11話:Lv.10への道と、異世界での私たちの日常
「僕がサポートしますから。」
田中くんの言葉に、私は力強く頷いた。
その夜、宿屋の簡素なベッドで、私は静かに目を閉じた。
体は疲れていたけれど、心は充実感と新たな目標への希望に満ちていた。
田中くんと一緒に、私はこの異世界で、もっと強くなれる。
翌朝、私たちは宿屋の食堂で朝食を済ませた後、再びギルドへと向かった。
昨日の経験から、私がLv.10に到達するには、積極的に魔物を倒し、経験値を稼ぐ必要があると痛感していた。
「今日の目標は、そうですね……ゴブリンを15体くらい討伐しつつ、少し奥のエリアでオークを数体倒してみましょうか。佐藤さんのレベルなら、挑戦する価値はあります。」
田中くんが選んだのは、昨日のゴブリン討伐に加えて、さらに難易度の高いエリアでの依頼だった。
オークという名前に少し緊張したが、私は「はい!」と元気よく返事をした。
町を出て、私たちは「はじまりの森」とは異なる、より深い森へと足を踏み入れた。
ギルドの依頼書には「タカサキの森」と記されていた。鬱蒼と茂る木々、湿った土の匂い、そして遠くから聞こえる獣の鳴き声が、ここが「はじまりの森」とは違う場所であることを教えてくれる。
早速、ゴブリンの群れに遭遇した。
彼らは昨日と同じように棍棒や錆びた剣を手にしている。
「佐藤さん、僕が動きを止めて武器を奪います。その隙に、できるだけ多く倒してください。」
田中くんは素早く一体のゴブリンの懐に飛び込み、その棍棒を蹴り飛ばした。
武器を失い、怯んだゴブリンが私の方へよろめいてくる。
私は(昨日から使っている)剣を握りしめ、躊躇なくそのゴブリンに斬りかかった。
「はぁっ!」
一撃、また一撃と剣を振るう。
ゴブリンの動きは昨日よりも速く感じられたが、私は必死に食らいついた。田中くんは次々とゴブリンの武器を奪い、私の方へと誘導してくれる。
私は、田中くんの足を引っ張らないよう、ただ一心不乱に剣を振るい続けた。
数体のゴブリンを倒したところで、体に熱がこもるような感覚があった。
「佐藤さん、今の戦闘でレベルが上がったようですね。」
田中くんが教えてくれた。確認すると、私のレベルは『5』になっていた。
わずかな時間で2も上がったことに驚きつつも、私は田中くんのレベルにはまだまだ遠いことを思い出す。
「まだまだだね……もっと頑張らなきゃ。」
「焦る必要はありませんよ。佐藤さんのペースで大丈夫です。ただ、効率は意識しましょう。」
田中くんは優しく声をかけてくれた。
私たちはその後も、慎重に、そして効率的にゴブリンを狩り続けた。
時には不意打ちを受けそうになることもあったが、そのたびに田中くんが的確なサポートを入れてくれる。
彼の動きは洗練されていて、まるで熟練の冒険者のようだった。
私は彼から、敵の動きの予測や、効率的な剣の使い方など、多くのことを学んだ。
ゴブリンの討伐数を達成し、さらに森の奥へと進むと、空気が一変した。
木々が鬱蒼と茂り、薄暗い。
そして、獣じみた独特の臭いが鼻を突いた。
「佐藤さん、気を引き締めてください。この先はオークの縄張りです。」
田中くんの声が、いつもより低い。
その直後、低い唸り声と共に、巨体が木々の間から姿を現した。
それは、人間の倍近い体躯を持つ、緑色の肌の魔物――オークだった。
手に持つ巨大な棍棒は、まるで丸太のようだ。
「う、うわぁ……!」
私は思わず後ずさった。
ゴブリンとは比べ物にならない威圧感に、足がすくむ。
「僕が注意を引きます。佐藤さんは、その隙に側面から攻撃を。オークは動きが鈍いですが、一撃が重いです。当たらないように注意してください。」
田中くんは冷静に指示を出すと、オークの注意を引きつけるように動き出した。
オークの棍棒が唸りを上げて地面を叩きつけ、地響きがする。
その隙に、私はオークの側面へと回り込んだ。
剣で、その分厚い皮膚に斬りつける。
しかし、ゴブリンのように簡単に傷はつかない。
剣が滑り、わずかな傷しか与えられない。
「くっ……固い!」
「オークの皮膚は硬いです。狙うなら、関節の隙間や、急所を!」
田中くんの声が飛ぶ。
私は必死にオークの動きを見極め、田中くんがオークの腕を捉えた隙に、その脇腹へと剣を突き立てた。ようやく、少し深めの傷を与えることができた。
オークは怒りの咆哮を上げ、私に狙いを定める。
だが、その一瞬早く、田中くんがオークの足を狙って攻撃を仕掛けた。
オークの体勢が崩れる。
私はその隙を逃さず、再び剣を振るった。
苦戦を強いられながらも、田中くんとの連携で、なんと5体のオークを倒すことができた。
オークの巨体が倒れ、地面が揺れる。
その瞬間、私の体には、ゴブリンを倒した時とは比べ物にならないほどの熱が満ちた。
「佐藤さん、やりましたね!レベルが上がったはずです!」
田中くんの言葉に、私はステータスを確認した。
私のレベルは『9』まで上がっていた。オーク5体で、こんなにも経験値がもらえるなんて!
「すごい……!オークってこんなに経験値がもらえるんだ!」
「はい。その分、危険も伴いますが。今日はもう1体くらいにしておきましょうか。」
田中くんはそう言って、周囲を警戒した。
私たちはその後、もう1体のオークを協力して倒し、ついにレベルが『10』に到達した。
その瞬間、私の頭の中に、新たな情報が流れ込んできた。
『スキル【異世界転移】を習得しました。』
「あ……!田中くん!私、レベル10になった!そして、『異世界転移』のスキルを習得したよ!」
私は興奮して田中くんに報告した。
「おめでとうございます、佐藤さん。これで、いつでも日本に帰れるようになりますね。」
田中くんは心から嬉しそうに微笑んだ。
宿屋に戻り、ギルドで素材を換金すると、オークの魔石の買取価格の高さに驚いた。
「すごい!こんなにたくさん!」
私は思わず声を上げた。ギルドの受付嬢はニコニコしながら、私が差し出したオークの魔石6個を鑑定し、合計で240レムを渡してくれた。
そして、依頼達成の報酬30レム。
手元に残った合計は274レムになった。これは、一泊60レムの宿代の約4日分に相当する。
「やったね、田中くん!これでしばらくは安心だね!」
私が喜んで見せると、田中くんも嬉しそうに頷いた。
この世界での生活が、少しずつ現実味を帯びてきている。
夜、自分の部屋でベッドに横たわりながら、私は今日の出来事を振り返った。
田中くんのサポートがあったとはいえ、自分の力で多くの魔物を倒し、そしてオークという強敵を打ち破り、目標のレベル10に到達できたこと。
そして、ついに「異世界転移」のスキルを習得できたこと。
宿代を心配せずに済むだけのレムを稼げたこと。少しずつではあるけれど、私は確実に前に進んでいる。
田中くんが教えてくれた「レベル10で異世界転移スキル習得」という目標が、私を突き動かす原動力になっていた。彼に追いつきたい。彼に頼りっぱなしの自分を変えたい。
(これで、田中くんと一緒に日本に帰れる……!)
私は決意を新たに、静かに目を閉じた。
明日は、まず田中くんに日本に帰る相談をしてみよう。




