表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

第一章:伝説の魔王を倒す旅に出た(はずだった)

 王国歴1027年、黒き魔王が大地に蘇り、世界に再び闇が広がろうとしていた。

 焦る王国、騒ぐ民衆、沈む経済。

 そして、選ばれし者たちが集められた──伝説の勇者パーティである。


 その中心に立つのは、若き勇者カイ。

 聖剣と共に神殿に導かれし、真面目で責任感が強い……が、何より苦労性だった。


「さあ、ついに魔王討伐の旅が始まる!」


 カイが高々と剣を掲げ、王都の門前で声高らかに叫んだその瞬間――

 仲間たちは、文字通りバラバラに四方八方へ散っていった。


「おいィィィィィ!!!」


 出発の儀式開始から5秒で、出発が中止になるという前代未聞の事態に、王都の門番もあんぐりしている。


「……こっちが北だって言ってるだろ、ゴードン! そっちは井戸!」


「喉が渇いてただけだが?」


「飲んで落ちんなやァアア!!」


 見ると、戦士ゴードンが井戸の縁に逆さまで突っ込んでいた。豪快に落ちたらしい。

 鎧が重すぎて抜けず、カイがロープで引き上げている間、後方ではまた何かが起こっていた。


「ちょっと! 地図がないんだけど!? あれ、どこ置いたっけ!?」

 地図係、魔法使いのリリィが、馬車をひっくり返しながら叫んでいる。


「は!? 朝一で持ってたろ!? というか、さっきお前のローブのポケットに……」


「それ、鳥に食べられた」

「鳥に……!? いや、どういう種類の鳥だよ!?」


「赤くて丸くて火を吹いてた」

「それ火の精霊だよォオオ!! なに悠長に餌付けしてんだよ!!」


 リリィは火の玉に「スイートボール」とかいう謎の菓子を与えていたらしい。精霊喜んで飛んでいったらしい。ついでに地図も持っていったらしい。


「うん……いいや、方向感覚で行こう!」

「だめだ! なんでよりによってお前が一番の方向音痴なんだよ!!」


 仕方なく、カイは予備の地図を取り出したが、その瞬間、ガシャーンという金属音が鳴った。


「へぶっ!! いてて……なんでそこに落とし穴!?」


 盗賊ミナトが、なぜか自分で踏み抜いて落とし穴にハマっていた。

 しかも深い。半分埋まってる。


「罠チェックしてるんじゃなかったのかよ!!」


「うん。でもこの罠、すっごい出来がいいんだよ。ほら、この角度と支柱の位置、芸術だよこれ!」

「褒めんなよ!? 引っかかったお前が言うなよ!?!?」


 盗賊なのに敵の罠に感動する神経がよくわからない。

 とりあえず引きずり出して、手でパンパンと砂を払う。すると今度は後方から、のんびりと手を振る姿が見えた。


「カイさーん、神様が今日の旅立ちは控えろって言ってます~」


 僧侶ノエルだった。

 光の神に仕えるこの少女は、奇跡の力を授かっているが、どうもその奇跡の方向が怪しい。


「……なに? 旅立つな?」


「はい。あと、さっきゴードンさんが落ちた井戸、呪われてるって言ってました」


「遅いわ!!」


「しかも、井戸の主がゴードンさんを気に入ったらしくて、『また来てね♡』って……」


「井戸にフラグ立てんなァアア!!」


 ゴードン本人は、井戸水をすすりながら「悪くなかった」とか言ってる。怖い。

 ノエルは何やら神託のメモを取りながら、魔除けの鈴を振っているが、効果があるかは謎だ。


 なんだこのパーティ。


 誰一人としてまともにスタートラインに立てていない。

 カイは思わず剣の柄に額を押し当て、深く深くため息をついた。


「……本当にこのメンバーで魔王を倒せるのか……?」


「だいじょーぶだって! なんとかなるって!」

 リリィが元気よく笑いながら、軽く手を振る。その手の先には、魔力の光が輝いていた。


「ちょ、お前その手何して……」


 ズドォォォォン!!!


 火球が暴発し、地面が派手にえぐれた。空中に土煙が舞い、カイの頭にモフッと灰が降りかかる。


「まず自爆やめてくれえぇぇぇえ!!」


 そして勇者たちの旅は、門の前で一歩も進まないまま、一日目を終えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ