠れていたドアの陰までをも飲み込み始めた。


抗う間もなく、全身が、まるで強い光の中に吸い込まれるかのように、浮遊感に包まれ、視界が真っ白になった。



「え……?」


次の瞬間、私は全く知らない場所に立っていた。


薄暗い森。


高くそびえ立つ見たこともない木々。


地面は湿っていて、足元には奇妙な草が生い茂っている。


木々の隙間から真っ暗な空といくらかの星が見えた。


今は夜のようだ。


それでも、コケが光って周りが明るい。


遠くで、獣のような咆哮が聞こえた。


「いやああああああああああ!」


あまりの状況に、私は叫び声を上げた。


信じられない。


ここは、私が知っている世界じゃない。


まるで、ゲームか、ファンタジー小説の中だ。


その時、頭の中に直接響くような、無機質な声が聞こえた。


『転移者よ。初めての転移、歓迎する。ここは「始まりの森」。これより、お前は異世界のことわりに従う。まず、初期装備を選択せよ。』


頭の中に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。


剣、杖、弓、ナイフ……。

「っ……杖!」


考える間もなく、私は直感で杖を選んだ。


戦闘は苦手だが、これなら何か魔法が使えるかもしれない、という希望があったのだ。


ずっしりとした重みの木製の杖が右手に現れると同時に、私の体には動きやすいチュニックとズボンが身についていた。


制服は消えている。

その時、草むらから、ブルブルと震える緑色の透明な塊がヌルヌルと現れた。


「っ!?なに、これ……」


スライムだ!


ゲームで見たことがある、最弱の魔物。

しかし、本物のスライムは、ただのゼリーではなく、奇妙な臭いを放ち、蠢く姿は生理的な嫌悪感を催させた。


私は杖を構え、震える手でスライムを力任せに殴りつけた。プシュ、という音と共に、スライムは弾け飛び、緑色の液体が飛び散る。


『経験値を獲得しました。レベルが上がりました。』


『スキルを獲得しました:杖術習熟(微小)』


でも、安心したのも束の間だった。


草むらの奥から、ずるずると何十匹ものゴブリンが姿を現し、私を取り囲むように迫ってきた。


「ゴ、ゴブリン……っ!?」


足がすくむ。

こんな数、無理だ。

私はただの女子高生だ。

「グルオオオオ!」

一体のゴブリンが私に飛びかかってきた。


私は反射的に腕を上げて顔を庇う。


ゴブリンの爪が腕を深く切り裂き、血が流れ出た。

「痛い!痛いよお!」


私は痛みをこらえ、精一杯ゴブリンの頭を杖で叩いた。

「やあ!」


ゴブリンは倒れ込み、私のレベルが上がった。


それでも絶望的な状況だ。


このままでは死んでしまう。


その時、傷口から、淡い緑色の光が溢れ出した。


光は傷口を覆い、瞬く間に傷は塞がっていく。


「え……?」


私は自分の腕を見て、呆然とした。傷が、消えた?


『スキルを獲得しました:初期回復(微小)』


『スキルを獲得しました:回復魔法(覚醒)』

回復魔法……?


これは、助かるかもしれない。


私は震える体を奮い立たせ、回復魔法を使いながら、杖でゴブリンに応戦した。


一匹、また一匹と倒していく。


しかし、相手は無限に現れるように感じられた。


何度も杖を振り回し、何度も回復魔法を使う。



レベル1→5

杖術習熟:微小→小

新スキル獲得:危険感知(微小)

新スキル獲得:精神集中(小)


終わりが見えない戦い。


その時、他のゴブリンより一回り大きな個体が現れた。

ゴブリンチーフ?


半透明のウィンドウにそう記されていた。


「グルオオオオオオ!」


チーフの咆哮に、周囲のゴブリンたちが一斉に動きを止めた。


まるで、最後の試練を与えるかのように。


私はもう、回復魔法を使うのをやめて地面に倒れ込もうかとも思った。


でも、ここで倒れるわけにはいかない。

花を田中から助け出すんだ。


花がおかしくなったのは田中のせいに違いない。


あの弱そうな気持ち悪い男なんかに花を渡せない。


「負けない……!」


私は最後の力を振り絞り、回復魔法で傷を癒しながら、チーフに向かって杖を振り上げた。


ゴブリンチーフの攻撃はゴブリンよりもさらに痛かった。


深い傷を負っても、回復魔法で頑張って治した。


傷を治して、杖で頭を思いっきり叩きまくる。


切られても殴る。

ぶたれても殴る。

回復しながら、殴る。

とにかく殴った。


私にはそれしかできなかった。


私は延々とゴブリンチーフとやりあった。


ゴブリンも近くに来たら、殴る。


何でも殴った。


何百回、何千回殴ったのかわからない。


回復魔法が尽きても殴った。


レベルアップの度に少しは魔力が回復しているようだ。


激闘の末、チーフを倒した時、私のレベルは一気に10まで上がった。




そしたら、異世界転移のスキルを覚えた。


体力は限界を迎え、意識は何度も途切れそうになる。


地面に膝をつきそうになりながらも、私は必死に前へ進んだ。


そして、ふと視界の先に、ぼんやりと光が見えた。


街だ!


その光を目指して、残りの力を全て使い果たし、私はたどり着いた。


巨大な石造りの門。門番の姿も見える。

「はぁ、はぁ……」

門をくぐり抜けた瞬間、私の足はもう限界だった。

次の瞬間、私はガクンと膝から崩れ落ちた。

「由希子!何でここに!?」


花の叫びに、私は顔を上げた。

その隣には、あの田中が立っている。

いや……立つ彼の姿が、なぜか私には、これまでよりずっと鮮明に見えているような気がした。

まるで、半透明の膜が一枚剥がれたように、彼がそこに「いる」と、はっきりと感じられた。


……花。

こんな人と一緒にいたんだ。

この人なら……花が変わってしまった理由が少し理解できた気がした。


「鈴木さん、よく耐えたね!もう、大丈夫だ……」


田中が私の肩に手を置き、その奮闘を優しくねぎらった。

彼の声も、いつもよりずっと、はっきりと聞こえる気がする。


私は田中への認識が急速に変わって行くのを感じた。

私も……花のそばにいたい。

そんな気持ちが私の中を満たしていった。

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