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第30話 眷属契約

 眷属契約(ファミリア・バインド)。それはボスモンスターのみが所有する権能で、所有者が対象と魔力的な契約を結ぶことによって一方が他方の眷属となる能力である。

 

 眷属になれば魔力や能力の譲渡・共有が可能となるが、契約には「互いの同意」が必須条件であり、強制は不可能。言葉での誓約に加え、契約を証す紋章を刻むことで眷属とする。


 そんな聞くからに異質な能力を知らず知らずの内に、一方的な形で渡されていたと知った俺は――。

 

「いやいや! 俺はあいつらを元に戻せるだけの力があれば十分なんだって! こんな力いらないんだけど!?」


「まぁまぁ、私が持ってても使わないので意味ないですし、これは主人(マスター)が持っててくださいって!」


「嘘つけ! お前これダンジョンのモンスター従えるのに使う能力(やつ)だろ! どさくさに紛れて俺にダンジョンの管理丸投げしようとしやがって……!」


「そ、そんなことないですよ……! 私はただ主人(マスター)にどんどん強くなってほしいだけなんです……!」


 押し付け合うようにして揉みくちゃになりながらヘルの言葉を耳にすると、俺は自身の手がピクリと震えるのを感じた。そして次の瞬間、周囲に漏れ出していた黒い靄が彼女の顔へと覆い被さっていく。


「……識腐の触(しきふのしょく)、だっけか? ちゃんと機能してるみたいで安心したよ……なぁ、ヘル?」


「ちょっ……! 卑怯ですよこんなの!」


「元はお前の力だろうが! どの口が言ってるんだこのっ!」


いひゃい(いたい)! いひゃいでふって(いたいですって)!」


 生意気な口を両側から引き伸ばしていると、ふと手の甲に刻まれた紋章が目に入る。


 思えばこんな紋章がニブルヘイムのモンスターたちに刻まれているところ、俺は一度も見たことがない。ということはこいつ、本当に放し飼い状態で好き勝手させてたってことか……。


 最高難易度ダンジョンの実態が管理人の怠慢(サボり)によって無法地帯と化してただけだったというのはある意味では納得出来るが、攻略する側としては本当に迷惑な話だ……。


「…………取りあえず、今だけはその眷属契約(ファミリア・バインド)? ってのも俺が預かっておく。こんなことで言い争ってる場合じゃないからな……。いいか? あくまで()()()()()()だけだからな!」


「……えぇ、分かりました。では、少しの間だけ預かっていてくださいね。…………あと、いい加減これ退けてもらっていいですか? さっきから視界が悪くて仕方ないんですけど……」


 ヘルが煩わしそうな顔を浮かべながら、顔面を覆う黒い靄を指差す。


「そっか、まだ出っぱなしだったのか。悪い悪い、すぐ回収するから…………って、どうやって戻すんだこれ?」


 勝手に漏れてた靄が勝手に飛んでいっただけだから、俺からすれば退けるも何もないのだけれど……。


「手の甲の紋章に意識を集中すれば、受け取った魔力の流れが分かると思います。後はそれを感じながら操作するだけです。形のない手足だと思えばすぐに慣れますよ」


「操作……っていっても、俺魔法とかそういうのあんまりなんだよな…………」


 言われた通り自分の手足だと思って意識を巡らせてみるが、靄はヘルの目の前でうにょうにょと波を立てるだけ。


「あの……もしかして、わざとやってます?」


「本気でやってこれなんだよ! 悪かったな!」


 くそ……やっぱりこういうのは苦手だ。そもそも「手足だと思え」って言われても、人間に手足なんて二本ずつしかないんだからイメージのしようがないだろうに。


 どうしたものかと頭を悩ませていると、ふと木の影でひっそりと咲く一輪の花が目に入った。茎から生えた無数の棘が外敵を寄せつけないようにして突き出ている。


『……そう言えば昔、合同で依頼を受けたパーティの中にあんな感じの鞭を使う冒険者がいたっけな』


 最初は致命打になりにくいそれの何が良いのか全く分からなかったが、鞭の靱やかかつ強力な打撃と棘による刺突が合わさり、皮膚の柔らかいモンスターには滅法強かった覚えがある。


『確か、太さもちょうどこのくらいだったよな……』


 曖昧な記憶を頼りに紋章へ意識を集中すると、形を持たなかった靄が一本の紐状に纏まり、そこから湾曲した無数の突起が生まれた。


「おっ……! これならイメージしやすいかも……」


 試しに手元へ引き寄せたそれをしならせ、勢いをつけて反対側の木に巻き付ける。棘が幹にしっかりとくい込み、傷口からじわりじわりと腐らせているのが手の甲から伝わってくる。


 そのまま力を込めて締めつけを強くすると腐蝕の進んだ箇所からボロボロと崩れ始め、やがて支えきれなくなった幹は根から捨て去られるようにして地面に倒れ落ちた。




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