第七章:祝勝会なのに全員やらかす
「というわけで――勇者カイ様ご一行、魔王城からのご帰還でーす!」
ミナトの軽快なアナウンスがアーリス村の広場に響く。
祭りのようなにぎわい。提灯が揺れ、屋台が並び、村人たちが手拍子を打つ。
中央には、なぜか大々的に装飾された井戸。
そしてその後ろには「魔王退職記念! 勇者パーティ祝勝会 IN アーリス」の巨大な横断幕。
「……主催、魔王じゃね?」
「うん。魔王、自分で会場準備してた」
「勇者より働いてない!? この人!?」
どうやら今回の祝勝会、魔王が自費で全面プロデュース。
村への貢献として最後の社会奉仕を行っているらしい。退職後は“パン職人”として第二の人生を始めるとかで、さっそく出店もしていた。
「やあ、君たち。本当にありがとう。ここまで来られたのは、君たちのおかげだ」
黒曜石の城で最終決戦するはずの魔王が、今、紙の三角帽子をかぶってビールを振る舞っている。
(どこからツッコめばいいのか、カイはもう分からなかった)
村の広場ではパーティメンバーたちもいつもの調子で大暴れしていた。
リリィはヨーヨー釣りの屋台で「全部引きちぎったら勝ち」と独自ルールを導入し、出店が崩壊。
「えへへ、全部とったよ! 賞品は?」
「まず謝れよォ!!!」
ノエルは屋台を出していた。「神託金魚すくい」と書かれた看板のもと、金魚の代わりに黒い影が浮かぶ水槽をのぞかせ、通行人を次々泣かせていた。
「この魚……俺に“余命3年”って言ったぞ……」
「神様がそうおっしゃってました♡」
ゴードンは射的で屋台の骨組みを全部撃ち抜き、魔王に真顔で「それは本当にやめて」と注意された。
「……すまん。筋肉が反応した」
「筋肉に罪をなすりつけるなよ」
夜が更けて、焚き火が灯り、いよいよ表彰式が始まった。
司会は村長(※かつて自宅を爆破された人)が務める。
「このたび、勇者カイ殿の偉業をたたえ――」
「ドカーーーン!!」
突如、火花とともに巨大な魔法花火が夜空を彩った。しかも3連発。
ステージ横に立っていたリリィが、満面の笑みで叫ぶ。
「打ち上げ成功~!!」
「このタイミングで打つなぁぁぁ!!!」
カイの感動スピーチは消し炭になった。
さらにゴードンがマイクを取り、無表情で言い放つ。
「筋肉に、感謝を」
「なにその短いスピーチ!?」
――だが、本当の地獄はここからだった。
祝勝会も佳境に入り、踊りが始まったころ。
広場の中央――例の井戸が、不気味に泡を立ててグラグラと震え始めた。
「……来るぞ」
誰より先に察したのは、ゴードンだった。
ズルゥ……ポチャン……ズズズ……
井戸から、半透明の白い影がにゅるんと姿を現した。
ドレスにティアラ、妙に艶っぽい目元――
「やあ♡ ゴードンくん♡ 今日も素敵な汗、流してるね♡」
「……またか」
ゴードンは無表情で焼き鳥をかじる。
「今日こそ正式に交際してもらうんだから♡ 愛の印、ここに押してくれるよね?」
井戸霊がハンコと婚姻届らしき巻物を差し出す。
「鍛え直してから出直せ。まずは懸垂30回だ」
「えええ♡ ハード系♡ でも好き♡」
「おい、なんでこれを村人が誰も止めないんだよ!!!」
カイが叫ぶが、村人たちは**「ああ、また来たのか」**という顔でそっと遠巻きにしていた。
どうやら村でも有名になっていたようだ。
ノエルが神託を確認する。
「神様曰く、あの井戸とは“数世に渡る因縁”があるそうです」
「まじでやめてくれ……」
ゴードンは溜息をつくと、ドレス井戸に近づき、がっしと肩をつかむ。
「3秒で帰れ。じゃなきゃ筋トレ相手にするぞ」
「キャーー♡」
悲鳴をあげて井戸に引っ込んでいった。
翌朝。
広場は寝袋で寝転ぶ勇者たちと、泥酔した村人と、なぜかステージの上で倒れていた魔王でぐちゃぐちゃだった。
「……俺たち、ほんとに世界を救ったんだよな……?」
「うん。でもたぶん、世界から平和が離れていってるのは私たちのせいだよ」
ミナトの妙に冷静な言葉に、カイはうつ伏せになって動かなくなった。
「……お前らに何も教えたくないけど……」
「けど?」
「来週、勇者学校で“特別講師”やることになったらしい……」
「えっ、俺らが!? 教える側!?」
「地獄の始まりだよ」
これにて終わりです。最後まで読んでくれてありがとうございます。
ネタができたら続きを書くかもしれません。その時はまたよろしくお願いいたします。
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