第31話 構ってほしかった、だから構った
「……まさか、もう使いこなすなんて……。こと戦闘においてはやっぱりセンス抜群ですね」
「逆だよ。冒険者しかやってこなかったから、こういう形でしか自分の中に落とし込めないんだよ……っと」
存外にも素直に褒められたことを照れ臭く感じながら、引き寄せた腐蝕の鞭を大剣に巻き付けて背中へと収める。それを見たヘルが「おぉ〜!」という感嘆の声と一緒に両手をパチパチと叩いた。
「これなら問題なさそうですね。後はお仲間さんに接触して心の中を読み取ってしまえば――あっ、そういえば腐蝕させる対象はちゃんと頭の中で決めておかないと、何でもかんでも溶かしてしまうので気をつけてくださいね?」
「おぉい!? それを早く言えよ!」
すぐに大剣を取り出し、巻き付けてしまった鞭を剥がす。じゅわじゅわと音を立てていた愛剣は辛うじて形を保っていたが、所々蝕まれて刃が欠けたり穴が空いたりしていた。
「お、俺の剣が………………」
「主人、これも経験ですよ。剣だけに……ふふっ」
ヘルは特別驚いた様子もなく、呆気に取られる俺を見て笑みをこぼす。さてはこいつ、こうなると最初から分かってて敢えて止めなかったな……。
「よし、お前にも忘れられない体験をさせてやる。こっちに来い」
「い、嫌です…………」
後ずさりして逃げようとするヘルを鞭(棘は引っ込めておいた)で捕獲して引っ張り上げる。無論、先程の教訓を活かしてヘルのことを溶かさないように意識しながら。
「お陰様で、お前の力もある程度要領が掴めてきたよ。ありがとな」
「……感謝するなら、拘束を解いてくれませんか……?」
身をよじりながら懇願するヘル。お前には悪いが、鞭の感覚を覚えるために少しばかり犠牲になってもらおう。
「ヘル、ちゃんと『ごめんなさい』って思ってるか? 思ってるなら許してやるけど」
「も、勿論思ってますよ……えぇ……」
「そっか――なら、確認させてもらおうか」
そうして俺は縛り上げている鞭の一部を使い、ヘルの体をなぞって体表から内部へと魔力を侵入させ、識腐の触の力を深層へと染み込ませていく。
そうして彼女の心を捉えると共に、俺の頭の中では他者の思考や感情を写した鏡が生み出された。
だが――。
『……まぁ、案の定嘘ついてるよな』
鏡の前には「謝罪」という名の膜――或いは障壁と言うべき物が張られており、奥の鏡面まで目が届かない。
俺は目の前で邪魔する急拵の障害物を対象として腐蝕の力を差し向けると、それらは容易く崩れ去り、彼女の覆われていた本心が明らかになった……のだが……。
「…………おい」
「…………はい……」
「『構ってほしかった』――って……これだけのために、俺は今剣一本を駄目にしたのか!?」
「だ、だって……! ニブルヘイムを出てからの主人、ずっとあの三人のことばっかりじゃないですか……! 向こうもどさくさに紛れて色々美味しい思いをしてるみたいですし、私だって少しくらいは……!」
「いや、だからってもう少しやり方ってものがあるだろ……! ったく…………」
ここに来て急に女々しい態度を見せるヘル。これも向こうの作戦だと分かってはいるのだが、一概にヘルだけが悪いとは言いきれないのでどうも歯切れが悪くなってしまう。かといって、このまま何もお咎めなしで済ますのもしてやられた感が出て納得がいかない。
「…………分かったよ。そんなに構ってほしいのなら、お前が満足するまで相手してやるよ」
「えっ? 本当ですか!?」
「あぁ……但し――この状態でなら、な?」
「え゙っ……!?」
鞭で捕縛・拘束されて身動きが取れず、一方的な試合と化している現状を再認識したヘルは額に汗をかく。
「あ、さっき約束した『言うことを聞く』ってのもこれでチャラだからな?」
「な!? ズルいですよそんなの! 私は主人をおもちゃにするのが好きなのであって、おもちゃにされるのは――!」
「まぁまぁそう遠慮するなって……。さっき三時間は撫でてほしいって言ってたよな……? 練習がてら――思う存分撫でてやるよぉ!」
「――い゙やぁぁぁぁぁ!!! ………………あ゙っ……!」
【〜少年少女お戯れ中〜】
「ふぅ…………こんなもんか」
ヘルをお願いを聞き、鞭で全身を撫でたり解したりすること数十分。決していかがわしいことはしていない……と、念の為言っておこう。
痙攣したまま完全に沈黙したヘルを適当に寝かせ、俺は識腐の触で作り出した棘付き鞭――『黒茨』と名付けたそれを自由に振り回し、すっかり慣れた手つきで回収する。半分仕返しのつもりだったが、予想以上に効果があったみたいだ。
「能力の使い方は何となく分かった。後はあいつらを見つけて元に戻すだけだが……エイシア、リプレ、ミディ……今どこにいるんだ?」
直後、誰もいないはずの森の中――何者かが俺の影を踏み、耳元でそっと囁いた。
――私なら、ここだよ…………アトス♡
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