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第32話 甘すぎだった考え

 静まり返る森の中、黒い声がそっと時計の針を動かした。


 さっきまで誰もいなかったはずなのに、いつの間にか迫り来る気配に悪寒が走った俺は勢いよく後ろを振り返る。そこに立っていたのは黒いローブを靡かせ、白い髪を一本口に咥えた一人の少女だった。


「ダメだよ……アトスは、私と一緒じゃないと…………」


「み、ミディ……?」


「ふふ……やっと見つけた、アトス……。やっぱり、アトスっていい匂いがするね……」

 

 土や木の葉で乱れた服装。汗を流し、疲弊しきった表情。それでも瞳は爛々と輝き、こちらを一心に見つめている。


「お前、どうやってここが……? 街からは大分離れたはずなのに……」


「――追跡魔法……。アトスが残していった魔力の匂い、全部辿ってここまで歩いてきた……」


「全部辿った……って、お前あれからずっと魔法で俺のこと追ってきたのか!? 街を出てからもう何十分も経ってるのに!?」


 一応街からの最短経路をノンストップで歩き続ければ、今の時間でもここまで辿り着けはする……が、それはあくまで体への負担を一切考慮しない上での話だ。体力には自信のある俺やモンスターであるヘルとは違い、魔法師(ウィザード)であるミディは決して体が強い訳じゃない。ましてや魔法で追跡しながらの移動となると、身体への負担は計り知れないだろう。

 

「何やってんだお前!? そんなことしたら、すぐに体力も魔力も無くなってぶっ倒れるだろ!?」


「うん……今にも倒れそうだし、私もこういう魔法はあまり好きじゃない。もっと強くて、派手な魔法を撃つ方が気持ちいい…………けどね、アトスを見つけるためだと思えば、こんな地味な苦痛も十分気持ちいいの……♡」


 ミディは途切れ途切れになる乾いた声音を胸の内から溢れる幸福で潤し、足取りを軽くしてこちらに近寄る。


 火力主義者の『壊れた天才』――時に人は、魔力切れの負担を(えつ)とする彼女のことをそう呼んでいる。


「そう言えば……ねぇ、アトス。さっきはやけに楽しそうだったけど、一体何してたの……? ――()()()()()、二人で……」


 深淵よりも暗い瞳に睨まれ、思わず心臓が鼓動を止める。ミディの潤った声は次第に過剰な湿気を生み、辺り一帯の空気をじんわり重くする。


「いや、これは……! えぇと…………」


 ダメだ……! 頭の中で必死に言い訳を考えるが、何を言ったところでヘル(あっち)の惨状を見るだけで全てが水泡に帰してしまう。


「……アトス、せっかくまた会えたのに……どうして逃げようとするの? 私と一緒にいたくないの……? ……もしかして、そこの女と一緒になる為……?」


「何でって、それはお前らが俺のことを魔王とか何とか言って襲ってくるからだろ! お前もそれが目的で俺を追ってきたんじゃないのか!?」


「魔王…………そう言えば、アトスは死んで魔王になって……だから倒さなきゃいけないんだっけ…………?」


 ミディは少し考える素振りを見せると、再び顔を上げてこちらを見る。


「…………やっぱり、私にはそんなことどうだっていい……。アトスと一緒になれれば、それで十分だから……」


「だ、だったら少し話をしよう! 一緒にいるのが目的なら、別に争う必要なんてないだろ! なっ!?」


 俺の目的はあくまでミディと接触し、心の中にある嘘を取り除くこと。それさえ達成出来ればいいのだから、戦闘なんて起こすだけ無駄なのだ。


「…………ダメ。アトスってずる賢いから、ちゃんと動きを止めないとまた逃げられるかもしれない……。せめて手足三本くらい使えなくしとかないと……」


「三本!? お、俺ってそんな信頼ないの……?」


 俺の質問に何の躊躇もなく頷くミディ。普通にショックを受ける裏で、彼女は少し頬を赤くして口を開く。


「――それに、アトスの為だけに覚えた取っておきの魔法があるの……。せっかくだから、見てほしくて……」


「……俺の為だけに覚えた魔法? 何だそれ?」


 予想外の照れた表情と「俺の為だけ」という言葉につい興味を惹かれて普通に尋ねた結果、返ってきた答えはというと……。


「――死霊魔法」


「…………えっ!? お前それっ……! 死体動かすための魔法(やつ)じゃ…………!?」


「うん……。これさえがあれば、私たちずっと一緒にいられるよ……。ずっとずっと、死んでも、いつまでも永遠に…………ふふふふふっ♡」


 この瞬間、俺は思い知らされた。


 狂気を孕んだ彼女(ミディ)相手に生半可な覚悟で解決しようとしていた己の考えが、あまりにも命知らずで――甘すぎだったということを。

 


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