表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/50

第31話 構ってほしかった、だから構った

「……まさか、もう使いこなすなんて……。こと戦闘においてはやっぱりセンス抜群ですね」


「逆だよ。冒険者(これ)しかやってこなかったから、こういう形でしか自分の中に落とし込めないんだよ……っと」


 存外にも素直に褒められたことを照れ臭く感じながら、引き寄せた腐蝕の鞭を大剣に巻き付けて背中へと収める。それを見たヘルが「おぉ〜!」という感嘆の声と一緒に両手をパチパチと叩いた。


「これなら問題なさそうですね。後はお仲間さんに接触して心の中を読み取ってしまえば――あっ、そういえば腐蝕させる対象はちゃんと頭の中で決めておかないと、何でもかんでも溶かしてしまうので気をつけてくださいね?」


「おぉい!? それを早く言えよ!」


 すぐに大剣を取り出し、巻き付けてしまった鞭を剥がす。じゅわじゅわと音を立てていた愛剣は辛うじて形を保っていたが、所々蝕まれて刃が欠けたり穴が空いたりしていた。


「お、俺の剣が………………」


主人(マスター)、これも経験ですよ。剣だけに……ふふっ」


 ヘルは特別驚いた様子もなく、呆気に取られる俺を見て笑みをこぼす。さてはこいつ、こうなると最初から分かってて敢えて止めなかったな……。


「よし、お前にも忘れられない体験をさせてやる。こっちに来い」


「い、嫌です…………」


 後ずさりして逃げようとするヘルを鞭(棘は引っ込めておいた)で捕獲して引っ張り上げる。無論、先程の教訓を活かしてヘルのことを溶かさないように意識しながら。


「お陰様で、お前の力もある程度要領が掴めてきたよ。ありがとな」


「……感謝するなら、拘束を解いてくれませんか……?」


 身をよじりながら懇願するヘル。お前には悪いが、鞭の感覚を覚えるために少しばかり犠牲になってもらおう。


「ヘル、ちゃんと『ごめんなさい』って思ってるか? 思ってるなら許してやるけど」


「も、勿論思ってますよ……えぇ……」


「そっか――なら、確認させてもらおうか」


 そうして俺は縛り上げている鞭の一部を使い、ヘルの体をなぞって体表から内部へと魔力を侵入させ、識腐の触(しきふのしょく)の力を深層へと染み込ませていく。


 そうして彼女の心を捉えると共に、俺の頭の中では他者(ヘル)の思考や感情を写した鏡が生み出された。


 だが――。


『……まぁ、案の定嘘ついてるよな』


 鏡の前には「謝罪」という名の膜――或いは障壁と言うべき物が張られており、奥の鏡面まで目が届かない。


 俺は目の前で邪魔する急拵(きゅうごしら)の障害物を対象として腐蝕の力を差し向けると、それらは容易く崩れ去り、彼女の覆われていた本心が明らかになった……のだが……。


「…………おい」


「…………はい……」


「『構ってほしかった』――って……これだけのために、俺は今剣一本を駄目にしたのか!?」


「だ、だって……! ニブルヘイムを出てからの主人(マスター)、ずっとあの三人のことばっかりじゃないですか……! 向こうもどさくさに紛れて色々美味しい思いをしてるみたいですし、私だって少しくらいは……!」


「いや、だからってもう少しやり方ってものがあるだろ……! ったく…………」


 ここに来て急に女々しい態度を見せるヘル。これも向こうの作戦だと分かってはいるのだが、一概にヘルだけが悪いとは言いきれないのでどうも歯切れが悪くなってしまう。かといって、このまま何もお咎めなしで済ますのもしてやられた感が出て納得がいかない。


「…………分かったよ。そんなに構ってほしいのなら、お前が満足するまで相手してやるよ」


「えっ? 本当ですか!?」


「あぁ……但し――この状態でなら、な?」


「え゙っ……!?」


 鞭で捕縛・拘束されて身動きが取れず、一方的な試合(ワンサイド・ゲーム)と化している現状を再認識したヘルは額に汗をかく。


「あ、さっき約束した『言うことを聞く』ってのもこれでチャラだからな?」


「な!? ズルいですよそんなの! 私は主人(アトス)をおもちゃにするのが好きなのであって、おもちゃにされるのは――!」


「まぁまぁそう遠慮するなって……。さっき三時間は撫でてほしいって言ってたよな……? 練習がてら――思う存分撫でてやるよぉ!」


「――い゙やぁぁぁぁぁ!!! ………………あ゙っ……!」




【〜少年少女お戯れ中〜】




「ふぅ…………こんなもんか」


 ヘルをお願いを聞き、鞭で全身を撫でたり(ほぐ)したりすること数十分。決していかがわしいことはしていない……と、念の為言っておこう。


 痙攣したまま完全に沈黙したヘルを適当に寝かせ、俺は識腐の触(しきふのしょく)で作り出した棘付き鞭――『黒茨(くろいばら)』と名付けたそれを自由に振り回し、すっかり慣れた手つきで回収する。半分仕返しのつもりだったが、予想以上に効果があったみたいだ。

 

「能力の使い方は何となく分かった。後はあいつらを見つけて元に戻すだけだが……エイシア、リプレ、ミディ……今どこにいるんだ?」


 直後、誰もいないはずの森の中――何者かが俺の影を踏み、耳元でそっと囁いた。




 ――私なら、ここだよ…………アトス♡





本作をお読みいただきありがとうございます!

「面白い!」「続きが気になる!」と思ったら下の欄にある☆☆☆☆☆で作品への応援お願いします!


※面白かったら☆5、つまらなかったら☆1くらいの気持ちで気楽にしてもらって大丈夫です!


皆様の応援が作品投稿の励みになりますので、よければ応援のほどよろしくお願いいたします!


※本作はカクヨムでも連載しております。

最新話まで一気見したい方はこちらから是非ご覧ください!


https://kakuyomu.jp/works/16818622172640690368

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ