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第34話 限界の先

 ――ドコォォォォォン!!!


 閃光が一つ走る度、森本来の姿が失われていく。地面は爆発の衝撃で抉れ、木々は炎に包まれ倒壊し、火の手が豊かな緑を根絶やしにする。


 最早地獄と化した世界の中心に取り残された俺はヘルを脇に抱えたまま、襲い来る魔法から全力で逃げ続けていた。


「どうするんだよこれ!? お前があんなこと言うから、完全に手が付けられなくなったじゃねぇか!」


「いえ主人(マスター)、これでいいんですよ。彼女を見てください。完全に理性を失っていて……ふふっ、ちょっと面白いですね」


「笑ってる場合か! もっと真面目に考えてくれよ!」


 さっきからヘルがちょくちょく勝ち誇った顔をして暴れ狂うミディに余裕な態度を見せつけているせいで、向こうの殺意と魔法の威力がどんどん増しているのだ。今彼女の魔法を喰らえばタダでは済まないと、本能が叫んでいる。


「――ですから主人(マスター)、これでいいんです」


 何やら考えのありそうなヘルは不安になる俺の目を見ながら言った。


「今の彼女は考えることを止め、本心を剝き出しにして動いている状態です。今ならきっと、彼女の中にある嘘も溶かせるはず……好機(チャンス)ですよ、主人(マスター)


 ヘルからの思わぬ助言に俺は目を丸くした。まさかさっきも挑発も、ミディ(あいつ)を助ける為にわざとしていたのか……?

 

「…………そうか。ありがとな、ヘル。お前が作ってくれた好機(チャンス)、無駄にはしない」


 俺は地面を蹴り、一度距離を離した上でヘルを降ろして真っ向からミディと対峙する。


主人(マスター)、一点だけ忠告を。意識を保った状態で大人しくさせないと……」


「――任せろ。お膳立てはしてもらったからな。ここからは俺の仕事だ」


 俺はひび割れた剣と黒い茨を手にし、彼女(ミディ)に向かって走り出す。


「アトス…………? アトス…………アトス……!!!」


 俺の名を呼ぶ彼女の叫びが雷鳴となり、魔力が紫電を象って奔る。雷撃の束が弓なりに放たれ、空気を幾重にも引き裂いた。


 俺は即座に黒茨を雷の飛んでくる方向に伸ばして相殺し、受け損なったものについては着弾地点を予想して左右に避ける。


 ビリビリとした魔力の残滓が皮膚を焼くが、これしきの痛みで止まれる訳がない。例え直撃していたとしても、この足を止めるつもりはない。


「アトスは……アトスは、私のもの…………! 死んでも、こうして私の為に戻ってきてくれた……! だから、私たちは一緒になるの……!!!」

 

 暴走が止まらないミディは紅潮しながらも青ざめ、絞り出した息を吐き捨てるようにして魔法を唱える。


 火炎、氷結、雷撃による攻撃魔法に加え、更には死霊魔法による死者(アンデッド)モンスター召喚など、彼女との距離が近くなる程その攻撃は激しさを増していく。


「――ミディ!」


 俺はヘルから受け取った分の力も燃やし、一人の限界を超えた速さでひた走った。

 

 最初に障害となる無数の大規模魔法を魔蝕の霧(シャグナ・ヴェイル)で受け止め、防ぎきれない分は痛み覚悟で無視して炸裂する魔法の中を強引に走り抜ける。


 次に死者(アンデッド)たち――おそらく百はくだらない数が一斉に群がってくるので、足を切り落とすなり黒茨で溶かすなりして機動力を削いでそのまま突破する。


「――げほっ……! …………アトス……」


 焦りを感じて足元が疎かになったのか、それとも身体が限界を迎えたのか。ミディは片膝をつき、震える身体を持ち上げながらこちらを見つめる。


 だが次の瞬間、彼女は俺も見たことがない最大規模の魔法陣を繰り出した。魔法陣にはこれまでの魔法とは比べ物にならない量の魔力が結集し、やがてそれは大樹が霞むほど巨大な一本の槍を形成する。


「――バカッ! そんな威力の魔法、今のお前が耐えられる訳ないだろ!」


「…………うん。けど、アトスの力を超えるならこれくらいしないと――ダメ……」


 ミディの顔が青く染まり、口元から僅かに血が滲む。それでも彼女は詠唱を止めない。


 俺は剣を投げ捨て、詠唱を完成させて発動の合図をしようとするミディの手を掴み取った。



 

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