第5話 もしかして、出られる要素しかない?
「……改めて見ると、異様な光景だな」
今俺は大量のモンスターが大移動する様を見ながら隔氷狼のふさふさした毛並み(と、後からずいっと懐に潜り込んできたヘル)を撫で、ついでと言わんばかりに黒枯龍から頭をガジガジされている。普通に出血多量で死ぬからやめろ。
「とはいえ、ダンジョンに入った時はお互い敵意丸出しだったはずなのに、まさかここまで親しくなるとはなぁ」
ま、これも俺の努力の賜物だよな。いや〜、これで暫くは安泰だな〜、良かった良かった〜。
「――って、そうじゃないだろ! アイツらいつになったら助けに来てくれるんだよ! いい加減限界なんだけど!?」
三年間暮らした俺はその身で知った。ダンジョンは人が住む環境としてあまりに終わってる。
空気の通りが悪いせいで常にジメジメしてるし、陽の光なんて一切当たらないし、何より至るところに転がってる冒険者の白骨死体が気味悪くて仕方ない!
「いつか変な呪いにかかって死ぬんじゃないかって震えながら寝てる俺の身にもなってくれよ……」
「アトスなら死霊くらい何体束になってきても簡単に倒せますよね? 何をそんなにビビってるんですか?」
「……あのなヘル、人間の恨み深さを舐めない方がいいぞ。同じゴーストでも人間の怨念で出来たゴーストの方が百倍強いからな。そして今、俺の中でその強力な怨念が生まれつつある」
このまま誰も助けに来なくて寂しく孤独死、ゴーストになってダンジョンの一部になる……ダメだ、可能性として全然有り得るから洒落にすらならない。
「――エイシアー! リプレー! ミディー! あと…………え〜っと……、あ! ウーフェー! 早く助けに来てくれー!」
危ない危ない、色褪せることないとか言っておきながら既に一人記憶から消えかけてた。すまんウーフェ。けどそろそろ来てくれないとホントに記憶から消えるぞ!
忠告も込めてダンジョンの外にまで届ける勢いで声を張り上げると、ヘルが横で耳を塞ぎながらおかしなことを言い出した。
「……そんなに外に出たいなら、自分で出ればいいじゃないですか」
「馬鹿なこと言うな。ここはS級ダンジョンだぞ? そう簡単に脱出出来るわけないだろ。……脱出するにしても、まずはダンジョン内の地形を完璧に把握、それこそ庭みたいに歩き回れるくらいじゃないと」
「……たった今、最短ルートで上層まで上がってきましたよね? 最下層から十分もかかってませんでしたけど」
……あれ?
「言われてみれば……いや、待て! ここには凄腕パーティでも簡単に壊滅するレベルの凶悪モンスターがごろごろいるんだぞ!」
「ついさっきまでその凶悪なモンスターとやらと仲良く手を振りあってたじゃないですか」
…………確かに。
あの時聞いた「助けに来る」という言葉に俺自身が囚われすぎたあまり自分から脱出するという意識が完全に抜け落ちていたが、改めて現状を分析してみるとこれ……出られる要素しかなくないか?
「ダンジョン内の地図作成とモンスターの突破が済んだら、後やることと言えはボスモンスターの攻略だけだが……」
「…………」
「え、何その意味深な視線は?」
「…………別に、何でもありません」
ヘルは一瞬白い肌に赤みをつけたかと思えば、すぐにいつものツンとした態度に戻って目を逸らす。
「……それで、どうするんですか? 脱出、するんですか?」
ダンジョンの主にこんなことを聞かれるのもおかしな話だが、既に俺の中で答えは決まっている。
「――勿論! という訳で、早速脱出するぞ!」
「分かりました。それじゃ準備してきますね」
「おう、分かっ――今なんて言った?」
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