第44話 一方、騎士ウーフェはパーティを募る⑤
「おらぁっ!」
乾いた風に揺られる草木を蹴散らしながら、ウーフェは鋼の大蛇へと躍りかかる。
鋼鱗蛇は目の前に迫ってくる熱源をその目で捉え、鋼鉄に覆われた尻尾をしならせて勢いよく叩きつけた。
――ガキンッ!
火花を散らせながら盾で攻撃を受け流し、カウンターで繰り出したウーフェの剣先が鱗を避けて大蛇の肉を掠め取る。
「はっ! どうだ俺の力は! さっきは調子が悪かっただけで、俺が本気を出せばこれくらい訳ねぇってことだ!」
鋼鱗蛇が首をもたげて毒の息を吐こうとすれば剣を返して斬り上げ、尻尾での薙ぎ払いが来れば予備動作に合わせて躱し、逆にその尻尾を踏み台にして喉を突き刺す。
決して守りを崩さず、一方的に相手をいたぶる自らの戦い方を久方ぶりに思い出したウーフェは愉悦に身を委ねて巨体の周囲を動き回り、舞うようにして幾度も斬撃を繰り返した。
「……ふぅ。お前みたいな脳筋モンスターはやり方を覚えたら終わりなんだよ。これが一流冒険者の戦い方ってやつだ」
まるで魅せるための試合をしているかのように、ウーフェの戦いは確かに華麗さを含んでいた。
だが、こと戦場においてそのようなものは死合う相手の怒りを焚きつけるだけである。それが例え、物言わぬ怪物であったとしても。
――ギシャァァァァァッ!!!
突如、鋼鱗蛇の身体が赤く脈動を始めた。閉じ込めるように伏せていた鱗が逆立ち、蒸気が隙間から激しく噴き出る。
「お? 何だ? 最後に少しでも反抗しようってか?」
ウーフェは最初こそ余裕の笑みを保っていた。これまで主導権を握っていたのが自分であったからこそ、弱った身体で何をしようと無駄だと――そう、思っていた。
次の瞬間、目の前の巨体がウーフェを軸に凄まじい速度でとぐろを解き、死角から鋼の尾を薙ぎ払った。
「――がはぁっ!!?」
偶然そこにあった盾で何とか直撃を避けるが、衝撃は貫通して鎧を軋ませ、肺の奥まで貫いてみせた。
「なっ……バカな! さっきと速度が違う……!」
まるで別の種と思えるその動きは鋭く、荒々しく、明らかに「怒り」が込められていた。
怒りの源はウーフェの見下した態度なのか、はたまた住処の森を焼き払われた悲憤なのか。いずれにしても、鋼鱗蛇の怒りは目の前の獲物に向けるしかない。
締め付け、毒息、薙ぎ払い、体当たり――それが一層勢いを増して次々と襲いかかる。
「――ぐっ……! がっ……! がはっ…………!」
ウーフェは大岩に背をつけ、亀のようにその身を盾の内側に無理くり押し込めることで何とか攻撃を凌ぐ。
『何でだ……! 前はこれくらいのモンスター余裕だったはずなのに……!』
数年に渡る空白。剣を抜かずとも、仲間がモンスターを片付けてくれる甘美で怠惰な日々。そして、傷つけられた名声を意地になって取り戻そうとする浅はかな見栄。
原因は幾らでもある。頭では分かっているはずなのに、肥大化した矜恃がそれを許さない。
「はぁっ、はぁっ…………」
如実に衰えるウーフェを見て、大蛇は待っていたかのように一段と動きを速めた。息を整えさせる暇も与えず、長い体で獲物を絡め取る。
『クソッ…………!』
締め上げられるウーフェの身体。確実に近づく死から逃れようと藻掻く中、ふと月灯りが姿を暗ました。
思わず空を見上げると、そこには曇り夜空に紛れて宙を駆ける翠の影があった。影は月に代わって二対の煌めきを携え、着地と同時に十文字を大蛇の尾へと深く刻み込む。
――キシャァァァァァッ!!?
一拍置いて痛みを自覚した鋼鱗蛇が反射で体を無闇やたらに振り回す。そうして運良く難を逃れたウーフェは尻もちをつき、すぐ近くで血振りする影をただ呆けた顔で見つめていた。
「…………あなたじゃ、ダメ」
冷めきった瞳で足元に転がる男を一瞥するサツキ。直ぐさま意識をモンスター討伐に切り替え、短刀を構えて大蛇へと向かっていく。
『…………助けられた? バカな……この俺が? Cランク程度の奴に…………?』
そうして取り残されたウーフェはあまりの現実に膝をつき、言葉を失うのだった。
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