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(完結)『隣の席の田中くんが異世界最強勇者だった件』  作者: 雲と空
第二章:運命の扉と私たちだけの世界
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10話:私たちの秘密のバッグと、二人きりの約束

田中くんの目から涙が滲むのを見た時、私の胸は温かさと、そして決意で満たされた。

私は彼の隣で、その手をしっかりと握り続けた。

私たちは、見知らぬ異世界の町の片隅に立っていた。


「田中くん。私、田中くんの『ぼっち勇者』、もう一人じゃないよ。私が、田中くんをちゃんと見てるから。全部、一緒に乗り越えよう。」


私の言葉に、田中くんは何も言わずに、ただ私の手を見つめていた。

その目に、涙が滲んでいるように見えた。


「……はい。」


田中くんが静かに頷いた。彼の表情には、まだ不安の色が残っていたが、私の存在が彼にとってわずかながらでも支えになっていることを感じた。


「とりあえず、佐藤さん。お金もありませんし、まずはギルドへ行きましょう。昨日倒した魔物の素材を売れば、いくらかお金になるはずです。それから宿屋を探しましょう。」


田中くんの言葉に、私は頷いた。

彼の後に続き、私たちは町の中を進み始めた。ギルドへと向かう途中、ふと、自分の手のひらに、見えないポケットがあるかのような、奇妙な感覚が訪れた。


「ねぇ、田中くん。私、なんだか変な感じがするんだけど……」


私が尋ねると、田中くんは少し目を見開いた。


「もしかして、佐藤さん、アイテムボックスのことですか?」


「アイテムボックス?」


私が首を傾げると、田中くんは頷いた。


「はい。この世界で活動する多くの人が持つ、空間収納のスキルです。心の中で念じれば、アイテムの出し入れが自由にできますし、収納したアイテムは重さを感じません。おそらく佐藤さんも、転移した時に習得していたはずです。」


言われるがまま、私は心の中で「アイテムボックス」と念じてみた。

すると、私の意識の中に、半透明のリストが現れた。


『アイテムボックス』


制服×1


スライムの魔石×1


ゴブリンの魔石×63


「うわぁ!本当に!制服が入ってる!それに、私が倒した魔石もちゃんと!」


私は興奮気味に田中くんに伝えた。まさか、自分の持ち物だけでなく、倒した魔物の素材まで自動的に収納されていたなんて。


「これで、荷物の心配はいりませんね。大きな魔物の素材も、アイテムボックスがあれば運び放題です。」


田中くんは、どこか嬉しそうに言った。アイテムボックスの存在に、私は冒険への期待をさらに高めた。これで、田中くんに頼りっぱなしにならずに、自分でもちゃんと貢献できる。


私たちはギルドへと到着した。

目の前には、石造りの立派な建物があり、「冒険者ギルド」と書かれた看板が見える。


「ここがギルドだ!」


私が思わず声を上げると、田中くんは微笑んだ。


「はい。ここで依頼を受けて、レベルを上げていかないと。」


私は、自分がアイテムボックスから取り出したスライムの魔石1個とゴブリンの魔石63個をギルドの受付の女性に差し出した。

女性はそれらを淡々と鑑定し、合計で64レムを渡してくれた。


「やった!これが異世界での初収入だね!」


私が喜ぶと、田中くんは小さく頷いた。


「これで、佐藤さんの部屋代、なんとか一泊分は賄えますね。」


その言葉に、私は驚いた。これだけ稼いで、宿屋一泊分を少し上回る程度だなんて。

この世界は、思っていたよりもずっと厳しい場所なのだと実感した。

田中くんの顔を見ると、彼は困ったように笑っていた。

きっと、彼も最初は同じように驚いたのだろう。


ギルドの近くにある宿屋で、田中くんは自分の部屋代と、私の部屋代を支払い、私たちはそれぞれ部屋を借りた。

私の部屋は簡素なベッドと、汚れた体を流すための小さな水場があるだけだった。


「佐藤さん、もし何かあったらすぐに声をかけてください。僕の部屋は隣ですから。」


田中くんはそう言って、私の部屋の扉を閉めてくれた。私は、安堵とともに、少しの気恥ずかしさを感じた。


「とりあえず、シャワーを浴びて、少し休みましょ」


私は自分に言い聞かせ、田中くんが差し出してくれたタオルを手に取った。

部屋の小さな水場で、温かい水で汗を流す。

アイテムボックスから取り出した制服に着替えると、清潔になった体でベッドに横たわった。

一日の疲れと、異世界での激動が、一気に押し寄せ、私はすぐに深い眠りに落ちた。


私が目を覚ますと、部屋の外から美味しそうな匂いが漂ってきた。

扉を開けて廊下に出ると、田中くんが宿屋の食堂に簡単な食事を用意してくれていた。


「佐藤さん、起きましたか?まだ何も食べていないでしょうから、どうぞ。」


「ありがとう、田中くん!」


私は田中くんの優しさに胸が熱くなった。

温かいスープとパンを口にすると、空っぽだった胃が満たされ、体中に力が湧いてくるようだった。


翌日。


「今日の依頼は、森のキノコ採取と、ゴブリンの討伐ですね。」


田中くんがギルドで受けた依頼内容を読み上げる。

私は「よしっ!」と気合を入れた。

スライムを倒し、ゴブリンと戦ったことで、私のレベルはすでに『3』に上がっていた。

しかし、田中くんのレベルには遠く及ばない。


私たちは森へと向かった。現れたゴブリンは、私たちが「はじまりの森」で倒したゴブリンとは明らかに違った。

彼らは粗末な棍棒や、錆びたショートソードを手に持っており、その動きもどこか手慣れているように見える。


「佐藤さん、気をつけてください!ここのゴブリンは武器を持っています。僕が武器を持つ手を狙いますから、その隙に!」


田中くんはそう指示すると、素早い動きでゴブリンの一体の棍棒を持つ腕を狙い、その武器を叩き落とした。武器を失い、怯んだゴブリンが私の方へ向かってくる。


私はショートナイフを手に、必死にゴブリンを攻撃した。

相手の動きは速く、慣れない戦闘に戸惑いながらも、田中くんが作ってくれたチャンスを無駄にしないよう、必死にナイフを振るう。


ゴブリンを倒し、経験値を得ると、私はあることに気づいた。

田中くんがとどめを刺したゴブリンからは、私に経験値が入らないのだ。


「……ねぇ、田中くん。もしかして、パーティを組んでいても、敵を倒した本人にしか経験値って入らないの?」


私の問いに、田中くんは頷いた。


「はい。残念ながら、この世界のシステムはそうなっています。だから、佐藤さんが強くなるには、佐藤さん自身が敵を倒す必要があります。」


その言葉は、私に重く響いた。

田中くんは私を気遣って、獲物を譲ってくれていたのだ。

これでは、いつまで経っても彼に追いつけない。

いや、むしろ足を引っ張ってしまうかもしれない。


「そっか……。うん、わかった。私、頑張るから。」


私はギュッと拳を握りしめた。田中くんの足を引っ張らないように、早く彼の隣に立てるように。もっと強くなりたい。


私たちはその後も、田中くんの指示に従ってキノコを探し、現れたゴブリンたちを協力して撃退した。


私はできるだけ自分でとどめを刺すように意識し、効率的に経験値を稼いでいった。


倒したゴブリンから得られる魔石は、はじまりの森のゴブリンのものより一回り大きく、質が良いように感じられた。


一日の終わりに、ギルドへ報告を終え、宿屋に戻った私たち。

疲労はあったが、今日の成果と、明確になった目標に満たされた気持ちだった。


私がベッドに腰を下ろした時、ふと疑問が湧いた。


「ねぇ、田中くん。田中くんは自分でゲートを出せるからいつでも日本に帰って来れるって言ってたけど……私、いつになったら日本に帰れるの?このままずっと、田中くんについていくだけなの?」


田中くんは私の問いに、ゆっくりと顔を上げた。


「安心してください、佐藤さん。ずっとここにいる必要はありません。僕も、最初はどうすれば帰れるのか分からなくて不安でしたから。」


彼の言葉に、私は少しだけ胸をなでおろした。


「この世界のシステムに尋ねて分かったんですが……レベルが10になると、『異世界転移』というスキルを習得できるらしいんです。それを使えば、自分の意思で元の世界へ帰れるようになります。」


「レベル10で!?」


私の目が輝いた。


「はい。一度習得すれば、僕と同じようにいつでもオンオフして行き来できるようになります。」


「そっか……じゃあ、私も早くレベル10にならなきゃだね!」


私はギュッと拳を握りしめた。日本に帰れる方法がある、それだけで大きな希望になった。

田中くんの隣で、私も強くなりたい。

そして、いつか彼と同じように、自分の力で異世界を行き来できるようになりたい。


「うん。僕がサポートしますから。」


田中くんが静かにそう言ってくれた。私は、彼の言葉に力強く頷いた。


その夜、宿屋の簡素なベッドで、私は静かに目を閉じた。体は疲れていたけれど、心は充実感と新たな目標への希望に満ちていた。田中くんと一緒に、私はこの異世界で、もっと強くなれる。


孤独な俺は、異世界で最強になった。

でも、その強さは、現実世界では誰にも言えない秘密だ。

しかし、花がその秘密を知ってくれた。俺の孤独は、もう終わりなのかもしれない。

この物語が、あなたにとって、孤独を乗り越える勇気になったなら、ぜひ【評価】で教えてください。

あなたの声が、俺と花の未来を創る一票になります。

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