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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第三章:広がる秘密の輪

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14話:親友ユキの違和感と、私の秘密

異世界での冒険が日常の一部になってから、私の生活は目覚ましい変化を遂げていた。


異世界での効率的な勉強のおかげで、私の成績はうなぎ上り。特に苦手だった数学のテストで満点を取り、教師陣を驚かせた。


体育の授業でも、走ればクラスで一番速く、球技では反射神経と跳躍力が格段に向上していた。


「花、最近、なんかすごいね!数学も体育も、別人みたいじゃん!」


親友の由希子が、私の横で目を輝かせながら言った。

由希子とは幼稚園からの付き合いで、私の変化にいち早く気づいている一人だ。

もちろん、クラスの他の子たちも驚いてはいるけれど、由希子の視線はより鋭く、まるで私の中に何か「秘密」が隠されていることを見透かしているようだった。


「えへへ、そうかな?なんか、急にやる気出ちゃってさ!」


私は曖昧に笑ってごまかす。由希子には何でも話してきたけれど、田中くんとの異世界での秘密だけは、どうしても言えなかった。

これは私と田中くんだけの、特別な「秘密」なのだ。それを誰かに共有することは、この尊い関係を侵してしまうような気がして、踏み出せないでいた。


ある日の昼休み、私は田中くんと次の異世界での作戦について、誰もいない階段の踊り場でこっそり話し合っていた。


田中くんはいつものように、クラスに存在はするものの、ほとんど誰からも意識されず、まるで空気のように振る舞いながら、淡々と戦略を語る。


私が彼の言葉に頷き、身振り手振りを交えて答えていると、不意に由希子の声が聞こえた。


「花、何してるの?」


振り向くと、由希子が階段の下から私たちを見ていた。

彼女の視線は、私と、私の隣に立つ田中くんを交互に見ていた。

ドキリと心臓が跳ねる。由希子は田中くんをクラスメイトとして認識しているはずだ。

だが、なぜ花が、普段誰も気にしない田中くんと、こんなにも親密に話しているのか理解できない、という困惑がその顔にはありありと浮かんでいた。


「あ、由希子!な、何でもないよ!ちょっと考え事してただけ!」


私は慌てて田中くんから距離を取り、不自然なくらい明るい声を出した。

田中くんは何も言わず、ただ静かに私を見ていた。彼の目は、まるで私が慌てている理由を理解しているようだった。


由希子は怪訝な顔で私を見つめた。


「ふーん。なんか最近、花、変わったよね。前より元気になったのは嬉しいけど、時々、変なことしてるし……」


由希子の言葉は、私の胸に重く響いた。

彼女は私の変化を喜んでくれている一方で、その変化の裏に何かがあることにも気づき始めている。

私が田中くんと話している時の不自然な動きや、時折見せる遠い目。

由希子は、それらすべてを見逃していなかった。


その日の放課後、由希子は部活の練習中もずっと私のことを見ていた。

私がバスケットボールで驚くほどの速さでコートを駆け上がった時、由希子は一瞬目を丸くしたが、すぐにその視線は複雑なものに変わった。


「ねえ、花。私に何か隠してること、ない?」


帰り道、二人きりになったところで、由希子が立ち止まって私に尋ねた。

まっすぐな、それでいて少しだけ傷ついたような彼女の瞳に、私は言葉を詰まらせた。

親友に嘘をついていることに、胸が締め付けられる。でも、田中くんとの秘密を、どう説明すればいいのだろう?


「な、なんのことかな?由希子、気のせいだよ!」


精一杯の笑顔で誤魔化そうとしたけれど、由希子の表情は晴れない。


「気のせいじゃない。花、私、幼稚園の頃からずっと一緒だよ。花の考えてること、大体わかるんだから。…何があったのか、私には言えないこと?」


由希子の言葉に、私の心は揺れ動いた。

信頼している親友に、これ以上秘密を抱え続けるのは辛い。

けれど、もし由希子にこの秘密を話したら、彼女を危険に巻き込んでしまうかもしれない。

田中くんの存在希薄化のこと、異世界のこと、魔物との戦いのこと……。


私は由希子の目をまっすぐ見ることができなかった。


彼女の問いに答えることも、ごまかし続けることもできず、ただ俯いた。


由希子はそんな私をじっと見つめた後、小さくため息をついた。


「そっか。……まあ、言えないなら仕方ないけど。でも、私、心配だよ。花が何か危ないことに巻き込まれてるんじゃないかって。だからね……」


由希子は、私の手を取って、強く握りしめた。その手は、いつもよりも熱かった。


「私、絶対、花から何があったのか聞き出すから。そして、もし花が困ってるなら、どんなことでも力になるからね!」


由希子の真剣な眼差しに、私の心臓は大きく脈打った。

彼女の瞳には、ただの好奇心ではない、親友を案じる深い愛情と、そして何かを「解き明かす」という強い決意が宿っていた。

私の秘密は、もう、私と田中くんだけのものとして隠し通せるものではなくなってきたのかもしれない。


その夜、ベッドに入った私は、昼間の由希子との会話を反芻していた。


答えの見えない問いに悩みながら、私は深い眠りに落ちていった。


私は夢を見ていた。


それは、遥か昔の、遠い日の記憶だった。


幼い頃の私が、白い着物を着た大人たちに手を引かれ、神社の石段を上っている。

賑やかな祭りの日だったのか、境内には多くの人が行き交い、楽しそうな声が響いていた。


ふと、私は大人たちの手を離れ、誰もいない社の裏手へと迷い込んだ。

そこには、古びた鳥居がひっそりと立っていて、その奥には、見たこともないような奇妙な光が蠢いていた。


好奇心に駆られた幼い私は、その光に吸い寄せられるように一歩足を踏み入れた。


次の瞬間、全身を襲うような浮遊感と、頭の中が真っ白になるような眩しい光。


気がつくと、私は見知らぬ森の中にいた。


巨大な木々、聞いたことのない鳥の鳴き声。


辺りは薄暗く、ひんやりとした空気に獣の匂いが混じっていた。


あまりのことに、幼い私はただただ恐怖し、その場で大声で泣き出した。


『転移者よ。初めての転移、歓迎する。ここは「始まりの森」。』


頭の中に、大人びた声が響いた。


しかし、私はただ泣き続けるばかりで、その声の意味を理解することもできなかった。


恐怖と混乱の中で、時間がどれだけ過ぎたかも分からない。ただひたすら泣き続ける私を、何者かがじっと見つめている気配を感じたが、それが何かを確認する余裕もなかった。


そして、再び眩い光に包まれ、私は元の神社の裏手に立っていた。


まるで何もなかったかのように、周囲には祭りの賑やかな音が戻っていた。


私は泣き止むことなく、駆け寄ってきた母の腕に飛びついた。


母は、私が迷子になったのだと思い、ひどく心配していたが、私がどこに行っていたのかは、聞かれることもなかった。


夢の中で、幼い私は激しく泣き、そして、誰にも気づかれずに元の世界に戻っていた。


チュートリアルなど、何も始まっていなかった。


スキル獲得:「真実の眼」……


そんな表示が現れたかと思うと、たちまちそのウィンドウは消えてった。


ハッと目が覚める。私の額には、うっすらと汗がにじんでいた。


夢の中の光景が、まるで昨日のことのように鮮明に思い出された。

私……、異世界に行ったことあったんだ……。  


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