第35話 容量超過
「あ、アトス…………?」
手を掴まれて僅かに動揺するミディだが、これだけでは彼女の魔法は止まらない。このまま発動を許せば後ろにいるヘルも、発動者であるミディ本人も危険に晒してしまう。
『くそっ、どうする……!?』
識腐の触で溶かそうにも、ここまで規模が大きいと完全に溶かしきる前に魔法が暴発してしまう。
発動させてはいけない、かといってこちらから魔法をどうこうする訳にもいかない。俺は彼女を救うために取れる選択肢を必死に探し出す。
『…………こうなったら、一か八か……!』
俺はミディを止めるべく、彼女の手を握る力を強めてこちらに注意を向かせ――。
「――ミディ、よく聞け! これでも俺が死んでるっていうのか!?」
彼女の手を、自分の胸へと押し当てた。
「……ッ……~ッ!!!」
びくりと身体を震わせるミディ。逃げ出さように、そのまま彼女を胸へと引き寄せる。
ひんやりした感触の肌に、バクバクと鼓動を続ける俺の心臓が熱を伝える。その熱を受け取ったのか、ミディの青ざめていた顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「いい加減目を覚ませ! 俺たちが戦う必要なんてないんだ! ここにいるのは魔王なんかじゃない! 死んでもいない! お前のよく知るアトスなんだ! だから――!」
「ち、近い…………アトス……! あ、あ、頭が、うまく…………」
ミディの目がぐるぐると渦巻き、口は虚を呟くが如くぱくぱくと動き出す。額からは湯気が昇り、足元がどこか覚束なくなる。
――ボスンッ!
やがて容量超過を起こしたのか、ミディは石のように固まって俺の胸に額を預け、そのまま倒れてしまう。魔力の供給を絶たれた魔法も一瞬で霧散した。
「…………あ、あれ? なんか、思ってた展開と違う……」
ミディに心臓の音を聞かせることで「俺が死んでいる」という嘘との矛盾を指摘するのが一応の狙いだったのだが……、予想外な展開で終息する事態に驚きを隠せない。
「ミディ? おーい……」
呼びかけても返事はなく、軽く肩を揺すってみるが硬直したまま微動だにしない。
「……ふへぇ…………」
瞳は開いているのに焦点が合っておらず、まるで魂が抜けたかのようにトロトロ状態のミディ。赤くなった耳と指先の小さな震えが、彼女の内側で起きた爆発を優に物語っていた。
「えぇっと…………大丈夫か? ほら、戻ってこーい……?」
硬直状態のミディを抱き抱えてその場に座らせ、頬を軽くつついてみるが、小さく「……んむぅ」とうわ言のように反応するだけ。「やってしまったか……?」と不安が頭に過った時、後ろで見ていたヘルがこちらへ歩いてきた。
「……無力化成功ですね。意識はあるみたいですし、今なら識腐の触も上手く機能するでしょう」
「そ、そうか……それはよかった…………。ところで……なぁ、ヘル……」
「何ですか?」
「その体から滲み出てる瘴気は、一体どこから湧いて出てきてるんでしょうか……?」
彼女の周囲に満ちる黒い靄。これらは全て俺の身体にあるはずのもので、今のヘルに出せるはずがないのだが……。
「これなら気にしないでください。目の前の光景を見てちょっとイライラ……いえ、私の中で限界を超えて溢れているだけですので。それよりも主人、早く彼女を元に戻してください」
「あ、あぁ……! そうだな!」
俺は再びミディに向き直り、彼女の身体に識腐の触の力を流し込む。すると意識がぼやけ始め、まるで夢を見ているかのような感覚に襲われる。
「頑張ってきてください、主人。……それはそれとして、終わったら話がありますので」
「えっ……!? ちょっと待て、一体何のはな――」
最後に特大の土産を残された俺は不安と恐怖を抱えたまま現実から手を離し、目の前で座り込む少女の心象風景へと向かうのだった。
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